4話26 危機一髪と反動
拳と拳が交わると、ガンドが立っていられない程の衝撃波が生まれた。
『よいしょぉ!!!』
接触時の衝撃を利用してクルリとその場で回るとリドルの裏拳がレイスの顔へ吸い込まれていく。
『ん!?』
何かが砕ける音、それは相手の頭では無くかった。殴りつけたリドルの腕が砕け無数の岩屑になり地面に落ちる。
『クシュ~。』
まるで何のダメージも受けていないと主張したげに喉を鳴らすレイスの腹部に大きく踏み込んだリドルの巨大な拳がめり込んだ。
『・・・まだまだぁ!!!』
想定外の攻撃にレイスが怯むのを見るやリドルは無くなった腕を振り上げる。すると、地面が盛り上がりリドルに新しい腕を作り上げていく。しかも作り上がった腕は壊れた前の腕より大きくその巨大な拳が一撃一撃とレイスに向けられ放たれる。
荒れ狂う拳の波をどうにか凌ぐレイスだったがリドルが一歩進むごとにレイスは少しずつ後退している。
「岩男の方が押してるのか・・・!?」
「レイスが疲弊しているとはいえまさかごり押しで・・・。」
背後でネロの治療に専念しつつもやはり気になるのか後ろを振り向くシャド。
と、その時。レイスが絶叫にも似た声を上げると防御を捨て腕を振り上げる。
まるでその攻撃に全てを賭けていると思えた掌にはピン球程度の紫色の球体が光り輝いていた。
『キュルガァァァァァァ!!!!!!』
怒りに満ちた咆哮と共にソレは何の躊躇も無く降り降ろされる。
『これやばそう!?』
咄嗟にリドルは地面を足で振動させるとレイスの足元が液状に変化する。突然、軸を失ったせいで振り下ろした手はほんの僅かに左にずれ、液状の地面へと飲み込まれるとすぐに地面は紅く膨張し、弾け飛んだ。
『死んだかも・・・。』
コンマ何秒の世界でリドルはそう口にすると後ろにシャド、ガンドにネロを抱え、地面を蹴り上げようと試みる。
しかし地面から吹き出したエネルギーはすでに岩で出来た石を融解させていた。
リドルの足を融解させた途轍もないエネルギーはすぐさまその範囲を広げ、数秒後には少し離れていたダストン国の一部をも飲み込みレイスの居た地点を中心に巨大なクレーターを作り上げていた。
『・・・あぁ死んだ。死んだよこれ。お師匠ごめん、約束護れなか~・・・あれ?』
三人を抱き抱えながら蹲っていたリドルは胸元で必死にもがくシャドとガンドを見て困惑する。
『生きてる・・・?僕、生きてるよぉ!!!』
生の実感に心躍らせる大きな少年は抱える三人を無意識に地面に投げ捨てるとリドルは無邪気に飛び跳ねる。が、すぐに失った足で着地を失敗転んでしまう。
「僕らは物扱いか・・・ってここ壁内じゃないか・・・?」
「そうじゃぞ・・・ほんとに間一髪じゃ。」
投げ出されたシャドはうつ伏せのまま頭を擦ると頭上から聞きなれてしまった声に舌を鳴らす。
「その声は~?ロォリババァじゃないかぁべハッ!?」
仰向けに移行するシャドに映った景色は満点の青空ではなく、頭上で声の主であるルアスが足をシャドの顔へ振り下ろす瞬間だった。
「鼻が!!鼻がぁぁぁぁぁ!!!!!」
足元で悶える少年にルアスは腕を組み見下ろす。顔は太陽を背にしているせいか見えないがその態度からどんな表情を浮かべているかなど容易に想像できた。
「一応言うが、命の恩人じゃぞ?」
「・・・わかってるよ。」
「にしてもまさかこの技まで使わされるとはのぉ~。」
徐々にしわがれていくルアスの声にシャドはめんどくさそうに舌打ちを挟むと。
「美の一時的な欠落は死ぬより嫌なんじゃかったっけ?後悔とか・・・。」
申し訳なさそうに聞くシャドにルアスは大きな高笑いを挟むと髪をかき上げる。
「いんや?全くしとらん。ネロの為じゃ、むしろ本望とも言えよう。」
声はしわがれ手はみるみるうちにやせ細っていく。すでに体格でさえ小柄なシャドよりも細々としていた。
「なぁに、一日ばかりのこの姿。なってしまえば後はなるようになろう・・・。」
「でもさ?ちょっと言っていいかな・・・?」
言いにくそうに眼を逸らすシャドにルアスはむむ~と声を唸らせると理解したのか手を叩く。
「なんじゃ!?もしや感謝か?主がわてに感謝しようというのか!?」
勝ち誇る様に笑い始めるルアスの様子にシャドの表情はどんどん青ざめていく。まるで見たくないもの見せられているような。
「いや、さっきまではまぁ需要が無いわけじゃ無かったんだけど・・・今はちょっとえぐいというか惨いというか・・・。」
「・・・・・・・・・・・・ほぅほぅ・・・?」
そこで察したのか、それとも見当違いの事を思ったのかどちらにせよルアスは頬に青筋を浮かばせる。
「あ~え~。一応?中身はピチピチ設定なんだったら~・・・・そこんところ気を付けたらどうですかねパンツ見えてますよ!!!!!!!!!!!!!!」
後半は振り上がるルアスの拳を見て超絶早口で喋り切ったシャドの顔面に容赦ない一撃が見舞われた。
「さて、ゴミは片付けたしのぉあとは戻るだけじゃの~。」
ゴミと呼ぶ少年の襟を掴み振り返るルアスに合わせ、ガンドとリドルはほど同時に後ろを見合う。
「あれぇ?帰り道ってこっちだったけっけな。」
『いや、こっちだと思いますよ。師匠の気配がします。』
まるで真剣そのものと声音を変える二人だったが声はどういう訳か震えている。
「お~いぬしら~・・・。殺られたくなかったら目を潰してこちらを向け。」
『はい僕もう潰しましたぁ!!!!』
ルアスの言葉を行動で即答したリドルは自身の岩男の顔に拳をぶち込む。
「おまえさんそれただの木偶ではないか。」
ルアスの冷静な声にリドルの岩の体表は掻くはずの汗を掻きガンドに近寄った。
『笑えない、笑えないですよあの人!!いきなり現れて殺意剝き出しなんですけど!』
「おかしいな、ついさっきまではすげぇ頼れる人だったんだけどな。まずそもそもあんな」
『待ってください。思うんですけどそもそも別にこんな演技する意味無いですよね?』
「だめだ。あのやられちゃった人。あぁ見えてこの中で一番強い説あるんだぞ!それをワンパン。そもそも目を潰せなんて気が狂ってなきゃ言えねぇよ。それにあの顔見たら多分どっちみち殺さ・・・。」
「聞えとるわ!!!!!!!!」
刹那、今の今まで会話をしていた相手は地面に顔を埋め動かなくなっていた。
『い、嫌だ!助かったのに死にたくな・・・!!!』
「待て待て、名さえ聞いとらんがひとつ頼まれてくれんか?」
後ろから肩を掴まれただけで数倍の大きさはある自身の身体を止められたリドルはどうすれば無傷で生還できるかを考え、考え付いた結果が。
『・・・勿論です!』
出来る限り爽やかに答えることだった。結果、リドルは痛い目を見ることなく、ただ大小様々な人を抱え持たされるだけで済んだのだが、欠伸一つするだけでビクビクする岩男の様子はルアスから見ればなんとも滑稽な姿に見えたそうだ。




