4話10 進化と進化
レイスの主食は生物全般とその記憶であり、その中でも人間はとりわけ量、質、そして記憶保持能力が別格である。故にレイスは隙があれば好物である人間を捕食する。
そしてこの数年間で膨大な肉と記憶を貪ったレイスは人間の記憶を断片的に取り込むこと今では人間の言葉はおおよそ理解できるまで至っていた。
そんな人間に近い知能を持ったレイスはあまりにも突然の出来事に数秒遅れて今の自身が置かれている状況を知る。
外界に出た時に戦った最初で最後の天敵、その一匹と交戦した結果、壁に叩きつけられ全身からは体液が止めどなく溢れ出ている。
腕は捥げ、体の大部分はすでに修復不可能、身体の三分の一を失った自身の惨状にレイスは死の予感を脳裏に抱える。
それと同時にレイスはヨカッタと安堵した。天敵と初めて認識したあの日、レイスは生まれて会った一度目の死の予感に過敏にまで反応し、そして蓄えた。この二度目の瞬間の為に。
天敵は予想を大きく上回るほど進化していた。ならば自身もオーバーステータスとやらで答えるしかない。
普段は天敵に見つからならいよう力を限界までセーブし弱体化を目指し危険から逃れていた。
しかし、今こそ蓄えを使う・・・時だ。
一度は失いかけた目の色が次の瞬間には色を戻し、目の前の天敵へと向けられる。
「何をする気だ・・・。」
天敵は瀕死まで追い込んだ自身の変化に警戒を強める。
バキバキと外殻が割れ新たな肉体が生成される。修復が無理なら成長で補おう。
徐々に膨らんでいく自身の身体は既に元の身体の大きさをかなり上回っていた。
解放した魔力は体を内部から押し膨らんで外に出ようとする。その魔力をどうにか制御し一点に抑え込んだ瞬間、建物に亀裂が走るほどの衝撃と共に身体は元のサイズより小さくなり少しだけ姿を変える。
より戦闘に特化し、早く、強くを体現させるために後ろ足は倍以上太く、前足は腕と呼ばれるものになっていた。
そして進化に莫大な魔力を消費してもなお制御し切れない想定外の魔力にレイスは口内で圧縮し外界へと晒す。
それと同時に天敵はこちらに向けてすさまじい速度で移動し始めた。
外界に触れた魔力の塊は紫色の光を放ち太陽の光さえ霞ませ周囲を紫色に変える。その動作に天敵は最大限の注意を払い迫る。
自身でも想定外の魔力の一撃、自身で想定外なのだから相手にとっては想定外もいい所のはずだ。
そしてレイスは宙に浮く小さな球に追加で少しだけの魔力弾を放った。
瀕死まで追い込んだはずのレイスは目の前で突如、脱皮の様に皮膚を突き破り膨張し始めた。
外殻が割れかなりの速度で身体は大きくなり、あっという間に元の身体の二倍ほどの大きさまでなっていた。
俺は嫌な予感が過った直後、行動に出るが遅かった。
次の瞬間には突如、自身の身体を凝縮し元の大きさより心なしか小さくなったレイスは姿が以前より異なっていて・・・とそこまで来てレイスは口から何かを吐き出した。
不気味に光る球体は昼間だというのに周囲の光を紫に染め上げる。
どう考えてもやばい。直観がそう危険だと頭に投げかける。
そして球体の奥に小さく魔力で作った球を確認したその時、その球体が膨大な魔力を含んでいることを理解し、咄嗟に右に飛び退いた。
刹那、大通りと呼べる道とほぼ同じ大きさの光が迸り、直線状にあった遠くの山が・・・消えた。
とてつもない威力を秘めていた魔力弾の余波だけでレイス周辺の建物は軒並み吹き飛ばされ俺自身も衝撃に襲われ顔を手で覆い隠す。
しばらく経つとどうにかレイスの状況を確認できたがレイス自身も予想外だったのか口は赤く発熱し外側に曲がる様に変形している。
「なんだ今の・・・ロボたちには当たってないだろ」
そう背後を振り返る。振り返ってしまった。
その瞬間、レイスの重く、そして速い全力の一撃が俺を正面から叩き潰した。




