二話3 バルネスタとの別れ
城から脱出した俺は中庭からロロの部屋に荷物を取りに戻るとすぐさまロロを抱きかかえ城から抜け出す。その間、ロロは無言で顔を俺の胸に埋めていた。その後、城を抜け出した俺達は町を囲う城壁を前にして屋根を伝って来た足を止める。
「どうするかなこの壁・・・。」
目の前にそびえ立つ壁を前に思考を巡らせる。『魔術迎撃城壁』。この国の盾にして矛。魔力に反応し、ありとあらゆる魔術、魔力を有する物が王の許可無しに城壁に触れるもしくは頭上を飛び越えようとすれば最高密度の魔力障壁が展開、障壁から放出される魔力弾に迎撃される。
その効果は折り紙付きで、過去に空を覆い隠すほどの魔物の群れを城壁だけで全て迎撃、殲滅した。さらにその効果は人間にまで及び、魔力を体内に持つ俺やロロでもこの壁は許可無く超えられない。当然だが今頃は正門は警戒されてるだろう・・・。
「ねぇ、ネロ。なんで正門から出ないの?」
俺から降りた彼女は不思議そうにそう尋ねた。無知なのか、解って言っているのか。
「今頃、正門の方はダールの命令で警備兵だらけだ。」
強行突破は容易いが出来るだけ事を大きくしたくない。出来れば穏便に、騒ぎを起こさないように・・・。と、そこで俺はようやくロロの言葉の意味を理解する。
「全員眠らせればいいんだ。」
「それ。」
ロロは「ご名答」と、言いたげに俺を指で差した。
「さ、早く行きましょ?お父様の側近達が来るかもしれないわ」
そう言いながら歩き始めるロロ。あまりにも普通に歩く彼女だが、ここが屋根の上と忘れている辺り、先ほどの出来事がかなり堪えていると俺は見えた。
それもそうだ。今まで育ててくれた親に言い方を変えれば死んでくれと言われたようなものだ。しかも、それを彼女はかなり前から覚悟していたはず、なのに今もこうして生きている。それだけで今にも落ちそうなロロを見て俺はなんの不思議さを抱かなかった。
「そうだな・・・。」
しかし、ここが屋根と気づいたロロは驚くように振り返る。それはここが屋根だと気づいたから。ではない。ロロの言葉に返事をしたのは俺ではなかったからだ。その声は俺の後ろから聞こえた、ロロの目には恐らく男は身の丈ほどの大剣が俺の首を撥ねようと迫っている光景が見えるはずだ。。
ロロが手を俺に向け、声にならない声で俺を呼ぶ。しかし、俺に駆け寄ろうとするロロはその足を止めようとし態勢を崩した。それは想像した最悪の事態は起きなかったからだ。
「ッ・・・!?」
後ろの男の口から驚愕の声が聞こえる。まぁ、それもそうだ。完璧な奇襲に完璧な一撃。男が持てる力を出して振り切ろうとした大剣が俺の首からほんの5㎝程度離れた位置で止まっているのだから。
「お前・・・何者なんだ・・!?」
「俺か?ただロロの騎士だけど?」
俺は男の片手で大剣を摘まみながら答えた。
「馬鹿な!!この大剣を片手で・・しかも気づいてなかったはずだ!着地にも自信があった。」
「自分が非力なだけだろ?筋肉もっと付ければ?肉食えよ、肉。筋肉無さ過ぎて着地音聞こえねぇよ。」
一時期、常に食うか食われるかの世界に居た俺からすれば着地音があるかないかは些細な話だった。しかし、男は俺が冗談のつもりで言った言葉で顔が次第に青ざめていく。
「あり得な・・い・・・?」
しかし、男の言葉はそこで途切れる。なんと、背後の男を謎の結晶体に浸食されていくからだ。男の体は悲鳴を上げるより早く半透明の水晶に飲み込まれていった。
「なんだこれ・・!?ロロがやったの・・・なにやってんだ・・?」
「・・・いいから・・助けなさい・・よ・・・。」
そこには俺が男の方を向いてる隙に態勢を崩したロロが屋根の端でどうにか落ちないよう踏ん張っている姿があった。
そのあと、しぶしぶロロを助けると、彼女は体力を使い果たしたように座り込む。その姿は完全に一回目のお姫様だっこ後と同じだった。
「ロロ様お得意の反則魔法でどうにかならなかったのかよ。」
「滑った時に頭が真っ白になって・・・。気づいた時には踏ん張ってたのよ・・・。貴方も本気で身体に力入れてるときはあんまり物事考えられないでしょ?あの時どうすれば周囲に影響を及ぼさずに窮地を脱せれるかなんてイメージできなかったのよ。それに・・・。」
「それに・・・?」
「高い所苦手なのよ・・・。」
「結局、苦手なんだな・・・。それを聞いた後で申し訳ないんだが・・・。」
「何よ・・・。」
「もう一回だけ怖い思いしてもらう!」
そう言いつつ俺はロロを抱き上げる。しかし、ロロは何も抵抗されずに抱きかかえられた。てっきり抵抗をすると思っていた俺は拍子抜けしてしまう。
「あれ?抵抗とかしない、諦め系ですか?」
正直、グダグダ抵抗されるよりは諦めてくれる方が良いと思っていたが、抵抗されないと、それはそれでやりずらい。
「別に・・。ネロなら私を落とすとかしなさそうだし・・・いい。」
俺ならの所に少し興味を持ったがそれはいつでも聞ける。何気に結晶化されてる男に時間を取られてしまっ・・た・・・。そう考えながら俺は結晶化されてる男を見る・・・。
「なぁ、今更ながらあの結晶化したアイツどうなんだ?」
「それなら大丈夫、しばらくしたら結晶だけ飛散するわ」
そんな事が出来るなら自分の足元に結晶を生やすぐらい出来たのではないかと考えるが、俺を頼ってくれたと考えるとまんざらでもなかった。
「じゃあ、行くか!」
「いつでもどうぞぉぉイヤァァァ・・・んーーーー!?」
今、叫ばれたら場所ばれるからやめろ!!!!そう思いながらロロの口に手を当てながら俺は正門を目指して屋根から屋根に飛んでいく。
正門前には俺達の予想を遥かに超える人数が集まっていた。
「この人数でも行けるか・・・?」
「任せなさい・・!!」
俺の不安を一蹴するかのように小声で頷くロロは指を鳴らす。それとほぼ同時に正門前の人々が全員市場で見たように倒れ始める。しかし、中には数人、その場で持ち堪える者が居たが、次の瞬間には、俺の手刀で眠らされていた。
「別に枝じゃなくてもいいんだな・・・。」
「ついでに言えば呪文名とかも完全にその場のノリよ。」
「まじかよ・・・。っておい!寝てる奴の服を漁るな!!それでも王女か!」
「元でぇす!!今はただのロロですぅ!!」
「よし、ここから出たらそれぞれ反対側に逃げよう、それがいい。俺、ナイスアイデア。」
「嘘です!!私いい子!!返してるなう!!あっ、待ってって!置いてかないでよ!」
相変わらず追い詰められるとダメダメなロロだが、漁ったものを元あった所に戻すロロ。
しかし俺はそんな事知らないと正門を目指し歩く。それを見てロロが慌てるように俺の横に並んで歩く。
「でも、お金とかどうするのよ。」
「大丈夫、金なら余るほどある。」
その言葉にロロは俺の装いを見て半目で俺を見つめてくる。
なんでだろう、何も言っていないはずなのに「金を持ってるように見えないぞ。」そう聞こえてくるようだった。
「しかしいいのか?この門を潜ればお前は王女からただのロロになっちまうんだぞ?」
「愚問ね、すでに王女としての私はあの時に死んだわ。今も私はただのロロよ。」
「下の名前はどうするんだよ・・・。」
「そうね~、ロロ・ジグローグとか?」
冗談のように笑うロロだがそれを聞いて無理やりににでも笑えなかった。
「悪い事は言わない。それはやめとけ・・・。」
俺の言葉に疑問を隠し切れないロロは首を傾げながらも俺達は堂々と正門を潜りバルネスタ国を後にした。




