二話2 代償と交渉
シーナに殴られた俺は、ロロとシーナと共には屋を出た俺はロロたちに付いて行くと、昨日と同じ謁見室に辿り着いた。中は昨日の七騎士の他に左右には全身を鎧で包んだ剣士たちで埋め尽くされていた。そこで俺は昨日の出来事を思い出す。
あの時、ダールになにかの式の話をされた時にロロは震えていた。俺は嫌な予感が昨日の夢であることを祈るばかりだった。
その時、ダールと俺が目が合う。その眼はまるで何かに対して・・・。
「よく来たロロ。では・・・これより政殺の議を執り行う!依代は第七王女ロロ・バルネスタ。」
唐突に始まり口開くダール。その言葉、そしてダールの口から唐突に言い放たれた『政殺』という言葉に俺は身を強張らせる。嫌な予感はこれか・・!
「政殺だと・・・。おいダール、もう一回言ってみろ・・・。」
「聞こえなかったか?政殺だ!」
「ふざけるな!!!」
この国では昔からある特殊な儀がある。政殺の儀式。国を任せれないと判断された時期、国王を政治の為に組込み、殺害すること。
これはこの国最大の闇にして国崩壊の一手にもなり得る儀。政殺を知っているのは国上層の一部のみ・・・しかしこの場にいる全員が儀式を知っているとなれば・・・。
「国王とその臣下の判断じゃない・・・。まるで・・・。」
「国の総意。と言いたいようだな?その通り、今や、この国で政殺を知らぬのは平民ぐらいのものだ」
俺の言葉を先読みし、答えるダール。その眼はすでに俺を見ていなかった。
「この国の総意!!我が娘をこの国の反乱分子の仕業に見立て殺害し、それを口実に反乱分子を一気に殲滅する。」
「お前はそれで良いのか・・・?お前は・・・愛する娘を大勢の国民を救う道具にするのか?」
「違うな、愛する国民を救う為、愛する娘を依代にしてこの国は愛する娘の墓標にすることで永遠になるのだ」
「狂ってる・・・」
「何度でも言え。ここで我を切り伏せればロロは助かるが貴様・・いや、貴様だけではない!他に大勢の人々が苦しむことになろうな」
俺はそこで押し黙る。ダールは俺が一国の王ということを盾にすることで俺は事を起こせない。
「いつからだ・・・。いつからお前は政殺を考えていた・・・」
しかし、俺の言葉に答える前にロロが数人の剣士に押さえつけられる。
「おい!何して・・・!!!」
俺が止めに入ろうと踏み出そうとすると、目の前の床に剣が突き刺さる。
「剣を取れ、お前がロロの首を取り、この国の王となるのだ。」
何を言ってるんだダールは・・・。魔王の俺がこの国の王になる・・・?バカげてる。しかし、俺の考えを見越すようにダールは言う。
「貴様ほどの力を持つ者が国の王となれば誰でもいう事を聞くだろう。」
「考え直せ・・ダー・・・」
「やってネロ・・・。」
そこで俺は言葉を止める。
「な、なに言ってんだよロロ?」
「いいの、私はこの国にはいらなかった。でもネロ、あんたならこの国を護る王にもなれる。」
違うんだ・・・。違うんだロロ。俺は魔王で、世界で一番憎まれてる男だ。ここにいる奴らも俺が魔王と知ればすぐ剣を取るはずだ。
「もう、いいの・・・。私はこれでいいから・・・早く剣を取って・・・。」
ふざけるな・・・。俺は今まで何のために生きてきたんだよ・・・。自分を護るためか?世界を救う為か?それとも、シーナを救う為か・・・?違うだろ!!!
「わかった。」
俺は短く答えると剣を持つ。
「ありがと・・・ネロ。」
その眼には涙が溢れていた。溢れた涙は零れ、頬を伝う。それを俺は手で拭う。
「ネ・・・ロ・・・?」
「俺は、今日までひたすら剣を磨いた。」
「それは憎むべき敵を撃つためであろう?」
ダールの言葉を聞き、俺は剣先をダールに向ける。その刹那、ロロを押さえつけていた複数の剣士の胴体が斬れ落ちる。その光景にダールはなぜか頬を緩める。
「違うな。俺の剣は・・・。守るべきものを護れなかった罪の結果だ。だからこの剣は護れなかったものを、護り切れなかったものを護るための剣だ!!だから俺は主の剣となり、ロロを護り続ける!!!」
「そう言うと思ったよ、我が友よ。貴様とは昔から反りが合わなかった。」
「俺は合ってると思ってたんだがな・・。」
俺の言葉になぜかダールは苦笑する。
「ふっ、たわけ。もうよい、我が娘を連れていけ。今の貴様には我でも歯が立たんだろう。」
「何を言いますか王よ!!!」
傍にいる一人の剣士が声をあげる。しかしダールは聞く耳を持っていない。
「いいのか・・・?」
「早く行け。」
「行くぞロロ・・・。」
「ネロ・・・ってひゃ!!!」
俺はロロを抱きかかえると天井付近のガラスまで跳躍、叩き割ると屋根を伝って地上まで落ちていく。
「死ぬぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガラスが散らばる謁見室は静寂に包まれていた。しかし、それを剣士の一人が声を上げ笑い出す事で静寂を破った。
「あっははは!!!あれが昨日まで畏れ恐怖していた魔王!?いい男じゃない!!!」
すると、次の瞬間、笑い出した騎士の鎧が光の粒子となって消え始める。光の粒子の中からは黒のドレスに身を包んだ女性が現れる。すると彼女が指を鳴らすと、周囲の鎧の騎士たちが音もなく崩れ落ちる。
その後、崩れずにいた八人の騎士はそれを合図のように所々で鎧を脱ぎ始める。
「どうでしたか?皆の感想をお聞きしたい。」
「あれが魔王だと!?むしろ英雄では無いか!笑かしてくれる。」
「全くじゃ、あれならばもっとはようから交渉しとけばよかったではないか。」
「ほんとそれ、逆になんであんなに怖がってたのかしら。でも凄いわ。見てこれ。私の一番強固な土傀儡が真っ二つよ。本気で殺りに来てたら全部の傀儡が斬られてたかもね。」
「それも含めて魔王として今まで言わしめられたひとつでしょうな」
「しかし、ダール王よ、さすがに歯が立たないは言い過ぎなのでは?」
一人の中年の男性が冗談めかしに尋ねる。
「いや、本当にこの全員が全力で戦ってようやく勝てるかどうかでしょうな。」
それを聞いた一同は唾を飲む。しかし、すぐさま他にも鎧を脱ぎ終わった者同士で今回の出来事についてそれぞれ話し始めた。すでに場の空気は一変していた。すると、王の傍にいるクイーラが不思議そうに尋ねる。
「それにしてもよかったんですか?我が王よ。あのまま行かせても。」
「よかったのだ。むしろあのまま二人に政殺の議がすでに十年前に廃止されてるなどと言ってしまえばそれこそネロに殺され、最愛の娘に嫌われてしまう。」
「確かにロロに関してはかなり前から覚悟させていましたからね~。でもさ、後でロロ王女の記憶が戻ればどの道嫌われるのでは・・・」
「クイーラ!ロロと呼び捨てにするでない!!それに・・・」
突然の鋭い言葉にクイーラはすぐさま姿勢を正す。
「言ってもいい事と悪いことがあるぞ・・・。」
ダールは泣きかけていた。
「ろ、ロロが・・・ロロが巣立ってしまった・・・。しかもネロと・・・。泣きそうだ・・・。」
「お、王よ!!泣くのは早いです!!!まだ同盟会議が残っております!」
「おっと、そうだったな。」
ダールはクイーラに諭され眉間にしわを寄せる。目を決意に染め、握り拳を作る。その瞬間、その場の空気がさらに変わる。修羅場から宴に、宴から場の雰囲気は再び緊迫と呼ぶにふさわしい空気を醸し出した。今は一人の喋り声も聞こえない。あの最初に笑い出した女性でさえ顔つきは真剣そのものだ。そしてダールは玉座を立つと言い放つ。
「我ら過去の未練の為、未来を勝ち取るため・・・。今しがた友よ、我が嘘を許せ。時が来たら償おう・・・。さぁ!!!未来を繋ぐ下準備だ!!!!!」
そうしてダールは世界で最も大切だった友と、今や世界で最も愛しい娘を代償に、すぐ傍に迫る厄災を見据え、歩き始める。




