4話15 戻された身体で
「・・・ッ・・・。どう・・・なってんだ?」
「お、目を覚ましたか。」
気を失っていた少年は目を覚ますと目の前ではついさっきまで虐殺を繰り返していたとは思わせない口ぶりで少女が自分の額に手を当てている。
それだけならまだ驚きはしないだろう。ガンドが驚いたのは自身の身に起こっている現象についてだった。
「なんで、傷が塞がっていくんだ・・・。」
少年は自身の腕が微かながら動かせつつある事に驚きと戸惑いを覚える。
ガンドの負った怪我は大技の副作用が大半を占める。無理な一撃で身体は既に指一本動かせる状態ではなかったはずだ。なのにこうして指が動かせる事実は驚きを隠せない。
「それはわてがそなたの肉体時間を戻しておるからじゃ。何やら身に余る大技でも披露したのか体の至る所の筋繊維がグチャグチャになっとる。」
そんな少年の様子を見ていたルアスはコホンと咳を入れると自慢げに説明を入れた。
「俺を助けてくれたのはわかるが・・・なんでだ?なんで時間を戻してまで俺を戻した?」
ついさっきまで喋るだけでも泣き叫びたくなるような痛みは無くなり、それが着々と自身の身体が戻されていくのを感じる。
一見、話だけにしてみれば親切以外のなんでもないんだが、傷は治ったのではなく傷を負う前に戻されただけなのだ。
少し前にミルから面白い噂を聞いたことがあった。その内容に生物の肉体時間を戻される話が出てきた。
無論、時間を操るなんて当初は信じていなかったが実際、こう自身の身に受けると傷を癒すのとは明らかに違う感覚が全身を駆ける。
そうなると噂に聞いた話通り戻された時間の分だけ数分後、後日に深手を負うまでの経過を身体は経験することになる。
それを想像するだけでもなかなか痛々しいかぎりだった。
しかし、すでに時間はかなり戻されている。ならばいっそゆっくりと身体を休めれる場所に移動する間ぐらいは健康状態が続いてほしい。
が、そんな願望を打ち消す答えが少女から返ってくる。
「実は、そなたには向こうで戦っているネロの援護に向かってほしい。」
大体の予想は立っていた。本人の意思(意識がなかったのもあるが)強制的に身体を戻された時点である程度、面倒な事になる事は理解していた。
むしろ、この場で死んでいてもおかしくない状態だったのだから少しでも生きる可能性を上げた目の前の幼女には紛いなりにも借りが出来た。
それに時を操るほどの力を持つ少女から感じる声音だからこそそれが急を要するのはよほどの事だった。
だから少年自身も変に詮索を入れたりせず少しだけ自身の考えを口にするだけにして首を縦に振る。
「ネロ・・・あぁあの化物人間の事か。それはいいがなんでだ?俺が行った所で足手まといだろう。」
「いや、相手が相手何じゃ、それにわてらはやり残したことがある。」
額に手を当てながらも少女は視界の端で、おもむろに立ち上がるロロの姿に目を細める。
「恐らく今の彼女の行動理念は一つじゃろう。」
「ネロの殺害ですか?」
そこで今までの話を全て聞いていたミーナが口を開く。
「あくまで書物に載っていた通りでは一番、思っている事の逆をする様になるらしいからの・・・。つまりロロは今すぐネロの傍に居たいじゃろ。」
「つまるところ私たちはそれを阻止すればいいのですね。」
「まぁそういうことじゃな。そもそも対人型はネロの専門分野じゃろうに・・・まぁレイスの方に行きたい気持ちはわからんでもないが・・・。」
呆れ声で別の場所から聞こえてくる戦闘音を聞くルアスは溜息を吐く。その様子はとてもじゃないが今から死闘を始めるような緊張感は微塵も感じさせなかった。
「本当に大丈夫な・・・」
心配そうに尋ねるガンドの口は少女の手で抑えられる。
「ヌハ・・・愚問じゃの。」
怠慢を思わせる笑い声をあげ一拍、間を開けて口を開くルアスから一瞬にして身体の感覚のほとんどで感じさせるほどの気を纏う。
あまりにも突然に、幼い少女から滲み出る吐き気さえ感じるその気にガンドは自身の毛が逆立つのを感じた。耳からは不可解な耳鳴りまで聞える。もはや目ではルアスの身体に毒々しい泥状の何かが纏わりついている様にも見えた。
「わてがここで負けるようなら今まで誰が人間界を護ったと思っとるんじゃ。」
最後に口角を出来る限り上げた笑みを見せた小さな少女はガンドがもう一度その姿を認識する頃にはルアスはロロの腹に拳を埋め込んでいる姿だった。相当の衝撃だったのか吹き飛ばされたロロの身体は三度、まるで殴られたように宙を舞った。
「一体、あのチビッ子ナニモンだよ・・・。」
突然の出来事にガンドはその場で乾いた声を漏らす。
「あのお方はな、一人の人間の為に地位も名誉も誇りも捨てて人間の味方になった変わり者だ。」
「ミーナ!!!援護じゃぁっぁぁぁぁぁ!!!」
宙に浮くロロの周りを、まるで空を蹴る様に移動するルアスの声にミーナも剣を構える。
「ほら、少年、早く行け!」
「・・・どうして最近会う女は皆、男より男らしいんだ・・・。」
苦笑いを浮かべつつガンドは自身の手を数回、握り拳を作り完治した事に驚きを感じるより早く足は反対方向へ走り始めた。




