4話18 思いの差
青年が走り去る姿を見計らいミーナは背に背負った大剣に手を伸ばし、走り始める。
目の前では地面に着地したロロの身体は一回で何度も殴られた様によろめいていた。何が起こっているのかわからないロロは咄嗟に距離を置こうと後ろに跳躍するが次の瞬間には何故か地面に背中から突撃する。
そこへ間髪入れず時を止めロロの真上に移動したルアスの拳がロロの腹にめり込み地面が割れた。
理不尽な攻撃と事象にロロはそれでもどうにか反撃の糸口を見つけようと光の無い目を散らすが常に建物の陰、背後と死角に現れるルアスは当然、捉えられない。
反撃の隙を与えてはいけない。そうすれば一気にこちらは勝負を決めれるはずだった。ルアスはそれを理解してるからこそ反撃を貰う前にロロの意識を刈り取ろうとしていた。
と、立ち上がるロロの背後に移動した刹那、ロロを中心に途轍もなく巨大な火柱が空を、ルアスを飲み込み路地を焼き焦がす。
瞬く間に烈火の波がミーナに襲い掛かるがミーナは手にした大剣を振り降ろし放たれた斬撃は火の海に一閃の道を作り上げる。
そのまま斬撃はロロの目の前で不可視の壁に遮られはじけ飛んだ。が、完全に隙を突いたルアスは少し所々を焦がしながらもロロの不可視の壁が発生するであろう範囲より中に現れ、相手の頬へ渾身の一撃をめり込ませた。
「・・・・・・!!!!!!!!!!」
しかし、ロロは気づけなかった。赤く染まる周囲の風景に滲み隠れるロロから出る青白い光の存在に。
それに気づいた時にはもう遅くロロに向けられた衝撃はルアスの頬を穿ち炎の海へ叩き込んだ。
「なにが起こったというのだ・・・?」
ルアスが吹き飛ぶという出来事にシーナはその場で驚愕の表情を浮かべる。
「反射物理衝壁じゃな・・・。」
「!?・・・反物理衝撃壁・・・?」
突然、隣に現れたルアスに少しばかり驚くも後に告げられた言葉にミーナはさらに驚愕する。
「それはダール王しか使えないはず・・・。」
「その血筋のロロが使えてもおかしくなかろう。」
「なる・・ほど・・・・。だから私が必要なのか。」
「うむ。正気を失ったロロなら使えんと期待したが・・・出せるとなれば常に出されたらたまらんからの・・・。もしそうならばそなたしか攻撃は出来まい。」
反射物理衝壁は防御系の魔術では最上位。一定数値以下の衝撃はそのまま接触した相手に転移するという荒業だ。
故に必要とする魔力は凄まじく、数秒維持できるので精一杯・・・それでも唯一この魔法を『数秒』使えるダールは、この魔術のおかげで世界有数の魔術師になれたのだ。
仮にそれをロロが無尽蔵に使えるとしたら・・・。
「めんどうじゃの・・・。」
「さらに手順無しで変幻自在の魔術攻撃が面倒だ。」
「「そして何よりロロが強い。」」
二人が同時に同じ言葉を声に出す。
当初、ミーナとルアスはロロを侮っていた。ミーナは内心ではまだロロの事を少し魔法の出来る王女としか考えていなかった。
しかし、見るだけでなく実際にまみえて見れば王女は自分の考えの遥かに上を行っていた。今さっき繰り出した炎だけでも国の魔術師で上位には入れるだろう。
そしてこれは前のロロ王女ではアウロラ持ってしても到底ここまでこれなかっただろう。何か、追いつきたい、縋りつくような、離れたくないと伝わる強さをロロ王女から・・・あぁアイツか・・・。自分もそうだったからわかる。
あいつを振り向かせようとするのにどれだけ頑張ったか・・・、そしてどれだけ助けられたか・・・。
「ここまで強くなるのも頷ける。」
心の底から納得したシーナはこの戦いにおける志を変え、確たる心を持って剣を構えた。
そしてそう思ったのはシーナだけではなかった。
ルアスもシーナと理由は違えどロロがここ数日でまさかここまで成長するとは考えてもいなかった。
それは物理的ではない。精神的にだ。自分の中で思い人を奪われた事に対する引け目を感じていたのはわかっている。だが、それを抜いても精神面の弱さはロロの弱点だと考えていた。
だからこそ今回の戦いは初動でケリが着くと考えていた。相手は魔力こそあれど精神力等は一般人と大差ない。それこそ最初の三打で意識を刈れたと思っていたが、聞いてしまったのだ。無感情なはずのロロから漏れたあの言葉を。
『ネロは私が護る・・・。』
その言葉を発したこの娘はそれだけで薄れる意識を引き戻した。それ以降、どれだけ攻撃を続けてもロロは意識が薄れる気配すら見せなくなった。
「普通、精神力や忍耐を鍛えても限界を超えれば意識は途切れる筈なのにの・・・。なるほどの、だからそなたは強いのか・・・。」
隣で独り言を聞いていたニーナは目を少しばかり細めるといじらしい笑みを浮かべる。
「ルアスもロロに負けたのか?」
ニーナの言葉を受け、ルアスは目を細め睨み返す。と、そこまで考えた所で突然、周囲の炎が二人を飲み込んだ。
「ハハッ!!・・・・全くじゃ。」
が、高笑いを出した後、次の言葉と共に荒れ狂う炎の渦が消し飛んだ。
「ここからは無駄話はなしじゃな・・・。戦闘でもロロに負けたら再起不能じゃ。」
「同意見だな。二対一だが、それぐらいハンデとして許してもらおう。」
そう言って二人は笑いながらそれぞれ拳と剣を構えた。




