3話11 ロロと奇跡の花
最近、かなり忙しくなってきたのでしばらくは、書ける時に書いて投稿する形にさせて頂きます。連続で投稿、または逆に1週間丸々開ける場合もあるかもしれませんがどうぞこれからもよろしくお願いします!!
黒き瘴気が荒れ狂う中で、その手に持つその杖は闇を照らす様に白い光りを放っていた。杖を手にするまで疲労困憊に続く出血多量で朦朧とした中、杖を手にしたその時から、なぜか意識は朦朧としなくなり、傷も少しずつだが治っている。
突如にして胸から光が漏れ形を成したこの白い杖がどうして私の元に現れたのかは不明だが、先端に咲かしている青白い花はどこか見覚えがある。どこか懐かしさを覚え、ほんの少しだけ気持ちに余裕が出来た。
「なにもともあれ・・・行くしかないわ。」
気持ちが少しでも楽なうちにすぐ先で悲鳴にも似た叫び声を上げるネロにゆっくりと、踏みしめるように一歩ずつ前に踏み出していく。時に黒い瘴気に押され後退するが、確実にネロとの距離は縮まっている。
しかし、いかに心が楽になろうと、気持ちに余裕が出来たとしても体中に走る切り傷は回復が追い付かず増す一方で、すでに衣服はボロボロになり、片眼は瞼の上を切られたせいで血で見えなくなっていた。
このままではネロをどうにかする前に自身の限界が来てしまう。それが焦りとなり更に一歩大きく踏み出すと同時にネロが黒い瘴気の中でもわかる真紅に染まる目がこちらを凝視する。
「ネ・・・!!」
その刹那、自身の眼下、目の前に日本の巨大な剣が突き刺さる。突き刺さった二対の大剣はネロを中心にそれぞれ時計回りと反時計回りに円を描くように高速で回り始める。平然と床を抉るのを見てあれがどれほどの威力を持っているのかは容易に想像できた。
だが、それは逆にネロ自身が近づかせるのを拒否しているようにも見えた。まるで何も信じられない子供のように。近づかせるのを拒むその剣に私が触れるだけでその部位は宙を舞うだろう。
攻撃魔法もこの嵐の中では集中できずまともに魔法も使えない上に防御魔法も使えない。仮に反射でネロに攻撃が当たり、万が一にもネロがどうなるかわからない。
「こんなのに魔法なんて別にいらないわよ。」
諦めるように素っ気なく言い放つと、微塵の恐怖を感じさせず歩き始める。しかし、怖くないはずがない。事実、肩は震え、筋肉が強張っていく。が、逆に躊躇う事が一番危険なはずだ。私はこの剣は当たらない、そう思うことが奇跡を起こす条件なのだから。
「一本・・・・。二本・・・・。」
そして私は当たらないことを初めから知っていたかのようにあっという間に二対の剣の隙間を抜けていく・・・が、その瞬間。自分を見つめるネロの口元が不気味に吊り上がる。その顔を見た私はすぐさまその意図を知る、三本目の存在に。
横を向くとそこには巨大な剣が突き刺す様に迫ってきている。剣が迫り、突き刺さるまでコンマ何秒の中。突如、世界が何重にも重なり合う様にゆったりと動き始める。そんな中で私は走馬灯の代わりに声を聴く。
「三本目。」
直後、迫りくる剣はとてつもない衝撃音と共に突然の乱入者によって防がれ、剣は砕け散る。
「大丈夫かえ?」
「ル、ルアス!!」
乱入者、それは瘴気の嵐に飲まれようがその灰色の髪は杖の光を反射させる。助けに現れたルアスは容姿こそ変わって無いが、今まで会ってきたルアスとは違い目はキリッとし、髪は左右で括られ、軍帽に軍服を羽織っている。声も明らかに凛々しくなり、なぜか右眼には眼帯を嵌めていた。
「ルア・・・。」
「その杖・・・奇跡の花かの。」
ルアスは助けに入ったのも束の間、手にしていた杖を見て目を見開く。
「これ・・が・・アウロラの花?」
「やはり奇跡の花がロロを選んだのじゃな。」
「私を選ぶ・・・?」
「奇跡の花には意識や自我がある、植物にして生物としての根本を無視してな。」
「自我や・・・意識・・・?」
突然、ルアスは奇跡の花を良く知っているような物言いで語り始め私は少しパニックを起こしていた。
「恐らくその花はロロに出会ってからの記録を全て有しておる。」
「それって・・・・。」
「まぁまぁ。質問責めは後でも出来る。そろそろ二章も終盤じゃ!時弐太刀!」
いきなり声を荒げネロの方を振り返ると同時に、寸前まで迫っていた二対の大剣は一瞬にして真っ二つにされると黒い瘴気に姿を変える。二対の剣が瘴気に変わるのを見ると、ルアスは少し息を吸い口を開ける。
「この愚か者が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
突然の爆音にも似た衝撃で放たれた声に、近距離で受けた私は耳を塞ぐ。ルアスの口から放たれた爆音にも匹敵する声量は周囲に渦巻いていた暴力的な黒い嵐を掻き消した。
「何・・・今・・
「この辺でかっこよいとこ見せんとな。」
のルア・・・!?」
直後、目の前で起こった出来事に違和感が全くないせいで話を続けようとしたが、すぐに周囲を見渡すと、自身の場所が変わっている事に気がつく。それは、自身がルアスによる時空魔法で全く気が付かない内にネロの背後に移動したのだ。
そして間髪入れずにネロの背後からルアスが右手で拳を放つが、ネロはそれを見ずに受け止める。
「なるほど。」
奇襲に失敗したルアスは冷静な口調で言い、左手で指を鳴らす。するとルアスの拳が青く燃え、消えた。そしてその瞬間から場の気配が変わる。この広間。全ての空気が変わる。まるで、この空間全てがルアスに支配された。私はそんな気持ちに陥った。
「時間が無いからの・・・・一瞬で決める・・・。」
止まりゆく世界でルアスだけが悠々と歩を進める。
「ホントにお主は、暴走だけはするなって言ったじゃろうが・・・・はぁ、覚悟しろよ。馬鹿ネロが!!」
普段からは想像出来ないような低い声で言い終えると、ネロは蒼い軌跡を描きネロを全力で殴り始めた。
少し間を置いた声。その言葉が聞こえた次の瞬間、ルアスの攻撃は始まり、終わりを告げる。まるで何千、何万、何億と放たれた拳や蹴りが同時に襲い掛かるような打撃音と共にネロの身体に衝撃が走り抜け、鎧が砕ける。
『が・・・!?』
不意打ちに何億もの打撃を受けたネロはその場で膝を着く。が、倒れるのはどうにか耐えると、手にしていた剣を床に突き立てその場で動かなくなる。
「・・・どうにか行動不能まで持って行けたの・・・。」
いつの間にか、横で息を荒げルアスは乱暴に眼帯を外す。その時、眼帯で隠させていた右目の中を見る事になった。ルアスの右目には透き通るような透明な瞳の奥に幾つもの時計が漂っていた。
「ルアス、その目って?」
「これか?私の魔法陣じゃ。」
「それでネロを止めたの?」
「いいや、これはあくまで時空魔法を最大限で利用した副作用みたいなもんじゃ。ネロは殴り倒しただけ。」
「え・・・?」
ただ、殴り倒しただけ。その言葉にルアスは顔を引き攣らせる。殴り倒す?自身の何倍にも大きい魔物の攻撃ですら膝を着かなかったルアスに膝を着かせた。その事実にロロはその場で膝を着くネロを見る。
「・・・行ってきます。」
「うむ。」
多分、今しか好機は無い。ここで失敗すればネロは永遠に助からない。目の前でネロが苦しむ姿はもう見たくない。
「今行くわ。」
そうネロに告げ、足を踏み出す。近づく気配を感じ、魔物にも似た掠れた声が広間をこだまする。
『ろ・・・ろ・・・・。』
幾重にも重なりあったその声は、ネロの精神が黒い瘴気に完全に乗っ取られていない証拠だった。
『く・・・る・・・な・・・・。』
振り絞るような声と共に、今までの剣よりは格段に細い刀身の剣が私の前に浮遊する。
「やはり・・・出せるのか・・・・。」
背後から呆れ交じりの声が耳に入る。
多分、これが超えてはならない線なんだろう。
「これを超えたら私は死ぬ・・・?」
いかに細い剣でも恐らく私では抵抗も出来ないまま死んでしまうだろう。そう思うと全身が硬直する。
自分はネロを助けたい、でもその前に死んだら意味がない・・・。それでも、今まで命を懸けて護ってくれたのに、私が命欲しさに怖気づいて言いわけない!
「私は死んでも構わない!でもタダでは死なないわ。それにもし肉片になっても貴方だけは、世界で一番大切なあなたを死んでも助けて見せるから・・・・。待っててね、ネロ。」
私はこの状況下で微笑む。その時、その事態にルアスが初めて驚愕の声を出す。しかし、今はそんな事どうでもいい、私は今、一歩。超えてはならない線を、剣を避けるように通り抜ける。が、剣は一向に動かない。まるで誰も通り過ぎていないかのように。
・・・・・・ふぅ。私は無事成功したことを喜び、意識の中だけで溜息を吐く。
9割賭けだったが成功だった。土壇場で考え付いた魔法、概念化。今、この場にいる全員が私のことを見失ったはずだ。今、世界で自分を形成しているものは意識、自我、概念、魔力のみ。
肉体は魔力に変え自身の自我、意識を保護し、再び肉体に変換するときに使用する。これは自身の存在を覚えてくれるだけで成立する魔法だ。
ただし、これは自身の存在をどこまで知っているかによって肉体として姿を戻した時の質が変わる。例で言えば自身の事を一番知っている存在が姿形しか知らない場合は私は姿形は元に戻るが記憶は戻らない。
逆に、私と幼少期から片時も離れずに傍で記憶出来ている存在が居れば私はほぼ100%に近い記憶、自我で肉体に戻れることが出来る。そして私の肉体復帰に使う存在、それは物心着く前から私の中で私を見守ってくれた存在、奇跡の花だ。
概念化の中で、自身の肉体と同化していた奇跡の花は、肉体が魔力と化した影響でその姿を現し、すぐさま光の粒子になると、魔力と化した私の肉体をネロの元まで運んでくれた。それはまるで花が意思を持って動いているようで。
ありがとう。概念化で礼を告げると私は杖が形作られたイメージで肉体を形成、復帰させ、奇跡の花の中にある情報が自我、意識と共に肉体に流れ込む。そして、肉体に意識が戻ると同時に胸に突き刺さる剣の痛みを感じながらゆっくりと息を吐いた。
「ネロ・・・戻ってきて・・・。」
私は優しく背後からネロを抱き寄せた。抱き寄せると同時に胸から光が溢れネロを包み込んでいく。すると、真紅に染まっていたネロの目は元の茶色に戻り、背後から突き刺さった剣は硝子のように砕け落ちると地面で砕けていた鎧と共に砂の様に溶けていった。
「ロ・・・ロ・・・。」
ようやく黒い瘴気から解き放たれたネロが私の手を握り名前を呼ぶ。もう一度、私の名前を呼んでくれた。それだけで幸せだった。
「何?」
笑顔で返すのに対してネロは対照的に涙声で喋り始める。
「なんで・・なんでこんな無茶したんだよ・・・。」
「今までネロも・・・無茶したじゃない・・・。」
徐々に体から熱が奪われていく。なぜかそう長く無い気がする。それはネロにも伝わったのかさらに手を握る力を入れる。
「痛いんだけど・・・。」
「無茶のレベルが違うじゃないか・・・!」
「同じぐらいよ・・・。」
すでに意識は朦朧とし、逆にネロに抱きかかえられる。
「あぁ・・・・・ネロ。私、貴方が好き・・・多分、世界で一番好きよ・・・」
私は最後にネロの頬を擦り、笑顔で自身の気持ちを伝えると、そこで意識が途絶えた。
「おい・・・ロロ・・・?死ぬなよ・・・・こんな所で死んでんじゃねぇよ・・・!!!!」
ネロは大粒の涙を流し訴えるが返事は返ってこない。息もしていない。ロロは死ん・・・・。
「安心しろ、わての前で人は死なぬ。」
そう言いながらルアスはロロに近づくとそっと頬に触れる。
「助かる・・・のか!?」
「息をしとらんのじゃなく、わてがロロの肉体時間を限りなく緩めたんじゃ。しかし、急いぐことに越したことは無い。抱えて持ってこい。」
「本当に助かるんだな・・・?」
殺意にも似た鋭い眼差しにルアスは無言で頷く。
ネロはルアスの指示に従い、ロロを抱えると、すぐさま広間の出口から外に出・・・。と、出口の前まで来たところで元々、限界だった体は自身の意志とは関係なく不意に意識を断ち切った。
「全く、根性の無い奴らじゃの。」
その様子を見ながら溜息をついたルアスは魔力切れの自身の身体を持てる限りの速さで動かすと、ネロとロロが倒れる前に抱き抱えると広間を後にした。




