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悪役令嬢は攻略出来ますか?  作者: シラサチ
1/2

1話

・とあるゲームの概要




 むかーし、むかし。この世界ではないどこかの国であったお話です。その国は元々一人の統治者が治める国ではありませんでした。幾年もの月日をかけ、国同士が併合、時には分裂しながら今の形になったのです。北に長い国土はその名残、国民は貧しいながらも穏やかな生活を送っていました。


 そんなある日のことです。一人の少女が王国の学舎、スカルノ学院へ入学を許可されました。少女は貴族の令嬢とは名ばかりの田舎貴族の末子、対して学院は由緒も歴史もある上級貴族御用達の学校です。容姿以外、取り立てて特徴の無い少女の入学に、最初は誰もが首を傾げました。しかし持ち前の明るさ、人を慈しむ優しさ故に少女は直ぐに皆に受け入れられ、いつしか彼女ことマリアは国の王子と恋に落ちてしまいました。


 無論、それを妬む者もいました。その一人、アンナ・フォン・ディアナは何を隠そう王子の元婚約者だったのです。彼女もまた美しい容姿でしたが生来の気性の荒さ、残酷さ故に王子から早々に見切られていたのです。


 マリアと王子の結婚を許せないアンナは数々の嫌がらせをマリアや、その友人にさえ行い、終いには国そのものを帝国へ売り渡そうとしたのです。しかし、マリアの活躍によりアンナの計画は白日の下に晒されました。アンナは反逆罪により処刑、ギロチンにかけられました。


 アンナの手から国を救ったマリアは救国の母として王子に迎えられ、愛する二人は結婚、皆から祝福されながら学園を卒業しました。もう国を揺るがす不忠者はいません。こうして、王国はめでたく滅びましたとさ。めでたし、めでたし……




 


 ( ; ゜Д゜)?




 


 というのが、私が最後までこのゲームをプレイした上での感想だ。最初は何かの間違いかと思った。華やかなスタッフロールが流れ、バックにはハイネ王子とマリアちゃんが幸せそうに笑っている。一見すればありふれた乙女ゲームのエンディングに見える。


 ただ、何事にも裏が有るように、このゲームにも裏設定が存在する。『知らぬが幸』ことシラサチの場合、クリア後のタイトル画面に『アンナの日記』というアーカイブが現れ、そこから裏設定が閲覧出来る。そして、シラサチの場合、もはや裏設定どころの話ではなかった。




 ・王国は長年、魔王軍からの侵略に喘いでいた。


 ・アンナの父は既に戦死しており、彼女は辺境伯として国防の重責を背負っていた。


 ・戦略家として類い稀な才を有していたアンナの活躍により王国は辛うじて持ちこたえていた。


 ・そのせいで王族達は現状を正しく認識することが出来なかった。




 出るわ出るわの裏設定、それも後半に行くにつれページが血で汚れていくというおまけ付き。横で一緒にプレイしていた妹もあんぐりと口を開けていた。完全に別の話じゃないか。


 その後もアンナちゃんの日記は続く。曰く、私の故郷が火に焼かれ、領民が餓えにのたうち回っているとき、王子様はノブリス・オブリージュを得意気に語っていた。曰く、やっと重い腰を上げたかと思えば能天気に学園行事に充実していた。曰く、必死の覚悟で港を取り返したとき、王子は派閥争いに勤しんでいた……


 もはや見るに耐えない内容だが、最終ページ――つまりアンナちゃんが処刑される前日。アンナちゃんは牢獄の中で一人、血文字で想いを綴っていた。




 『お前達のせいだ。お前達が余計なことをしなければ王国は帝国の属国として生き永らえる道もあったのに』


 『お前達さえいなければ愛する国を、故郷を、領民を焼かずに済んだのに』


 『お前達さえいなければ、私は……売国奴の汚名を着ずに済んだのに』




 ……うん。これ、乙女ゲームじゃないだろ。イケメンは沢山いるし、他にも第二王子や宰相の息子と結ばれるルートもあるからジャンル的に乙女ゲームに分類されるのだろうけど。でもね、悪役令嬢ことアンナちゃんが唯一の救いってどういうこと。しかもそのアンナちゃんはどのルートでも救われないという……


 事前情報の段階では結構人気があった。有名イラストレーターの名前が幾つもあったり、PVのBGMもかなり期待出来るものだった。肝心のストーリーも在り来たりでは在るものの陳腐ではなく、中世の細やかな生活も描かれていて完成度は非常に高かった。なのに……アンナちゃんの生首よ。


 結果、王子派と宰相の息子派で揺れていたファン達の醜い争いが発売一週間で終結。イケメンと恋したいというチャラついた理由でシラサチをプレイする者はいなくなった。いてたまるか。


 かくいう私の妹も、最初は嫌っていたアンナちゃんルートを探すべく、泣きじゃくりながらシラサチをやっていた。曰く「私は国を憂えたが故に破滅した一人の少女を救うべくシラサチをプレイしている」とのこと。早い話が、アンナちゃんルートがあるかも知れないという一縷の望みにしがみついていた訳だが、自称オトゲーにそんなものが有る筈もなく。妹は大言壮語の付けを自らの成績で払うことになった。お母様から頬に戴いた紅葉は勲章らしい。大丈夫か?




 さて、そんな訳で巷では大変(不)人気なシラサチだが、この度パッチが入ることになった。内容は、アンナちゃんルートの追加……ファンは狂喜した。やっとアンナちゃんが生きることの出来る世界線に辿り着けたと。かくいう私も狂喜した。届いたパッチをパソコンに入れ、さあ、妹にネタバレしてやろうと思った矢先……心不全のため私は死んだ。


 ……繰り返す。私は死んだ。百歩譲ってそれはいい。人はいずれ死ぬのだから、そんなことで神様に文句なんて言いやしない。つまり、私は神様に『転生したい』だの何だの言った覚えはまるでない。サクッと成仏させて貰えれば充分だった。今回の転生は契約の成立要件を欠いているので無効であると法廷で主張してもいい。勝てる自信は有る。


 だが悲しいかな、いつの時代も神様を裁判にかけようなんて言う馬鹿はいない。まして、人が何億死のうと素知らぬ顔をしているお人が出廷命令に従う訳もない。かくして私はマリア・フォン・イェリングに転生して、只今自分の運の悪さに五寸釘を打ち付けております。 

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