9,俺、普通の日常、送りました。
「まさかのぼせるとは……。」
「まぁ、仕方ない。」
「あはは。ずいぶん面白い人つれてきたね、おねぇちゃん。」
さて、あれからのぼせてしまった俺は、ナビィのおかげで何とか助かった。そして今食卓にならぶ夕食をとろうと、椅子に座っているのだが……。
「えと、君は誰?」
「あ、紹介遅れました!私は伊波香穂。おねぇちゃんの妹です!」
「そ、そうなのか。」
なんだ、妹いたんか。まぁ、二人きりじゃないなら変な事も起こさないだろう。
「この飯、うまいな。どっちが作ったんだ?」
「私……。」
「伊波か!料理上手なんだな!」
このハンバーグは店でも出せるぞ。
「えと……香穂ちゃんは中学生?」
「え?ちゅうがくせい?何ですかそれ。」
あ、しまった。この世界には中学生とか無いんだったな。
「あ、ごめん。何年生?」
「三年生です。」
「てことは、伊波とは一つ歳が違うのか。」
「……ねぇ、大翔。」
伊波が箸を置いて、真剣な表情で言ってきた。
「なんで、私は『伊波』で、香穂は『香穂』なの?香穂も伊波。これは差別。」
「え?ん、ああ。そ、そうだよな。ごめん……。」
「……。」
ジト目でまだこちらを見ている。……うう、恥ずかしいんだよなぁ…。
「し、志穂…。」
「……うん。」
伊波……もとい香穂は、再び箸を進めた。
「わぁ……大翔先輩顔真っ赤。私はごく普通に下の名前で呼んだのに、なんでおねぇちゃんには照れるの?」
「え!?いやぁ……ほら、香穂ちゃんは年下だからさ!……その、遠慮がいらないというか…。」
「……バカにされてる気がするのは気のせいでしょうか……。ま、いいですけど。」
香穂ちゃんもジト目を向けてから、箸を進めた。親譲り……というか、おねぇちゃん譲りの銀色の髪が、サイドポニーに束ねられ、ぴょこぴょこ揺れている。
***
それから、しばらくくつろいだ後、志穂と香穂は自室へ戻って先に眠るのだった。
どうやら、二人は同じ部屋で寝ているらしい。
その様子を見ると、どうにも無理して俺を住まわせている様に見えて、迷惑をかけていることをよりいっそうに感じさせる。
「……早く、リルを稼げるようにしねぇとな。」
「正確には、魔物を倒して交換品を手に入れられるように、だけどな。」
「なんだよナビィ、まだ起きてたのか。」
「お前、俺に今日会ったばっかりだぞ?何日も過ごしたような言い方するなよ。」
む、確かに、俺はまだこの世界へ来て一日も経っていないんだな。…えらく長く感じる。
「……はやく、魔法が使えるようにならなきゃな。」
「まぁ、せいぜい首を長くして待つんだな。俺はもう寝るぞ。」
「ああ、おやすみ。」
「…。」
ナビィはそのまま天井の隅にピタリとくっついた。
「…さて、俺は瞑想でもするか。」
まぁ、寝ちゃったんだけどな。
翌日、俺と伊波姉妹で仲良く学校へ登校した。
「昨日は、眠れた?」
「ああ、よく眠れたよ。」
「ええー!凄いですね!あぐらかいたまま寝れるなんて!」
瞑想してたからな。
「えー、おはようございます、皆さん。今日も一日頑張りましょう。」
その後、教室へついた俺と志穂は、沙羅先生の朝の挨拶…いわば、教師の朝の常套句を聞き、休み時間へと入った。
「やぁ、魔法も使えないガキ。ちゃんと瞑想はした?クスクス…。」
「あ?何だよ悪魔女。瞑想ぐらいしっかりしたわバカヤロー。」
「え?ほんとにしたの?あはははは!!!信じちゃって!ばっかみたい!あはははは!!」
「あぁん!?てめぇがやれっつったからやったんだろうがよ!!?」
こんの女、朝っぱらからイラつく野郎だぜ!!
一時間目は、小屋の離れにあるグラウンドで体力作りの走り込みだった。何やら、魔法を使って戦うことは結構体力が必要らしい。
「はーい!ラスト5周ーー!」
「うっへぇ…キッツいなー!!」
「大丈夫?大翔くん。」
「お、おうよ!…木折は余裕そうだな。」
「えぇ?そ、そんなことないよぉ~。」
「あっ!おい!そんな余所見してっとつまずくぞ!」
「えっ…?わっ!きゃああ!」
「危ないっ!」
つまずいて身体が前に倒れこむ木折を、両手で肩を持ってしっかり支えることが出来た。ふぅ、危ない危ない。
「あ、ありがとう。」
「いえいえ。」
そして二人は再び足を動かした。
昼食の時間になり、俺は食堂へ向かおうとした。すると、志穂が俺の肩を叩き、呼び掛けてきた。
「どした?」
「今日は、お弁当作ったから、香穂と一緒に食べよ。」
「そーなのか?でも、香穂ちゃんって三年生だろ?そこまで離れてないっていっても結構距離はあるんじゃ…。」
「香穂は箒に乗ってくるから大丈夫。」
あ、そうか。ここの箒はかなりの速さだ。自動車と同じぐらいの速度は出る。…地球の常識で考えたらいけないな。
「……志穂ちゃんと大翔くんって仲良いよね。」
「…同棲でもしてるんじゃないの?」
「ええっ!?それって結構校則スレスレだよね。」
「スレスレっていうか普通にアウトだけど…。」
そんな木折と悪魔女の会話は俺には聞こえなかった。
そんな日常を過ごしていたある日、ちょっとした事件が起こる。そして、その日俺は、初めて魔法の凄さと強大さを思い知った。
「最近、世界樹の後ろにある森に、狂暴な魔物が出現しているようです。あまり近付かないようにしてください。」
「物騒だなぁー。」
沙羅先生の忠告に、不審者が学校にうろついているという報告を学校の先生から受けたような、軽い気持ちで俺は言った。
その日の放課後、俺は誰にも見つからないような場所で特訓(といっても、瞑想ぐらいしかすることがないのだが)をしようと、学園の周りをうろついていた。
「うーん…ねぇなぁ…。」
「なんで誰にも見つからないような場所で特訓するんだよ。」
「いや、そっちの方が魔法が使えるようになったとき皆を見返せるだろ?」
「お前のその考え方が分からんわ。」
すると、俺の背よりも大きい岩が二つ並んでいて、その間の奥に森が広がっていた。世界樹からは丁度西にあるため、沙羅先生の言っていた魔物も現れないだろうと、そちらの方向へ歩みを進めた。
「おい!そっちは止めとけ。」
「んだよ、ナビィ。別にいいじゃねぇか。忠告の場所は世界樹の後ろ、つまり、南にあるんだぜ?ここは西にある。だから大丈夫だって。」
「いや、そっちは魔物が出る。」
…?なんでそんな断言が出来るんだよ。
「なんの確信を持ってそんなこと言っているのやら。」
「それは…勘だ。」
「なんだそれ!あてになんねぇよ!」
俺はナビィを放って、森の中へと進んでいった。
「お、おい!大翔っ!!」