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王女の側近騎士は実は〇〇〇だった!?  作者: 十道 鉚
見えない巨大な影
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4話30 愚かな足掻き

下でどうしようもない空気に晒されている内心いたたまれないネロを見送ると踵を返すと仄暗い廊下、誰も居ない筈の廊下を見つめる。


すると暗い廊下の隅が黒く淀みソレは気づけば人の形を成し、今はもう血の気が無い事を覗けば少女そのものだ。これが影と主、術者の魔力だけで成り立っていると思うと考え深い。


しかし、ソレの纏う雰囲気と蝋燭の僅かな光に反射し光る赤い眼が人外と言う事を証明している。


「どうぞ・・・。」


ソレは様々な感情が込められた視線を受けてなお淡々と業務的にルアスから最も近いドアノブに手を掛ける。がそれよりもほんの少し、少しだけ早く先にドアノブが回る。


「・・・!!!」


ここでそれと会っている事がバレる事を恐れたルアスは咄嗟に時間を止めようとするが、ソレはまるでルアスのすることをわかっているかのようにこちらを向くことなく手で制す。


「あら、どうかされまして?」


ルアスの声でミルとガンドが部屋から出てきた。


「いや、アレがな・・・。」


申し訳ないとばかりに階段下で転がるネロを指す。


「なんですの・・・アレ・・・。」


即席の演技にしては上々だろう。今にも泣きそうなネロへのフォロー、ミル興味本位で階段を下りていき、ガンドも釣られて下りて行った。


「人払いは済ませたのでは・・・?」


ほんの少しだけ不満げな声音のソレにルアスは「居るとは思わないんだ。」そう口に出してみるものの這いずりながら壁から出てくるソレを見てキモイ奴じゃ、と心の中で毒を吐いていた。


ソレは扉に接触したかに見えた。いや、実際にしたのだろう。だが扉は問題なく開き、ソレの姿は消えていた。


「えらく頭の回る眷属じゃの・・・。」


ルアスは目の前の眷属と呼ばれた者ではなく、その瞳越しにこちらを見ているであろう術者に告げる。


「人側に立ちながらもまぁた人を啜るか吸血姫・・・」


呆れが混じった声に少女は糸が切れた人形の様になったかと思うと一変、這いずったまま笑い始め、立ち上がる。


「安直な考えは脳の劣化を招くわよ?それに私はあ・な・たと違って欲しいと思った物は勝手に寄ってくるのよ。」


声は変わらずとも感情が乗り、このうざくこの上ない口調は間違いなく頭で思い浮かべている人物そのものだった。


「最初から主が話せばよかったじゃろうに・・・。」


「嫌よめんどくさい。貴方に用が無いのにこんな使い走りさせられてるだけありがたいと思ってほしいわ。」


急に人間らしく動き始めたソレは壁にもたれるとめんどくさそうに扉を一度閉め、そして開ける。


「どうぞ?クイちゃんが待ってるわ。」


にこやかにどうぞと手を出す少女にルアスは胡散臭さを感じながらも扉の向こうにはバルネスタ国の城壁が佇んでいる。それを確認したうえでルアスは扉の向こうへと足を踏み出していった。


扉を潜り、城壁前の草原に出たルアス、その後ろから眷属と呼ばれる少女も続くように扉を潜ると扉は自動で閉まり、途端に黒くなると形が崩れ地面に吸収されていった。そして扉に隠れて見えなかった草原の奥には緑の草原を埋め尽くさんばかりのテントが張り巡らされていた。


その中でも一際、大きなテントに近づけば近づくほどすれ違う兵士の数は増え、各々が神妙な面持ちで城に向かって歩みを進めていた。


「随分、賑やかになったの。」


「いや、お通でしょうこんなの。」


眷属の言葉通り、人が多いと言えばそうだがただそれだけで賑わっているとはほど遠く、どんよりとした重い空気が充満していた。


「いっそ食べちゃいたいぐらいよ。」


「笑えん冗談じゃ。」


舌なめずりする吸血姫の言葉を受け、口角を上げ笑みを作っている物の実際、これほどの大勢の血を吸われては本当に笑えない冗談だ。


「でも、むしろ幸せでは無くて?あんな・・・ゲテモノ達に殺されるぐらいならここで華奢華麗、それでいて死ぬときには天にも昇る快楽を・・・。」


と、胸に手を置き自画自賛を垂れ流すソレの横にそれは落ちてきた。


「たしかに、このように死ぬのであればお前の言い分も、ありとはいえばありかの。」


落ちたそれから噴出した飛沫はルアスに掛かる直前で少女が身を挺して飛沫を防ぎ切った。


「あなたが共感なんて明日は槍でも降るのかしら?」


ルアスに覆いかぶさる少女がクスクスと含みがある笑い声をあげる。


「人なら既に降ってきよったわ。」


「あら、お上手。」


わざとらしく拍手を送るソレに一瞥をくれてやるとルアスは今、バルネスタの方角から飛んできた元人間を見て溜息をつく。


「人間は愚かじゃの・・・。」


「ならどうして人間に肩入れするのかしら?私みたいに食事のレパートリーが減るなんて危機的状況でもないのに。」


少女はその場でしゃがみながら肉塊と化したそれから流れ出る液体を手に付けると口に持っていく。


「愚か・・・まぁわてが恋した相手が人間じゃったというだけなんじゃが・・・。」


「甘いわね、甘すぎるわ・・・人間みたい。」


「たわけが。」


そう一言で片付け、ルアスは手に付いた血をテントで拭う眷属を置き去りに中央のテントに向かって足を進めた。


それから、二人が中央のテントに着くまでの間、バルネスタ国の城内からは人が、計三人。まるで石ころのように飛んできて、草原を赤く染めていった。

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