観光バスの窓
ひだまり童話館「もじゃもじゃな話」参加作品です
冬のある日、みっちゃんが幼稚園に行く途中で、信号待ちのバスを見つけました。
「あ、はげがいっぱい」
みっちゃんには、悪気なんてありません。見たままを口にしました。手をつないでいたお母さんはびっくりしました。だって、ハゲなんて言われていい気持ちのする人はなかなかいませんから。
でも、確かに観光バスの窓のひとつひとつには禿げ頭のおじいさんたちが並んでいて、みっちゃんが思わず「はげ」と言ってしまった気持ちもよくわかりました。
信号を渡るとき、お母さんは観光バスの前についている札を見てさらにびっくりしました。
なぜって、その札には『もじゃもじゃ様ご一行』と書いてあったからです。
お母さんは笑って言いました。
「みっちゃん、あのバスはもじゃもじゃさんたちが乗ってるんだって」
「もじゃもじゃってなあに?」
さあ、お母さんは困りました。
ハゲの反対なんて言ったら、それこそおじいさんたちに失礼ですよね。お母さんはよく考えてみっちゃんに教えました。
「もじゃもじゃっていうのは、細い糸とかがくしゃくしゃって絡まったりふわふわになってることよ」
「ふうん」
みっちゃんが信号を渡り、車の信号が青になると観光バスはスーっと通り過ぎていきました。みっちゃんは、もじゃもじゃはいったい何のことかしら?とちょっと疑問に思ったまま幼稚園に行きました。
ところが、その観光バスはなんと幼稚園へ到着していました。みっちゃんよりも一足先に幼稚園に着いていて、バスの中からおじいさんたちがぞろぞろと降りてくるのを見て、みっちゃんは“もじゃもじゃ”がどんなことなのかを知りました。
なんと、降りてきたおじいさんたちはみんな、赤い帽子に赤い洋服。白い大きな袋を持っているサンタクロースだったのです。
そしておじいさんたちの口の周りには、白いひげがもじゃもじゃと生えていました。
「ママ、もじゃもじゃってサンタさんのことだったのね」
「え?ええ、そ、そうね」
「サンタさんはバスで幼稚園に来るのね!」
「え、ええ……」
サンタさんはもじゃもじゃさん。みっちゃんはクリスマスが来て大喜びでした。