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転生少女は召喚士になる  作者: 久浪
一章『異端のパラディン、の従者』
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21 ライナス・メリアーズという人






 当然と言えば当然なのだが、ヴィンセントとライナスは、人となりが全く異なった。

 階級的に遥かに下で、従者であるセナにとって予想外にも接しやすいということは同じだけれど。


「ヴィンセントは真面目だなぁ」

「ライナスさんは真面目じゃないんですか?」

「適度に手は抜く」

「でも、暇な時間が嫌で仕事をするのは真面目の一種だと思います」

「それは俺がヴィンセントの仕事を片付けることによって、ヴィンセントの暇な時間を作って、俺に付き合わせるためだ」


 ライナスが笑い、傍らにあった書類を手にして軽く振る。彼はよく笑う人だ。

 そんなに暇と言うならばと、ライナスはヴィンセントの仕事の一部をすることになっていた。

 そして、今ライナス自身が言ったように、暇な時間が出来ればヴィンセントにちょっかいをかけに来たり、セナに話しかけたりしに来ていた。

 静かに、特に何も動かずに時間を過ごすのがとにかく苦手で出来ないらしい。

 仕事に取り組む姿勢はヴィンセントとそれほど変わりないが、それ以外は纏う雰囲気が正反対だ。静と動。どちらがどちらかなんて、言わなくても誰にだって分かるだろう。


「いっそ同じ部屋ですれば、もっと効率がいいと思うんだがな」


 ヴィンセントが嫌がったのである。別の執務室が用意されているなら、そちらを使えばいい、と。

 とは言え現在、いるのはヴィンセントの執務室だ。

 ここ一ヶ月の魔獣及び魔物の出現の仕方をまとめた資料が見たいとライナスが言ったので、勝手知ったるセナが資料を出した。

 さらに、印をつけた大きな地図がヴィンセントの執務室にあったから、ヴィンセントが席を外しているのをいいことに部屋で見ている。


「しかしセナも従者が板についてるな」


 他に一旦出した地図をライナスの従者と片しているセナは、地図を押し込めながら振り返る。


「ヴィンセントのこれまでの従者具合を知ってるか」

「ぼんやりとだけ」


 以前、少し聞きたくなって、聞き損ねたことを思い出した。


「ヴィンセントさんの従者って、皆さんヴィンセントさんが解雇したんですか」

「そうだ」


 言い方に迷うことのない返答だった。

 資料と地図を確認していたライナスは、そこで顔を上げ、扉の方を見た。誰かが入って来ないことを確認したようだ。


「ヴィンセントはもはや従者をとるべきではない、って思い込んでるところがあってな」

「破魔、だからですか」


 ライナスは深く頷いた。


「セナの様子を見てると、お前がヴィンセントの破魔を特別どうも思っていないことは分かるが、世の中破魔を気にしない人間っていうのは思ったより多くない。破魔と言うより、天使の加護がないことだな。俺はバカらしいって思うけどな、反面で考え方は理解だけは出来なくもない」


 破魔と言えど、魔獣の類いの影響を受け付けないだけでなく、天使の加護を持たない人間の異端者。


「だがヴィンセントの実力は上に認められている。ブラット家のお墨付きがあることは、ヴィンセントを教会に迎い入れることを容易にしただけで、あとはヴィンセントの実力だ。いくら位が高い家出身でも、実力がなければ高い位は与えられない。大体、人間は人間なんだ。存在しているだけで他の人間に悪影響を与える存在であってたまるか」


 は、とライナスは鼻で笑う。破魔を色眼鏡で見る人々を馬鹿馬鹿しいと一蹴するがごとき笑いだ。

 その笑いを引っ込め、彼はコンコンと普段はヴィンセントが使う机を叩いて示して、こう言いもする。


「ヴィンセント自身はそんな周りの視線を客観的に受け止める。俺なら馬鹿かっていう視線を向け返す。思う。だが、ヴィンセントは受け入れ、相手との無干渉を選ぶ。あいつの長所であり、俺とは別の意味で人との関わりが増えない原因でもある。前提として、透明な壁を作ってるみてえなんだよな」


 透明な壁と聞いて、どことなく当初のヴィンセントを思い出した。ああ、何だか分かる気がする。


「その代わりそこを気にしない、そんなこと関係あるかって正面から言うと意外とちょろい」


 ライナスはにやりと笑っていた。


「ちょろいって……」


 ライナスは、遠慮なくと言うと良いが、けっこう邪険にされていることもあるような。ちょっかいかけすぎでは?


「セナがどうヴィンセントに接したかは知らねえが、ヴィンセントを頼むぜ。願わくば、そのまま従者を続けてくれれば俺は友人として嬉しいんだがな。俺も友人なんて言うのは、あいつくらいなんだ」


 さらっとそんなことを言うから。


「お兄ちゃんみたいですね」


 と、セナは言った。

 悪友が悪友のことを頼むようで、言葉だけ聞けばまるで兄のようだ。

 これまでの様子を見ていると、ヴィンセントが知れば、おそらく即座に断るのだろうなと想像できるが。

 ライナスはいつもの調子で大いに笑うかと思いきや、わずかに目を瞠った。

 しかし一瞬で、


「ヴィンセントのか?」


 やはり笑う。


「セナは、兄貴とかいたのか?」

「わたしですか? 兄弟の類いはいたことないです。従兄弟ならいましたけど」


 「そうか」と言ったライナスは、目を細めて、セナを見ていた。

 その眼差しが、いつもの弾けるような笑い方とはかけ離れていて、セナは首を傾げたくなる。


「セナ」

「──はい」

「ここは、悪魔が出てもおかしくない土地だ」


 北の砦。魔界の入り口から、最も近い砦だ。

 元より、魔獣の出現が長く絶えることはないとも聞く。


「頑張れよ」


 ライナスは眼差しと同じ笑い方をした。

 セナの「はい」という返事を聞くと、「って言ってももう頑張ってるか」と、彼はいつもの弾けるような笑い方をした。


「ライナスさんは、悪魔退治に行く道中でここに寄ったんですよね」

「ああ」


 ──「この先の地で、異常現象が起きているらしくてな。周りに影響を及ぼすくらいの上級悪魔が出たかもしれない」

 真偽のほどと、被害状況を確認しに行っている先見隊を待つ場所として、ライナスはここを選んだ。


「ライナスさんたちは、悪魔でも簡単に倒せてしまうんですか?」

「倒せる」


 考える様子もなかった。

 当然のよう──いや、


「パラディンっていうのは、そういうもんだ。悪魔を倒すだけなら、パラディン以下にも出来る奴がいる。パラディンは下位の悪魔なら傷一つ負うことなく、下位でなくとも結局は倒す。倒せる」


 パラディンであるからには当然なのだ。


「あっちが本気で俺達を滅ぼそうと考えるなら、白魔くらい持ってこいって話になるな」


 白魔──とは、分かりやすく教会の階級制度に当てはめて言うと、白金階級の悪魔だ。

 聞くに、セナたちに階級があるように、悪魔にも階級がある。魔獣、魔物含めてではない。悪魔の中だけにだ。

 その中でも白魔とは、二千年前、天使を殺した悪魔と言われている。天使と同じく伝説のごとき存在で、少なくとも天使がいなくなってからの目撃情報はない。

 だが彼らが出てこれば、人間側は滅亡に至るとさえ言われている。


「何だ、辛気くさい顔してるな」

「いえ……一つ気になっているんですけど、いわゆる『名家』と呼ばれている家の人間は、パラディンになるのが当然なのかなぁと……」


 薄々気がつきはじめて。

 ブラット家のヴィンセント、メリアーズ家のライナス。

 そしてマクベス家のエレノアは、まだ新人ながらその地位に就くことを疑わない。


「当然って言えば当然の節があるな」

「やっぱり」


 お父さん……言っておいてくれと思っても、言われていて何が変化したかと言えば、プレッシャーが過去に増えていただけだろうが。


「知らなかったのか。養子ならそういうこともあるか」

「……頑張ろうと思います」

「ほどほどにやれよ」


 現場を経験すれば経験するほど、前に立つ堂々とした背を見るほど、その姿が遠くて仕方がないのだけれど。

 養父に一度、その辺りの考えをきちんと聞いておく必要がある。








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