二話4 無限の胃袋
ダールの考えていた政殺を阻止し、ロロとバルネスタ国を出た俺達二人は道の途中で休憩していた商人の馬車に頼んで乗せてもらう事になった。もちろんタダとは行かず、有り合わせのお金で交渉した。
「で、これからどうするのよ。」
ようやく一息がつけると馬車の荷台に腰を下ろす俺だが、ロロに間髪入れずに質問責めを強いられ休む暇を与えられない。
「行く当てもなければ、私たちはお尋ね者よ?」
「いや、ダールも政殺が民衆にバレるのはよく思わないだろう。だから行く先々でお尋ね者扱い何てことにはならないと思う・・・。」
「思うって・・・そこ大事な所なんですけど。」
「ま、まぁ今の所は出来るだけバルネスタから離れることが最優先だろ。それに今、この馬車が向かってるのは商人の町ラークスだ。そこで幾らでも今後の目的を探せばいい。」
しかし、ロロは既に俺の方を向いておらず外の景色に魅入られていた。さっきロロから聞かされたがロロは人生で一度も城壁の外の世界を見たことが無いらしい。そればかりかバルネスタの町にさえほとんど行けない程だそうだ。そんな出歩けないロロに出会った俺は幸運と言うべきか不幸と言うべきか・・。
そんな俺の考えも気にならなくなるほどロロははしゃいでいた。
「あの花、本で読んだことあるわ・・・。確か・・コス・・・。」
「コスモスだ・・・。」
「ねぇ!ネロこの花って食べれるわよね!?」
「花はほとんどが食べるようなもんじゃ・・・。」
「この木の実は!?赤いから食べれそう・・・。」
ロロはそう言いながらいつの間にか手にしていた赤い木の実を口に運ぼうとする。
「赤ければなんでも食えると思えば大間違いだ。」
「てことは食べれないのね・・・。」
残念そうに見つめるロロ。しかし、なぜか再度、食べようと木の実を口に運ぼうとする。
「食べるなよ・・?」
「わ、わかってるわよ!別に見てただけよ見てただけ・・・・。」
「よだれ垂れてるぞ・・・。」
「!?」
自分の出しているよだれに気づかなかったのか、俺に指摘され急ぐようによだれを拭う。今思えばロロの食い意地の悪さは初めてあった時のリンゴで十分わかっていたはずだ・・・。俺は忘れていたことを後悔するように溜息をつくと。
「ラークスに着いたらなんでも食わしてやるから大人しく座ってろ!!!」
「ぐふっ!」
所構わず動き回るロロに、荷台の主である商人が心配そうな目を向けているのに気づいた所で俺はロロの頭を押さえて動きを止める。
そのあとも、しばらく動き回ろうとするロロを押さえつけていると、ロロは次第に大人しくなった。いや、逆に大人しくなり過ぎて・・・。と、そこで俺はロロが横で眠そうに船を漕いでいるのに気づく。
「まだ、ラークスまで時間掛かるから寝てもいいんだぞ?。」
「ん・・?そうさせてもらうわ・・・。」
ロロはそう言うと俺の方に姿勢を倒し、そのまま俺の膝の上に頭を乗せた。
「おい・・・。まぁ俺もさせてもらったし・・・。これで貸し借り無しだな。」
今日の一件で疲れたのだろう、既に俺の膝の上で寝息を立てて気持ちよさそうに眠っているロロを見てそう思った。俺はスヤスヤと眠る彼女を見て改めてこの数日の出来事を思い返した。
ダールに呼ばれて来たらロロと騎士たちの喧嘩に巻き込まれるわ、リンゴ食べられるわ、ロロの騎士にさせられるわ、シーナと出会って、挙句にダールの政略に巻き込まれるて城から逃げ出す羽目になるわ・・・。この出来事が僅か三日で起きたのだから驚きだ。
「まぁでも・・・。ロロに出会えたのはだけは良かったかもな。」
俺がロロの頭を撫でてやるとロロはくすぐったい様に身をくねらせる。寝てたら普通に可愛いんだよな・・・。いや、待てダメだダメだ!意識したら負けだ俺!!でも、髪も綺麗だよな・・・、銀髪なんて珍し・・・。
「だから考えたら負けだって!!!!!」
荷台で一人で叫ぶ俺はその後、ラークスに着くまでの間、自分の中の何かとずっと戦う事になった。
すでに空から日は落ち、満月が顔を出す頃に馬車は商人の町、ラークスに入る。
町は相変わらず賑やかで音楽や、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。そんな中、俺の横で外をありえないと言わんばかりに見つめる少女が一人。
「なんなの・・。この騒ぎ・・・喧嘩でもやってるの・・・?それとも外の町は全部がこんなうるさいの?」
町の賑やかさに目を覚ましたロロは警戒心全開で外の様子を隠れるように見渡す。
「色んな所から商人や観光客が集まるからな。その分、町も潤うから毎日祭りのように騒いでも大丈夫なんだよ。」
と、そこで馬車が止まる。俺は止まった馬車から降りるとなぜか荷台に隠れるロロを呼ぶ。
「なぜ警戒をするロロよ・・・。」
その姿は人間に脅える小鹿に酷似していた。
「ダメよ・・・これ出たら攫われるわ・・・。ほら、見なさいあの長い筒で音を鳴らす男を・・・。降りた瞬間、あの筒で殴り掛かる気だわ。」
この町の雰囲気にやられ疑心暗鬼に陥るロロ。ここがいきなり筒で殴ってくるような奴らばかりなら今頃、俺は周りの奴にタコ殴りにあっている所だろう。
「ねぇよ!!ほら・・・ずっとそこ居たら店が閉まっちまうぞ。」
食べ物関連の言葉を聞いた直後、目にも留まらぬ速さで荷台から降り、次の瞬間には俺の前を歩き始まる彼女。
「それを早く言いなさいっての・・・。おら早く!」
「口悪くなり過ぎだろ・・・」
しかし、俺の言葉は聞こえない。
「ほら、こっちから私を求める料理の声が聞こえるわ。」
ロロが指差す方向。そこにはいくつもの飲食店が並んでいる。俺はロロに手を掴まれ、引っ張られるように飲食街に足を運んだ。
「美味しい!!」
店内で頬を撫でるロロ。
「その品、何品目だ・・?」
「七品目?」
「36回目だ・・・。」
ロロの自称、私を呼ぶ食べ物は誰なのセンサーに導かれ入った飲食店は確かに食べたことのないほどの美味しさだった。
だが、今も目の前で食べ続けるロロを見るだけで誰もがお腹を膨らませれると思ったはずだ。すでに俺達のテーブルの上には数えきれないほどの皿が立ち並んでるのだから。
「美味しい!これも美味しいわ・・・!」
すでにこの店に入ってから一時間は経つ。その間、この化け物が食べた品は計36品、しかも未だに衰えない・・・。その光景は珍しいを超えて異様だった、周りの客も最初は珍しそうに見ていたが今や引いている、完全に人間を見る目ではなかった。
「あと、4品だけにしてくれ・・・。」
「くれ?」
「してください・・・・。」
「えぇ・・・、いくらでも食べさせてくれるんじゃないの?」
「人間だと思ってたんだよ・・・。」
「すいませ~ん!あとドリアと、パスタと、ピザに、これと、これと・・・。」
「勘弁してください!!!!!」
その場でテーブルに額を付けて謝る。すると、ロロは「あ、大丈夫です」と、店員に言い残すとあきれ顔で喋り始める。
「それにしても・・・あれよね・・・・これだけ・・・・頼ん・・・で・・・。」
「せめて食うか喋るかにしてくれない?」
「でも・・・あれよね・・・・これだ・・・」
「食うか喋るかにしてくれない?」
「・・・・・・」
この野郎、喋るより食べる方が大事ってか。
ロロは喋ることをやめるとひたすら残った品を食べ続ける。その後、しばらくして、ようやく全ての皿が空になる。
「美味かったか・・?」
「まだ、食い足りないけどね。」
「どんな体内構造してんだよ・・・。」
「それにしてもあれよね、よくこれだけ頼んでもお金足りるわね。お金の方は大丈夫なの?」
話を逸らすように話題を変えたロロ。正直、あれだけ頼まれたのは予想外で、足りるかどうか不安だった。
「まぁ、大丈夫だろ・・・。ほら、行くぞ・・・。この空気耐えられねぇ・・・。」
そこでロロはようやく周囲に気づく。周囲を見ると店内のほぼ全ての人がロロを見つめる。あくまで予想だが、日頃、城内で食べるロロは周りを気にする事など無かったのだろう。
「はずかしい・・・」
「おまえ、次からは少しは自重しろよ・・・。」
顔を真っ赤に染め、恥ずかしがるロロを引っ張り俺達は会計を済ます。
「10,5102ルビになります。」
俺は店員の口から言い放たれた額に気が遠くなるが、どうにか持ちこたえる。
「これで・・・。」
俺はコートの懐から一枚のカードを出す。その瞬間、店員は出されたものに戸惑うが、まじまじとカードを見つめると厨房に消えていく。しばらくして、カードを持っていった店員が厨房から姿を現す。
「ほ、本人と確認できましたので、このカードはお返しします・・・・。あ、あの・・・握手しても・・?」
「いや、少し急いでるので・・・。」
「あ、それは申し訳ありませんでした・・・。」
「謝らないで、また今度寄った時にでよければ。」
「またのご来店お待ちしております!!!!」
「ハハハ、じゃ、そういう事で・・・。」
俺は軽くお辞儀をするとロロを連れて急ぎ足で店を後にした。




