表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ぼくとあたしの|恋物語《ラブストーリーズ》

Last Christmas

作者: 濱澤更紗

「だから!」

 語尾が荒い。とともに、小さなため息がスマホの向こう側から聞こえてくる。ややあって答えが返ってきた。

「……今日はちょっと無理だから」

「そうですか。ごめんなさい」

 あたしはそう答えるしかない。無理を強制する権利はないのだから。じゃあねと電話を切って、人込みあふれる雑踏の片隅で、小さく鳴咽する。誰もあたしのほうなんか見ちゃあいないからと、人目を憚らずに。

 そして。

 あたしは人ごみの群れの中へ流されていくのだった。


 あたしの彼の関係。ただの友達、のはず。

 ただ、あたしが彼に片思いしてるだけで。

 ただ、恋人にはなれないってきっぱり言われてるだけで。

 彼と知り合ったのはいつだっただろう? なんのときにどうやって知り合ったのだろう? その記憶もあやふやなくらい前。

 いろいろと遊んでみて。楽しくて、優しくて、かっこよくて。何より音楽の話で盛り上がれたのが嬉しくて。気がついたら彼のことばかり見てた。

 でも、それは一方的な感情であったということに気づいたのは、すべて終わった後。彼は困った顔をして優しく「ごめんね」といった。それから、2人だけでは遊ぶことを許されていない。


 なぜ?

 あたしがわがままだから。あたしが彼以外のことをおろそかにしたから。そして、彼には好きな人がいるから。


 何もかも分かったのは、すべて終わった後。

 一人よがりの恋は身から出た錆ですべて崩れ落ちる。


 片隅のとあるお店から「Last Christmas」が流れてきた。ふと目をやると品のよさそうなジャケット。これいいなあと手にとってため息を吐く。世の中はもうそんな季節なんだなあと。そして、これ彼が着たら素敵だろうなあと考えて、もう1つため息を吐く。

 そのとき。

 スマホが鳴った。

 すっとタップして、出したのはメール画面。


-->ごめんね


 彼からのメール。

 こんな些細なことが嬉しくて、そして悲しくて。瞳が熱くなる。しばらく返事を書こうか迷っていたが、大きく深呼吸してスマホをバックの中にしまい込む。

 それから、腕で涙をぬぐって。

「これ、クリスマス用のプレゼントでお願いします!」

 さっきのジャケットをレジに持っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ