入学式へ
なんだか懐かしい夢を見た。
嬉しくもあり、悲しくもある夢。
何かの拍子に目が覚めたが、部屋はまだ暗い。
雨が降っている音がする。
天気が悪いから暗いのかもと思い、手探りで枕もとのスマホを探し当てる。
ボタンに触れロック画面で時刻を確認する。
04:43
まだまだ起きるには早い時刻だ。
「今日から高校生か。」
そっとつぶやき、二度寝した。
”ブブー、ブブー、ブブー”
アラームの音で目が覚めた。
まだまだ、ごろごろしたいが、準備しなくては。
真新しいブレザーの制服に着替え、居間へ向かう。
「おはよう~。」
親父に声をかけると軽く手を上げてきた。
どうやら携帯電話で話している途中のようだ。
おっ、受話器を押さえた。
「竜也、今日、杉山さんのお父さんが一緒に学校まで送ってくれるって、いいよな?」
みうの親父さんか、全然問題ない。
「OK!」
親指を上げて合図する。
「ではお願いします。」
「こんな天気なので助かります。」
みうのお父さんかぁ。小学校くらいまではよくテニスを教えてくれてたけど、会うのは久しぶりだなとちょっと楽しみだった。
楽しみといえば、みうの制服姿も楽しみだ。賢吾より早く見られることに軽い優越感を感じて笑みが溢れる。
「なんだニヤニヤして、そんなに朝からみうちゃんに会えるのが楽しみなのか?」
親父に笑われた。
手早くトーストで朝食を済ませ、支度をする。ついでに親父のネクタイも直してやった。
ピンポーン
呼び鈴が鳴る。
「たっくーん、着いたよー」
元気で明るい声だ。
「ちょっと、待ってて」
声を先にかけてから玄関に行き、ドアを開けると、みうが居た。
サラサラなロングヘア、ちょっと日に焼けた健康的な肌、真新しい制服を身にまとったメリハリのある体つき、初めて見る高校の制服姿にドギマギする。
「どお?可愛いっしょ??」
その場でくるりと一回転してくれた。
「うんうん、可愛い、可愛い。」
俺が話す前に、親父にセリフを取られた。
「おじさんありがとー」
「たっくんのブレザー姿も新鮮だね。中学は学ランだったし。」
そんな話をしながら傘をさし車に向かう。
「おめでとうございます。今日はお願いします。」
挨拶をして車の後部座席、3列シートの奥に座ると隣に親父も座って出発だ。
親父は運転席のみうの両親と会話し、俺は前の席のみうと会話する。
あれ??高校に行くなら右折する交差点を直進したような??
俺が不審に思ったのを、すぐに気がついたようだ。
「そうそう、高校行く前にもう一ヶ所寄る所があるからねー。」
「どこ?」
「内緒〜、いい所だよ〜。」
みうの両親と俺の親父も笑っているような。
何かをたくらんでいるのか。
やがて自動車は、隣駅にほど近いマンションの前に停車した。