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転生少女は召喚士になる  作者: 久浪
一章『異端のパラディン、の従者』
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9 パラディンの正体





「そういえば他の家のこととか、パラディンが何人いるかとか、そういうことは細かく教えてもらわなかったなぁ……」


 知っておくに越したことはないだろうけれど、他のこの世で生きるための常識、基礎と、実戦の知識が優先されたようだ。

 もしくは、ガル基準でこれは別にいらないだろうとか。その疑惑があるのが、エベアータ家と同格の他の名家のことだ。

 セナだって、エベアータ家一家だとは思っておらず、他にもあるのだろうとは思っていたが、興味は持たなかったので自業自得である。

 被害は、エレノアに会ったときにマクベス家の者だと言われて、「?」となってしまって、エレノアへの第一印象が悪くなってしまったことか。

 ガルは意外と大雑把だったのだなと知る。


「それよりギンジ、エレノアにああ言った手前だけじゃなくて、本当にどうにか頑張ってもらわないといけないんだけど」

『何がだ』

「時々、ギンジが面倒だってなっちゃったりして、魔獣と戦ってくれるの遅くなること」

『む。お前の身は守っているのだから問題はないだろう』

「今のところはそうなんだけど。その影響が出て、班のどこかに被害が出る可能性はあるから」

『お前自身の身さえ無事なら良かろう』

「わたしだけ、とは言ってられないんだよ」


 確かに、自分の身が無事なことは一番良いことだ。

 だが、セナが召喚士として自分の分の役割を果たさないことで、余波が生まれてしまう可能性は大いにある。

 知っている人が自分のせいで傷つくほど罪悪感を感じることはないだろう。幸いにも、まだそんなことは起こっていないけれど。


『……ふむ、そうか。お前が言うなら次からはいち早く獣をどうにかしよう』


 何と、解決した。

 すんなり次からを約束してくれた猫に、「ありがとう」と言った。

 聖剣士とは異なり、召喚士は直接戦わない。戦ってくれるのは、聖獣だ。


「あ、ここだ」


 廊下の突き当たり。上官によると、ここがパラディンの執務室になっている。

 目の前に一つある扉に手を伸ばし、ノックすると、中から入室を許可する声がした。

 男性の声だ。


「失礼します……」


 小さく、呟くように言いながら中に入ると、ふわっと廊下とは異なるにおいに包まれた。

 一歩中に足を踏み入れ、失礼しますの言葉が消えると共に、


「あ」


 短く音を洩らした。

 扉のノブから手を離すのも忘れて、セナの足が勝手に止まった。

 中には、返事があったのだからもちろん人がいた。声の通り、男性が。

 現パラディンなんて知らないので、どんな人だろうと思っていた。当然見知らぬ人のはずだった、のに。


「君は……」


 相手の方も、ぽつりと言葉を溢した。

 ちらっと上げた感じの目が真っ直ぐにこちらに向けられ、顔も真正面になってセナを見る。


 部屋の中に一人いたのは、少なくとも見知らぬ人ではなかった。

 昨日見た、誰か知らない人ではあった。ただし一度見ると、忘れられない特徴を持った男性だったから、一瞬であの人だと思ったのだ。

 昨日、セナを呼び止め、結局何だったのか誰だったのか、わからなかった人だ。


 互いに制止し、相手を見ること十数秒。

 我に返ったのは相手の方が先で、何用かと問われ、続いてセナもはっとした。

 パラディンの従者となり、ここに向かうよう言われた旨を伝えた、のだが……。


 この人が、パラディン?

 この部屋にいるのだからそうだという可能性しかないが、中途半端に見たことのある人だったから、妙に驚くはめになった。

 記章は白金色。

 新人は自動的に銅始まりで、セナは銅で一番下なのに対し、白金階級は──最高階級だ。

 それだけで、パラディンだと信じるに値する。


 二度目の男性は、改めて見ることになると、ガルとは異なる雰囲気の整った容貌をした人だ。

 渡した辞令書を見ている男性の前で、セナはじっと立って、部屋をきょろきょろするわけにもいかないので、その男性を見ていた。

 歳は二十代半ばくらいか。

 髪は一見黒に見えた紺色。

 目は変わらず、左右色違い。右が黒で、左が青。

 それから、前回は気がつかなかった、目の下にくまがある。

 病的にまで濃くはないけれど、あるなと分かるくらいにはある。

 そのくまのせいで、瞳の色違いが余計に際立っているような、顔立ちが良いからこそ瞳の色が異様に目立っているような……。

 どのみち何より先に目を引かれるのは、左右色違いの目に違いなかった。色違いだというだけで、こんなにも存在感を出すだろうかというくらいなのだ。


「セナ・エベアータ」

「──はい」


 名前を呼ばれて、姿勢を正した。

 しかし、未だ名も知らぬ人は返事を要求したのではなかったよう。


「エベアータ、か」


 独り言の音量で呟き、簡潔な命令しか記されていない紙を見ていた彼は、やっと目を上げた。

 左右色違いの目と、目が合う。


「もう一度確認だが、この辞令書によると俺の従者になることになったと」

「はい」

「なるほど……」


 目が愉快ではない雰囲気で細められる。

 なぜに、このような雰囲気になっているのか、セナには甚だ分からない。

 パラディンの従者になることになって、この部屋に向かうようにと言われて来ただけなのに。

 明らかに、どこかで何かしらの齟齬が生じてしまっているように感じてならない。


「おそらく、これ以上は君に言っても仕方のないことだな。決まったものは決まったもの。ここに来たばかりで、まだ人手がなかったのも事実だ」


 長い指が、紙をひらめかせる。

 紙が、差し出される。


「俺はヴィンセント・ブラット」


 名前だった。やっと名前の分かった人は、「パラディンの一人だ」と付け加えた。

 セナは、その手から辞令書を受け取りながら、とりあえず礼儀的に名乗り返す。


「セナ・エベアータです。今年入ったばかりの新人です」

「知っている。これから君には、俺の仕事の補佐をしてもらう」


 セナの挨拶をさらりと流し、黒と青の目がどこかを見やる。

 どこを、とセナもつられて目だけで視線の先を追う。


「手始めに、そこの報告書からこの北の砦の管轄地での魔獣の出現の頻度を区域ごとにまとめてくれ。そのあとその報告書は処分だ」


 報告書、と示された報告書は、視線をすいーっと上に動かさなければならないほどには多かった。


「基本的に、君には俺の手足になってもらうことになるだろう」












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