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悪役令嬢は攻略出来ますか?  作者: シラサチ
2/2

2話

すいません、プロットを練り直していたら遅くなりました。

 イルハト王国、北西。山から流れる川水が肥沃な大地を生み出す王国有数の穀倉地帯。その北西地帯の東部にイェリング家、つまりはマリアの養父であるカール・フォン・イェリング男爵の邸宅がある。

 シラサチの設定によると、マリアは元々イェリング家の人間ではなかった。元は中央貴族にして前宰相フリードリヒの娘、それが家督争いから逃げるように遠縁のイェリング家に預けられたということになっている。全く、我が養父ながらとんでもない爆弾を抱え込んだものだ……まぁ、15歳までに処分してしまうという手段はあるのだが。

 ……いや、流石にふざけている場合ではないか。転生早々なんですが、のっけから詰みそうです。

 

 「……どうすんの、この状況」

 

 机に突っ伏した私をメイドが遠巻きに見ているが、そんなことを気にしている場合ではない。時間が、全く足りていないのだよ。

 

 ※

 

 私の意識にマリアの人格が掻き消されてから一ヶ月が経った。その間に解った事と言えば……

 

 ・マリア、10しゃい。

 ・学園イベント開始、15しゃい。

 ・永遠の15しゃいまで後4年半……

 

 (ふざけるなよ……時間が圧倒的に足りないわよコンチクショウ……)

 

 シンデレラの下克上ストーリーは読んでいて痛快で、シラサチもその典型だ。中央・上級貴族の通う学園に突如入学したヒロイン。類い稀な美貌と優しさで王子の心を射止める身分違いの恋。恋はやがて燃え上がり愛する二人は結婚……残念ながら私の母はそんな話を純粋に信じるよう私を育てなかった。文句は製造物責任法に基づき母に言って欲しい。きっと責任をとって妹の躾がより一層苛烈さを増すことだろう。というか結婚までの障害をはしょりすぎだ。

 

 まず王子、或いはメインキャラと恋に落ちる。これは破滅エンドだから論外だとして、じゃあ王子たちと関わらなければいいのことだと思う……が、これも悪手に他ならない。

 確かにマリアの血筋はいい。しかし後ろ楯となると、辛うじて中級貴族のラインに指一本でしがみついているイェリング家しかない。そんな状態で上級貴族・王族の子息子女がうじゃうじゃいる学園に入るなど自殺以外の何ものでもない。

 なら第二の選択肢、入学しないという選択はどうだろうか。方針としては悪くない。王都の学園からの招聘を断れるならという条件は付くが……断れば恐らくペナルティが課される。地方の男爵家など一瞬で吹き飛ぶだろう。

 

 (考えるに原作でマリアが生き残れたのはⅰ王子の寵愛ⅱ人畜無害性ⅲいなくなっても困らないという条件が重なったからか)

 

 要するに多少のプライドを抑えて笑顔で接してやれば、絶対に噛みつかない緊急時の避雷針が手に入ったからだろう。原作でマリアが純朴と評されたのは恐らくこの所以だろう。

 

 「つまりだ……強力な後ろ楯を見つけるか私自身が確固たる立場を手に入れさえすればいいだけの話だ!」

 

 いける!数多の先人の例に漏れず転生前のチート知識を活用すればいけるさ!諦めたらそこで試合終了なんだよ!

 急にケタケタ笑い出したかと思ったら、ゾンビの如く起き上がった私を最近雇われたメイドのベルが引き吊った笑みで見ているが無視。そう、この絶望的な状況でなんと活路が見えたのだから!

  

 ……さて、そろそろ現実逃避はやめよう。正直、学園云々の話ならまだ何とかなった。転生チートをするまでもなく、失踪するなり死を偽装するなりやりようは幾らでもある。

 もう一度、現在の状況を確認しよう。イェリング家があるのは北西の端。王国有数の穀倉地帯だけあって、食糧難に見舞われたことは殆ど無い。

 さて、このイェリング領を出て更に北西に進みますと我らが愛しのアンナちゃんのお家が見えてきます。今日も今日とてワーウルフの大群と戯れるディアナさんちのお庭には幾つもの死体と死骸が散乱していまして、この惨状をアンナのお父さんはいつも困った顔で見ています……一体王都のお偉いさんはいつになったら手伝いに来てくれるのだろうと。

 

 北方戦線。既に三千人近い死傷者を出している王国史上最悪の戦争が迫ってさえいる状況においては、後ろ楯を探し出す余裕など無い。

 

 ※

 

 夕方になって、北方戦線の視察に向かっていた親父様が帰って来られた。

 

 「ただいま、マリア。良い子にしてたかい?」

 「はい、王族への不満が目立つようになってきましたが今のところ暴動の兆しは見られません。まだ良い子の範疇だと思います」

 「いや、そうではなくて……」

 「?」

 

 (違ったのか?てっきり留守にしている間の心配かと思ったのだけど)

 

 私が不思議そうな顔をしていると、親父様は溜め息をついて視察の結果を報告して下さった。

 

 「ディアナ侯爵の話によると戦局は悪くないらしい。魔物は単純に行進してくるだけで後逸さへ出さなければ戦線を後退させる必要は無いらしい……私には何が何だかさっぱりだが」

 「なるほど」

 「マリアは解るのかい?」

 「いえ、全く」

 

 解らないこともない。要するに戦局は悪くなくても状況は最悪ということだ。

 私の傍に控えているベル。元はクラリアス伯爵家に遣えていたメイドだが、北部防衛戦の折りにクラリアス家が滅んだのでイェリング家が迎えることになった。北部御三家の一角が物量以外取り柄の無い相手に滅んだ……最悪極まり無い。

 なのにどういう了見か王都は未だ援軍を出さないでいる。こんな状況で領民の不満を爆発させるなど論外なので領主代理権により、応急措置として民族主義的な言論以外の取り締まりを止めた。取り合えずこれで不満の矛先は多少逸らせる筈だが……所詮は応急措置でしかない。

 とにかく、今は目の前に迫った戦禍を抑え込まないと原作に辿り着くことさえ不可能。幸い中央に勤めている兄様がそろそろ帰ってくるので中央の様子も解りそう。解りそうなんだが……シラサチの裏設定からして絶対に面倒臭そうなことになっている。

 

 

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