0 そうなんだけど、そうじゃない
中本千奈は虚弱だった。
欲しいものは、健康で、冬でも外で元気に走り回れる体。雪が舞う景色を窓の外に見ながら、ずっとそう思っていた。
犬がわんわんと走り回り、遊びに来ている従兄弟の雪合戦の楽しそうな声がこだまする庭と、
猫が足元で丸まっているベッドの上にいる自分との間に、窓ガラス一枚以上の隔たりを感じていた。
防弾ガラスでも足りないくらいの隔たりを。
いや、防弾ガラスが普通のガラスより分厚いものなのか、それとも質から違うのかは知らないけれど。
「外は寒いから、中で温かくしてた方がいいに決まってる……ねえ、ギンジ」
小さな猫は、にゃあと高く、可愛らしい声で鳴いた。
「ギンジはあったかいね」
そう言いながらもいつも、小さな猫を撫でて、外を見ていた。
本当は雪の中でも、いくら寒くても、走り回りたかった。そんな丈夫な体が欲しかったから。
そうとも。確かに頑丈な体が欲しいと思っていた。寒くても風邪一つ引かないような体を手にいれたいと思っていた。
だけれど、それは過酷な環境に耐えたいということではなかったのだ。あくまで、例えば外に雪が降ったら、兄弟従たちを眺めているだけじゃなくて、一緒に遊びたいなという望みの表れだったというだけであって。
「こういう環境になっても大丈夫とかいうサバイバル感溢れる気持ちで望んでたわけじゃないんだけど……!」
声には、にゃあという声は返ってこず、寂しく雪の中に消えていった。
かつて側にいてくれた猫はいない。そればかりか家族もいないし、温かいベッドも家もない。
──神様、わたしが何をしたって言うんですか。
万年ベッドの上で、海水浴もしたことがなければ、海で皆の荷物番をしたことさえない。スキーをしたこともなければ、庭で雪合戦をしたことさえない。
日光に当てられても、雨に降られても、雪に降られても即刻体調を崩すようなスーパー虚弱体質で過ごしてきて、結局それで人生を終えたというのに、何の冗談なんですか。
ねえ、神様!!
神様の仕業であると言うのなら、神様とやらに心底尋ねたい。
一体全体、どういうつもりで──死んだはずの人間を、こんな環境に放り込んだんだ!
「元気な体は嬉しいといえば嬉しい、けど、さっっむい!!」
寒いものは寒い。
苦しくないことは素晴らしい。
中本千奈、元十七才。
地面も木も真っ白な森の中。こんな雪の中でもくしゃみをしない体を得たらしい。
喜ぶには、正直状況が分からなさすぎて、環境も良くなかった。




