Last Christmas
「だから!」
語尾が荒い。とともに、小さなため息がスマホの向こう側から聞こえてくる。ややあって答えが返ってきた。
「……今日はちょっと無理だから」
「そうですか。ごめんなさい」
あたしはそう答えるしかない。無理を強制する権利はないのだから。じゃあねと電話を切って、人込みあふれる雑踏の片隅で、小さく鳴咽する。誰もあたしのほうなんか見ちゃあいないからと、人目を憚らずに。
そして。
あたしは人ごみの群れの中へ流されていくのだった。
あたしの彼の関係。ただの友達、のはず。
ただ、あたしが彼に片思いしてるだけで。
ただ、恋人にはなれないってきっぱり言われてるだけで。
彼と知り合ったのはいつだっただろう? なんのときにどうやって知り合ったのだろう? その記憶もあやふやなくらい前。
いろいろと遊んでみて。楽しくて、優しくて、かっこよくて。何より音楽の話で盛り上がれたのが嬉しくて。気がついたら彼のことばかり見てた。
でも、それは一方的な感情であったということに気づいたのは、すべて終わった後。彼は困った顔をして優しく「ごめんね」といった。それから、2人だけでは遊ぶことを許されていない。
なぜ?
あたしがわがままだから。あたしが彼以外のことをおろそかにしたから。そして、彼には好きな人がいるから。
何もかも分かったのは、すべて終わった後。
一人よがりの恋は身から出た錆ですべて崩れ落ちる。
片隅のとあるお店から「Last Christmas」が流れてきた。ふと目をやると品のよさそうなジャケット。これいいなあと手にとってため息を吐く。世の中はもうそんな季節なんだなあと。そして、これ彼が着たら素敵だろうなあと考えて、もう1つため息を吐く。
そのとき。
スマホが鳴った。
すっとタップして、出したのはメール画面。
-->ごめんね
彼からのメール。
こんな些細なことが嬉しくて、そして悲しくて。瞳が熱くなる。しばらく返事を書こうか迷っていたが、大きく深呼吸してスマホをバックの中にしまい込む。
それから、腕で涙をぬぐって。
「これ、クリスマス用のプレゼントでお願いします!」
さっきのジャケットをレジに持っていった。