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転生少女は召喚士になる  作者: 久浪
四章『行く末』
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14 用件とは






 結局、ベアドの予想通り、精霊に相談したら道を開いてくれることになった。

 最近乱用させている気がする。誰かに怒られないだろうか。精霊の王が何も言わないのであれば、誰が怒るかなんて分からないけど。


「セナ、約束よ、お休みが終わる前にまた帰ってくるの。迎えに行くからっ」

「うん、ありがとうね、エデ」


 休暇中に呼び出したガルに対し、「領主ったら何よ!」と怒っていたエデは、何度目かの念押しをして、精霊の道に引っ込んでいった。

 本当は、セナの用事が終わるまで首都の屋敷で待つと主張していたのだが、例によってノエルに却下されたのだ。


「さてと」


 行こっか、と見た先でベアドとシェーザがまとめて視界に入る。

 現在地は首都のエベアータ家の屋敷だ。向かうは教会なので、着いたばかりの屋敷を出る。

 服装はノアエデンから制服だ。

 ガルから馬車を用意しておくと言われたが、職場に馬車で行くのは落ち着かないので徒歩で行くと断った。立地は良いため、大した距離ではない。


「……やばい、お父さんの執務室どこだっけ」


 立ち入りが制限される区域に入ってから、はたと立ち止まった。

 教会本部のガルの執務室に行ったのは一度きりだ。

 あの日、どういう経路で行ったのだったか。セナは記憶を呼び起こす努力をする。


「えぇっと、ヴィンセントさんの執務室からこっちに戻るところでエデたちが来て、お父さんの執務室に行くことになったから……」


 これではヴィンセントの執務室に行くところから始めなければならない。

 明らかに無駄極まりないと分かりきっていたので、その前に他の手段を探ることにした。


「シェーザ、道覚えてない……?」

『どの道だ』


 相変わらず小さな猫のままポケットの中に入っているシェーザが猫の頭を出した。


「お父さんの執務室への道。ノアエデンに帰った日なんだけど、ヴィンセントさんの執務室の後に向かったところ」

『私はポケットに入っていたから知らない』

「確かに」


 さらっと望みを裏切られたが、がっかりより納得した。確かに。


「あっ、ベアド」

『何だ?』


 道中目立つので、屋敷を出たときから姿を消していたベアドが、セナの呼びかけにどこからともなく出てきた。


「ベアドなら、お父さんの執務室への道分かるよね」


 何しろ彼の契約獣だ。知らないはずがない。

 ガルがいつからあの執務室にいるかは分からないが、何年単位であるはずだ。


『道は覚えてないが、ガルがいるところに行けばいいんだな?』

「うん」


 知らないはずがないと思ったら、道は覚えていないと言うではないか。

 そもそも聖獣は聖獣独自の道があり、セナが辿りたいのは所謂人間の道だ。契約によって、視界が共有できたり、離れていても意志疎通できたりするのだ。場所も分かるとなると、ガルの元へ行くのに道を覚える必要はない……ということだろうか。


『……?』

「どうかした?」


 ベアドが首を傾げたから、セナも首を傾げた。


『ガル……?』

「お父さんいないの?」

『いや、ガルはいる』

「うん?」

『うん、まあ行くか。こっちだぞ』


 ベアドが歩き始めた。セナは内心また首を傾げつつも、ついていく。

 ゆらりゆらりと前で揺れる尻尾を視界に、この聖獣とも話をしなければならないのだと考える。

 ベアドとの契約について。

 ガルも交えて話すべきなのかと思ったため、まだ改めて話す機会が得られていない。北の砦にはガルは戻って来なかったし、こちらに戻ってきたら精霊との話があった。

 ベアドが何も言わないのに甘えて、日が伸びていくばかりだ。ガルに今日相談できるだろうか。


「……あれ、その前にシェーザって戦っていいのかな」

『ん?』

「うん。今まで通り側にいてもらうのは召還獣で通すとして、……力の種類は本来異なるわけでしょ?」


 後半の声を潜めて、ポケットに向かって囁いた。

 白魔は白魔だと分かる力の質があるはずだ。

 炎火の白魔のときで言うと、聖獣たちはその場に白魔がいた、白魔の力だと事前に分かっていたのだから。


『何を今さら。聖獣は気づかない。悪魔側は気がつく前に消す』

「言い方がすごい物騒」


 やってもらっていることはそうなのだが。


『大体、私が力を微塵も奮えなければ私がお前の側にいる本質を何とする』


 心なしか、猫の眼光が鋭くなる。

 落ち着いて、落ち着いて、と慌てて猫の頭に被せるように掌で撫でたのは反射である。

 そうしながらも、まあ言われてみればそうなのだとまた一つ納得する。それ込みで契約を交わしたようなものなのかもしれない。

 「そうだね」と言って、一応ガルに相談だけしておこうと思う。


『どうした?』


 話し声が耳に入ったのだろう、前を行く獣が振り返った。

 セナは話が一区切りついたので、何でもないよと言おうとしたが、少し話しておこうかと言おうとしていたことを変えることにした。


「ベアドとの契約の話のこと考えてて」


 あの契約の話の発端は、セナの召還獣がいない状態だからということだった。

 ベアドは『あー』と言った。

 そんな話があったな、という風に。


『セナの側にずっといたから、忘れてた』


 ベアド、意図して黙っていたんじゃなくて忘れてたのか。

 そんな話があったなという風にではなく、完全にそうだった。


「あれってわたしの召還獣がいなくなったからっていう前提での話だったでしょ?」

『それと、セナの身の安全の話だな』


 ベアドの目がポケットから顔を出しているシェーザを見た。


『セナは、あれから考えてくれたか?』


 セナは返事を保留にしていた。

 この聖獣の思いに自分が相応しいのか分からなかったからだ。

 だけれど今、セナは少し考え、自分の考えを今一度確かめ直してから頷く。


「お父さんが良くて、ベアドがいいならわたしが拒む理由はないよ」


 自分の正体を得た。

 自分は、聖獣が最も守りたいと願う魂を持っている。人間として生活していようと、幾つかの現象が示したように純粋な人ではない。

 ベアドが推測を示し、白魔が肯定し、天使が認めた。ならば信じるしかないのだ。

 白魔が先になったが、魂を守りたいと言う白魔を受け入れ、聖獣を受け入れない理由はない。


『そっか』


 ベアドは嬉しそうにしっぽをぴんとして、気のせいか足取りをより軽やかに歩いていく。

 しかし、ベアドと契約したとして、シェーザと仲良くやっていけるだろうか。

 ポケットを見下ろすと、ポケットに引っ込もうとしていたシェーザが気がついて、『何だ?』と言った。

 これまでのやり取りからでは、その一点のみ不安として残る。


 ガルの執務室に着くと、扉の脇に衛兵はおらずシャリオンが立っていた。

 シャリオンが扉が開いてくれると、室内にいたガルがセナの姿を認めて、執務机の向こうで立ち上がった。


「休暇中にすみませんね」

「ううん。精霊が道を開いてくれたから、全然」


 楽なものだった。


「それより、何の用?」


 ベアドにも教えない、休暇中指定なのに教会に、とは何の用なのか純粋に疑問だ。

 早速尋ねつつ部屋の中に入ったセナだったが、違和感に気がつき後ろを振り向く。


「……ベアド?」


 斜め前にベアドが前から消え、しかし姿自体を消したのではなく、部屋の外に立ち止まったままだった。


「ベアドは少し、気がついているようですね」


 何に?


「ベアド、とりあえず入ってください」


 扉は閉めておきたいので、と促してベアドが室内に入ってくる。


「あまり時間をかけるわけにはいかないため、早速本題に入ります。セナに休暇中に来て欲しかったのは、彼女が会いたいと言ったからです」


 セナが顔を前に戻すと、ガルが隣の部屋に繋がる扉を開いたところだった。

 そこから靴と脚が出てきた。一歩、二歩、まるで重力を感じさせない歩き方だと思った。そして、


「あ」


 出てきたのは、一人の少女だった。

 天使の魂をその身に降ろされた少女だ。

 メリアーズ家の一件で会ったきりだった。保護されていただろうが、以降彼女の身がどうなったかは分からなかった。

 彼女の背には翼があった。

 合った目は、天使のものだった。


「『また会えましたね』」


 複数の声が重なったようではなく、一つの声が響く。

 『彼女』だ。

 誘拐された先で会った天使だ。

 複数の魂が混ざっていまっているという内のひとりの天使で、確か名前は。シェーザが呼んでいたのは、


『グラン、ディーナ……?』


 グランディーナ。その通り。

 しかしセナが口にしたのではなく、ポケットからの声でもない。

 傍らで、天使の名前を呼んだのはベアドだった。

 聖獣の目は見開かれ、固まっている。こんなベアドは初めて見た。

 

「知ってる天使?」

『知ってるも、何も』


 前方に釘付けになった目と同じ声を、獣は出した。

 信じられないものを目にし、前にした声だ。


『俺が最も側にいた天使だ』


 人間の少女の姿をした天使が、白い獣を見て微笑んだ。







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