三話12 長い夢
俺は今、途方も無い道のりを旅していた。常に風を切る音と共に周囲は黒い嵐が吹き荒れている。
それなのに、風は心地よく、風切りの音は途轍もなく深い微睡を生んだ。唯一、ときおり聞える風の音とは確実に違う音が混ざり込む音を除けばここは最高に居心地がよかった。
それなのに、自分はどうしてここから抜け出そうと歩いてるんだろう。いや、まず思えば俺ってなんの為に歩いてんだ・・・?
唐突に湧き出た小さな疑問は疑問に濁流の様に俺の心を蝕んでいく。そうなれば後は早かった。必死に抵抗してきた自分の何かが音も無く崩れ始め、ついには一生この嵐の中を彷徨っていたいと思い始めた。
でも、何か、なんか忘れてるような気がすんだよな。
薄れる記憶の中で、俺は顎を擦りながら首を傾げる。どうにか忘れた何かを思い出そうとするが、何を思い出そうとしているのかさえ忘れてしまう。
もう、歩く意味がないなら止まればいい。そう思ってはいるものの体は止まらない。まるで自分のほかにこの体を動かしているような・・・。
その時、暗い嵐の中、一筋の光が作られた。それは自身の進行方向とは違い、真後ろから出ているようだ。俺は光も掻き消えるような嵐を照らす光の線を不思議そうに触れる。
『何もともあれ、行くしかない』
光に触れた直後、頭の中に声が響く。その声のを聞くだけで全身を襲っていた微睡は掻き消え、今度は逆に風の音が耳障り感じるようになった。
誰なのかわからない筈なのに俺の足は自然と光に向かって歩みを進める。
俺も、行くしかない。
なぜそう思ったのかはわからない。今、なんでそうしたのかと聞かれればそうしないと何かを失ってしまいそうだったからだ。と答えるだろう。
俺はひたすら光に触れながら歩みを進めていく。すると、光の根源らしき白い光が遠くで輝きを見せる。
あそこで誰かが待っている?
何の根拠もない予感に合わせるように嵐は勢いを増し光を遮ろうと目の前を暗黒に変える。
周囲が黒一色に染まり、遠くで見えた輝きは消え去り自身がどこに迎えばいいかわからなくなる。が、次の瞬間には周囲を覆っていた暗闇は掻き消える
嵐が消えた事によって白い光は輝きを増していく。その場所に早く着こうと歩みを進めると、
突如、足を何かに捕まれ、それがなんなのか目線を落とす。そこには、全身を黒く染めた俺が居た。
今の今まで殺風景だった蒼い空間は、いつの間にか万華鏡の様な硝子へと変わっている。さらにその全ての硝子は俺を映し出し、その全てが俺を見ていた。
「もういいよ。」
「疲れた・・。」
「楽になりたい。」
「寒い。」
「冷たい。」
「何も見えない。」
「辛い。」
「死にたい。」
「熱い。」
「生きたい。」
自身の足を掴む黒い自分を含め他の自分はそれぞれ同じ言葉を連呼する。
「俺の・・邪魔すんな!!!」
そんな言葉の波に逆らうように叫び、手を振り払おうと力を込めると、硝子から全ての自分がオリジナルに飛び掛かってくる。
「やめろ・・・。何し・・・ぐぁ!?」
何体もの自身に押し潰さると同時に頭を鈍い痛みと共に自身が助けられなかった人々の様子が頭を駆け巡る。
「なんだこれ・・・なんなんだよ・・・俺は助けようとしたんだよ!!!!!!!!」
「でも無理だった。」
「あ・・・。」
押しかかる内の一人が違う言葉を喋る。
「助けようとしても事実はかわらない。」
「そお・・じゃない・・・。」
「俺は人殺しだ、見て見ぬふりをしてるのも同然だ。」
「違う!それは違う!」
「一緒だよ、言葉では幾らでも言えるもの。実際、俺は※※を助けれなかっただろ?」
肝心な部分はノイズが走る様に聞えない。
「誰だよ・・・誰の事なんだよ!!!」
「今度こそ護ると誓ったのに、俺は結局何も護れなかった。」
「護る・・・?俺は護れなかったのか・・・?また・・・?」
「そうだ、俺が自分の手で殺した。」
「俺が・・・?殺した・・・?」
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
『人殺し。』
一人の俺に呼応するようにのしかかっていいた俺は、オリジナルから降りると一斉に声を上げる。
「俺は・・・また・・・護れなかったのか・・・・。」
あれだけ護りたかったものを、今度こそ守り抜くと誓ったのに、俺はまた無理だった・・・?
体中を絶望が支配する。俺はその絶望に身を任せるように目を閉じようとした、その刹那、目の前の俺が声を荒げ背後を見る。
「邪魔だ。」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。しかし、そんなことを考える暇さえ与えない程の痛みが。全身を味わった事の無いような衝撃が走り抜ける。
「が・・・!?」
あまりにも強烈的な衝撃に声を上げる事さえ叶わない。恐らく、体の幾つかの骨が折れたのだろう。俺は力を込めるが、呆気なく倒れ・・・なかった。
全身を貫いた衝撃。だが、それと同時に周囲の自身の分身は力無く倒れ込んでいた。ここで倒れてしまえばこいつらと同じだ。それだけはダメだ。
俺は俺だ、こいつ等は俺であって俺じゃない。立ち上がれ、起きろ。必死に心の中で叫ぶが体中の骨を折られては当然起き上がれない。
どうにか膝立ちで耐え抜くが、次第に力が抜け始める。その時、近くで声が聞えた。
「今行くわ。」
声のする方、背後を見ると、光はすでに自身の数メートル先まで辿り着いていた。
「ろ・・・ろ・・・。」
その光は護りたかった大切な人。俺が守り抜くと誓った愛しい人だった。でも死んだは・・・。そこまで来て俺は黒い自身に踊らされていたことにようやく気がついた。
俺はどうにかを近づこうと手を伸ばすが、それと同時に目の間で倒れ込んでいた一人の俺がよろよろと立ちあがる。
『返すか・・・返すものか・・。これは俺のだ。※※のじゃない。』
いつの間に手にしていたのか、黒く細い剣を構える。
「く・・・る・・・な・・・。」
もてる限り、振り絞り出した声もろろには届かない。いや、届いていても無視したのだろう。
その光はゆっくりと俺の元に歩みを寄せる。
来るな・・・。
とうとう、声も出ない程、疲弊しきった体は動かすことすらままならない。
が、突如、異変が起こる。
『どこだ!?どこだ!!どこ行きやがった!!!』
目の前で剣を構えていた俺が突如、その姿を見失ったかのように慌て始める。俺自身も光は消え去り、ろろの姿が見えなくなった。
それなのに、ロロは俺に向かって歩いてきている。なぜかそう思えた。
そして、俺の目の前で、ロロと思しき光が集まり始める。
『そこだぁぁぁ!!!!!!!』
ドス。と、鈍い音と共に光りに向かって剣を突き刺した黒い俺は満面の笑みを浮かべる。しかし、その顔はすぐに絶望に染まる。
「ネロ・・・戻ってきて・・・。」
光は全身を包み込むように体に集まり始める。
『嫌だ・・・嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
頭を押さえ、黒い俺は叫び声を上げ、突如、崩れ去る。それに合わせるように空間そのものにもひびが入り、次の瞬間に空間は硝子の様に砕け散った。
「ロ・・・ロ・・・。」
小さく呟いた所で、今までの雰囲気とは明らかに違う。まるで夢から起こされるかのような声が響く。
「私はここにいるから早く起きなさい?それとも?目覚めのキスをご所望ならしてあげない事も無いけど?」
その声は弱り切った声とはほど遠い、いつものロロの声だった。そうか、俺、死んでなかったんだな。
そろそろ行くか・・・・こんな夢の中よりも俺の好きな人の元に・・・




