3話16 化け物と人
「それでだな~、実はあれがこうであって・・・だからこうなるのは・・・。」
ネロが王様だった事実をカミングアウトされてから約20分。その間、ネロはなぜか一切と言っていいほど重要な事を喋らない。
喋る事は私のお父様の話やジークフリートの話ばかりで、当の本人の話については間接的に話に出てくる程度で、最初こそ私は本人の話になにか関係しているんだろうな。そう思い聞いてはいたものの前置きにしてはあまりにも長い下りに私は苛立ちを隠せなかった。
「ネロ。」
「ん、ん?なんだ・・?」
私の呼びかけにネロは戸惑いながらも返事をする。その返事は明らかに何かを誤魔化しているようだった。
「いい加減、ネロの話が聞きたいんだけど。結局、私は信用されてないの?」
少しだけ声のトーンを下げるように言うとネロは困ったように笑い出す。
「いや、なんだろうな~百戦錬磨の猛者でも人間関係は素人同然だからか、ここまで来ても、やっぱり怖いんだよな~。」
「怖い・・・?」
苦笑いで答えるネロに私の中でネロの口から出た怖いという言葉がひっかかる。この数日だけでも幾度となく人外の化け物や異形と戦ってきたネロが発さなかった怖いという言葉。
広間での戦いで自分が黒い瘴気に呑まれ、自分が変わってしまう可能性がある。そんな状況でさえ怖いとは言わないネロが私に向けて怖いと告げるのは二度目だ。
それが私にとっては異常なまでに胸の奥に引っ掛かり、私の苛立ちを加速させた。
「どういうことよ・・・何が怖いのよ・・・。もう怖くないんじゃなかったの!!!どうしてそこまで私が信用できないの!?あの時、言ったわ!私は貴方の事が好き!死ぬほど好き。もう貴方の居ない生活なんて考えられないの!自分でもあなたにどれだけ依存してるのかわかってる!!!なのに・・・。」
いきなり怒声を上げる私を見てネロは最初こそ戸惑いはしたが、次第に表情が苦笑い、真顔、最終的には暗くなり、私の言葉を遮りるように声を出す。
「だからだよ・・・。」
振り絞る様に声を出すネロの言葉に私の口から流れ出る感情が動きを止める。
「俺もロロに依存してるんだよ。もう二度と恋なんてしないと思ってたのにロロを好きになって、初めて自分の強さと弱さの両方を見せた。それでも寄り添ってくれるロロは俺の中で復讐に縛られてた俺の感情とは別の何かを作ったんだよ。自分がここまで生きてきた理由を塗りつぶしたロロの存在が消えるのは俺は怖い。だからかな、ここでもしも俺が真実を話してロロに嫌われたら俺は・・・生きていける気がしない。」
「何がおかしいのよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
どうしようもないように笑うネロに私は声を荒げる。声を荒げた理由。それは私がネロに信用されていない事もそうだったが、何より腹が立ったのが・・・。
「舐めんじゃないわよ!!!!何が依存よ!何が怖いよ!!!あなたの言ってることはこの前と何も変わらないわ。」
私はネロに向かって早足で歩を進めると襟を掴み、引き寄せる。
「いい?貴方はずっとそんな安っぽい不安を太らせている間、私が同じままだと思ったの!?あなたがそうして嫌われないように離れていくだけ私は貴方に近づこうと出来る事を全てしたわ。貴方に嫌われないようにネガティブな私を捨てた。貴方の隣を歩けるように力も付けた!なにより貴方が笑ってくれるようにといつも笑っていた!それは無理やりネガティブな感情を捨てたんじゃない!無理やり力を付けたんじゃない!無理やり笑ってたんじゃない!!!!全部、全部全部全部全部全部!!!!ネロの事を思って必死になったら出来た事なのよ!!!!!!!!!!!!!」
吐き出された言葉を聞き、ネロは酷く動揺すると俯き聞こえるか聞えないか程度の声を絞り出す。
「でも・・・」
「でもじゃない!!!!!!そうやって私に嫌われるのが怖いからって逃げてる時点で貴方は私と釣り合わない!!!!!!そんな風に逃げてる貴方は私は嫌い。嫌われたくないなら私に全て話しなさいよ!!!!!貴方の過去程度で私が嫌いになると思ってるの!?依存舐めんじゃないわよ!!!!!!」
休むことなく心の底に抱いていた思いを吐き出した言葉は確実にネロの心に突き刺さる。しかし、ネロは俯いた顔を上げるがその表情はさっきと変わらず暗いままだった。
「ロロ、化け物って知ってるか・・・?」
唐突にそう切り出すネロに私の中で渦巻いていた感情の昂ぶりは収まりその言葉に戸惑うがすぐに切り返す。
「化け物って知ってるか・・・ね。人外的な、人間の脅威になる存在って事なら・・・。」
化け物とは何か。そんな質問をされたのは初めてで質問の答えになっているのかわからなかったが、ネロはそれを聞くと自虐的な笑みを浮かべる。そして私はその質問がどのような意図だったのか、すぐに知る事になるのだ。
「まぁそんな感じだ。化け物、人外的、敵、人知を超えた存在とかだな・・・。化け物は怖いか?」
と、ネロが新たな質問を投げかけてくる。そこで私は質問の意図に大体の予想がついた。それがわかった上で私はこう答えた。
「えぇ、怖いわ。とてもね。ここ数日で戦った化け物達なんて今この瞬間にでも目の前に現れるだけで身が強張るわ。だってそれは化け物だもの。」
「そうだよな。やっぱり怖いよな。化け物なんて名称を付けられるだけの力と見た目をしてんだからな言われるのも当然だろう・・・。」
やっぱりだ。今のネロは私は大嫌いだ。私と一度も目を合わせずそっぽを向くのもイライラする。全ての考えが後ろ向きで自虐的なその発想。私に前を向けと言ったネロ本人が下を向いているのがどうも腹が立つ。それに今、ネロが次に言う事は多分こうでしょうね。
『俺もその化け物なんだよ・・・は!?」
「どうかしたの?」
自分の言いたいことを当てられ、被せられたネロは衝撃を受けているのに対して、私は出来るだけまるでそれが当然であるかのように髪をかき上げる。
「当然よ、それだけ化け物について話されたらねぇ~。今のあなたは蛆虫、蛞蝓、蝸牛以下。いえ、貴方と比べられるこの子達が可哀想だわ!!自虐自虐でいい加減、変わって見せろ!!!」
その瞬間、空間を木霊させるかのように放たれた平手はネロの頬に直撃し、ネロはソファに身を預ける。それでも暗い顔のままのネロに私は再度、襟を掴みネロに馬乗りになり言い放ち・・・たかった。
「ネロ、こっちを見なさい。貴方が化け物って言うんだったら・・・こんな事、絶対にできないわよ・・・。私の目が化け物を見る目に見えるの?いい加減・・・私を見てよ・・・。」
襟を掴まれていたネロがそこで目を見開く。今の今まで威勢のよかったロロが涙を流しながら話していることに。
「ロ・・ロ?」
「それにねネロ?貴方が化け物って言いたいのなら、それに近づこうとしている私はなんなの?私も化け物にネロはさせる気?別に私は化け物でもいいけれど、貴方が嫌なんでしょう?なら、いい加減その後ろ向きな考えをやめてこっちを向きなさい・・・。」
「・・・・。」
ネロは私に言われるがままゆっくりと目をこちらに向ける。それに合わせるように私はネロの額に自身の額を合わせると。
「ネロ・・・?貴方、結構最低な事してたのよ・・・?自分で私に言った事を台無しにするような言動や態度、結局ネロは本当の事を話してくれないし、他の女だったら100%嫌ってるわよ?」
「ロロも嫌いに・・なったか・・・?」
「嫌いになるわけ・・・・ないじゃない。貴方がどれだけ苦しんでいるのかなんて私には想像できない。でも、苦しんでいる事だけはわかるから・・・。そんな事で嫌いになるほど私は軽い気持ちで好きにはならないわ。なんならきっきのあなたがドラゴンだったって話の時、わたしが何考えてたか教えてあげましょうか?ドン引きするわよ?」
ネロの上から降りた私は泣きながらも笑う、それを見てネロは今の今まで変えなかった暗い表情を崩し困り果てたような笑みを見せる。
「それは・・聞きたいな・・・。」
「なら、まず貴方の言う、私に絶対嫌われると思う話をしてみなさい。そうしないとこれからネロの全てをちゃんと好きになれないから。」
と、私がそこまで言った所で今の今まで動かなくなった人形のように椅子に身を預けていたネロが私を抱き寄せる。
「わかった・・・・・全部話すよ。ロロに嫌われるような過去も全部・・・本当に嫌いにならない?」
まるで怒られるのを怖がる子供のように耳元で今にも消えてしまいそうな声で聞いてくるネロに、私はクスッと笑い、出来るだけ優しく。それでいて心強く。そう・・昔、泣いていた私を慰める母のように。
「大丈夫よ、貴方は強いもの・・・・・私の騎士さん。」
そして、ネロはゆっくりと口を開き、頑なに閉ざしていた自分の過去について喋り始めた。




