4話23 本当に大事な思い
まただ、頭ではわかっているのにどうしても抑えられない。それに考えれば考えるほど頭が割れる様に痛む。どうして?私は一思いに殺してほしいはずなのに。
ネロにこんな姿を見せるぐらいなら死ぬ方がマシだから・・・なのに、どうして押し倒した彼女の言葉に希望を抱いているの?自身で招いた結果なのに今更救ってもらえると思うなんて本当に滑稽。
アウロラの花のおかげかそのせいなのか、中途半端に緩んだ精神支配は彼女の思考を混乱させる。まるで自身が己の意志で動かしていると錯覚している身体が、実は呪いで作り上げられた人格によって操作されていることを、赤黒い魔力の泥に沈むロロはわからない。
「はは、いいわ・・・救えるもんなら救って見なさいよ。」
刹那に浮上した正常なロロの思考を飲み込んだ泥は感情を塗り替え支配する。
そこでパラミナは事態に気が付く。ロロの頭上に周囲からかき集めたであろう瓦礫の球体が作り上げられる事に。
「それをどうする気です?」
「こうするのよ。」
狡猾とも取れる歪んだ笑みをロロは浮かべると、頭上の瓦礫の球体は二人に向け崩壊する。
「さぁ今は強化も解いてる。どうにかしないと潰れちゃ」
「馬鹿にしてる・・・です。」
「くぁっ!?」
相手を煽るような口調で喋るロロの首へ繰り出された手刀はロロの身体を吹き飛ばし瓦礫の落下点から逃れさせ、同時に瓦礫がパラミナを押しつぶした。
ガラガラと崩れ落ちる瓦礫の山を見てロロは喉に走る痛みを噛みしめほんの僅かに笑みを浮かべる。しかし、その笑みはすぐに消え去った。パラミナを押しつぶした瓦礫から稲妻が迸り瓦礫の山が鳴り響く雷鳴と合わせ弾け飛んだのだから。
弾け飛んだ周囲は所々焼き焦げ、その中心には全身を青白く光らせ、ロロの起こした雷の数倍は強力であろう稲妻を纏った彼女が立っていた。
「痛いじゃない・・・!!」
力無く立ち上がったと思えばパラミナの地面から湧き出る黒い砂が渦を巻く・・・が。
ロロは目を見開く、今まで視界に収めていた彼女の姿が瞬きもしない間に姿を消した。
「本当にその呪いを掛けた元凶は腐ってやがるです。」
背後から声が聞えた時にはもう遅く、ロロの頬へ雷槌が如く放たれた掌底が直撃・・・そしてロロが何をされたか理解する前に頭上に移動したパラミナの蹴りがロロの鳩尾を穿ち蹴りの衝撃で地面が大きくひび割れ土煙が舞う。
「が・・・!!!!!???????」
あまりの早業に食らってなお自身が何をされたのかわからない。ただわかる事は自分は何かを食らい内臓が滅茶苦茶にされている事。そして・・・。
「ふぅ・・・。」
土煙の合間から見えるパラミナが隙を見せた事だった。
「・・・思った・・・通り!!!!!!!!」
「な・・・!?」
さすがのパラミナも今の二撃を真正面から受けて立ち上がる魔術師など見た事が無い。故に当然、勝利を確信し油断した。
元よりダメージは覚悟の上、その上で常に全身に施される自己回復は既に内臓を元の位置へ配置し直し通常の機能を取り戻していった。後は我慢するだけ。そうして付け入ったロロの一手は元世界最強と謳われたパラミナから隙を奪い取る。
「模倣。」
模倣、その言葉をパラミナが理解するまでの時間はまさに一瞬だった。足首を掴むロロの全身が自分と同じく青白く光を帯び・・・。パラミナは地面へ叩き付けられていた。
どうなって・・・!!!!自身がなぜ叩き付けられたのか考える間も与えず振り落とされる拳を身体を捻らせ躱すと捻る勢いを乗せロロの横腹に蹴りを入れる。しかし、蹴りは足と腹の間に挟んだ手によって防がれていた。
「これで・・・対等!!!」
声を荒げる主は勿論ロロだ。パラミナを叩き付けたのも、地面を割るほどの拳を撃ちだしたのも当然ロロだ。しかしロロの全身は稲妻が包み、どこからどう見てもその姿はパラミナと酷似していた。
「正気を疑うです・・・!!」
「そりゃそうよ?正気じゃないもの!!!!!!」
「!!」
叫びにも似た言葉と同時に再度、降り降ろされた拳は行く手を阻むパラミナの腕ごと地面に押し込んだ。地面が陥没し、再び土煙が辺りを覆う。
静寂、聞こえるのは舞い上がった大小様々な意思が落ちる音だけだった。
次第に土煙が晴れロロの変わり果てた姿を目にしたパラミナは哀し気な表情で静寂を断ち切る。
「・・・その姿を見て悲しむ奴がいるですよ?」
魔物の目とは違い赤く充血した目。最初こそ雷の弾ける音と勘違いしていたが、音の正体は腕や足は既に限界を迎え筋肉の繊維が切れる音だった。
「すでに戻れない所まで来てんのよ!!!!!!!!!!」
「・・・まだ行っても無いのに・・・ほざくんじゃねぇです!」
感情に身を任せ振り上げられたロロの拳を見てパラミナは掴まれた自身の足に力を入れる。そして同時にパラミナも拳を作った。
その感情に任せて降り降ろされたロロの一撃は寸前で態勢を崩されたた事でパラミナの頬を掠り、逆にカウンターで放たれた拳はロロの顔を歪ませる。
「意味わかんない事を言うぐらいなら大人しく打ちひしがれて寝とけです!!!!!!」
怯むロロを掴み自身の方へ引き寄せると同時に放った肘撃ちがもう一度、鳩尾を捉え倒れ込むロロを強制的に立ち上がらせる。
「ま・・・だ・・・ネロを置いて死ねない・・・の・・・・。」
後ろによろめきながら、血を吐きながら、目から赤い涙を流しながら零すように口にした言葉はさっき言い放った言葉と矛盾していた。そしてそれは偽られた人格の意識が剥がれ落ちる兆しでもあった。そこへ躊躇なく踏み込んだパラミナの拳がロロの顎を打つ。
「そんな変わり果てた貴方じゃネロを護る所か・・・逆に殺してしまうです!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるさい・・・黙・・・れ!?」
「な・・・。」
最後の抵抗か、あれほどの連撃を貰いながらも撃ちだされたカウンターだったが・・・その拳、腕はパラミナに到達すると同時に限界を迎え肩からボトリと地面へ落ち、ロロはその場で崩れ落ちる様に倒れ込んだ。
「ネロ・・・ネろ・・・ネ・・・ロ・・・・。」
最後の最後、意識が途切れる瞬間までネロの名を呼んだ彼女の意識はそこでようやく途切れた。
「狂った想いを抱いても、貴方は結局、本当に大事な事を覚えているです。だから戻れたはずなのです・・・。」




