34.二問目の解
洋介が筑波ホビークラブに戻ると、愛は忙しく受付業務をこなしていた。
「ただいま、愛ちゃん。土曜日に外出なんかして申し訳ありませんでしたね」
「あら、お帰りなさい。そのお顔からすると、何か収穫があったようですね」
「分かりますか?」
「洋介さんの表情は、誰が見ても大体のことなら直ぐに分かってしまいますわ」
「そうですかね。とにかく、愛ちゃんのアドバイスのお蔭で、今まで分からなかったことが随分と分かるようになりました。本当に有難うございました」
「それは良かったですね」
そう言うと、愛は受付に来た会員へ応対し始めた。洋介は愛の仕事が一段落するまでその場でじっと待った。数人の会員の受付作業が済み、愛の手が空いたところで洋介が愛に訊いた。
「愛ちゃん、帰ってきたばかりで恐縮なんですけど、今日の収穫に関していろいろと考えておかなければならないんです。忙しいのに申し訳ありませんが、もう少し受付業務をお任せしてもいいですか?」
「私がダメと言っても洋介さんは必ずお籠りを始めるんですよね。だから、どうぞお籠りください」
「本当にいつも済みません」
ぺこりと頭を下げた後、洋介はそのまま東の外れの部屋に直行した。椅子に座ると直ぐにパソコンで地図を開き、一所懸命考えた。
「間違いないな」
そう呟くと洋介は鹿子木に電話した。
その晩、鹿子木は当たり前のような顔をして筑波ホビークラブの受付の中にいきなり入ってきた。
「神尾さん、また何か分かったようですね」
鹿子木は嬉しそうにそう言い、勧められてもいないのに椅子を引っ張り出して洋介の正面に座った。
「そうなんです。今日私は関東鉄道常総線に乗って、筑波山の形を見てきたのです」
「常総線ですか。また何で?」
「難関であった『鳥羽の湖を由来とする駅』に関するヒントが発見できないかな、と思いましてね」
「それがどこであるのか、分かったということですね?」
「そうなんです」
洋介はその日の出来事を鹿子木に詳しく説明し、何枚か撮った写真も見せた後、『騰波ノ江』という文字を紙に書いて見せた。
「あっ、そうだ。確かに常総線に『騰波ノ江』という駅がありました。最初に資料の受け渡しがあった場所も特定できたし、これで二番目の問題も解けそうですね」
「鹿子木さん、この地図を見てください」
洋介はそう言うと、予め受付の内側のカウンターの上に用意しておいたパソコンで地図画面を開き、それを使って説明を始めた。
「『坊主を前にして男と女とが完全に重なり合って一つに見え、さらに鳥羽の湖を由来とする駅』が『騰波ノ江駅』のことですから、地図の上ではこの位置になります。ここと男体山の山頂とを結んだ距離と同じ距離を北に伸ばし、その近くにある『出産で頼る場所』がどこかということになります。地図上で指示された場所には、『雨引観音』があるのです。ここは六世紀末に開かれた、厄除、延命、安産、子育ての霊験あらたかな名刹だそうです。皇室の方々への安産祈願や安産守の捧呈で有名だそうですよ」
「そうすると、『出産で頼る場所』とは、『雨引観音』ということになる訳か。凄いですよ、神尾さん。『出産で頼る場所と女とを結んだ線の中点にある白壁の上』とは、『雨引観音』と女体山との真ん中に当たるあの事件現場の白い崖の上、ということになる訳ですね。犯人と思われる『ブロックバスター』が出した二つの問題は完全に解けたわけですよ」
鹿子木は最後の一番美味しい所を、あたかも全て自分自身で解いたかのように自慢そうに言った。洋介は微笑みながら頷くと、真顔になって鹿子木に言った。
「それで、鹿子木さんにはお願いしたいことがあるのです」
「何ですか、お願いしたいことって?」
「あの崖の木に引っかかっていた白い手袋について徹底的に調べていただきたいのです。アルカロイドを検出した時は、手袋の一部を袋から出してアルコール抽出しただけで、その他の部分の付着物については、鑑識での検討は行っていないのでしょう?」
「はい、おっしゃる通りです。これだけの情報が揃えば、もう鑑識でも嫌とは言わないでしょう。早速署に帰って頼んでみます」
「よろしくお願いします」
洋介は鹿子木に向かって頭を下げた。鹿子木は浮かした状態の腰のまま頷くと、走るようにして駐車場に向かった。




