6,俺、喧嘩売られました。
「お前が噂の編入生か?」
真ん中の金髪頭の如何にもいけすかねぇ感じの兄ちゃんが言ってきた。
「ああ、そうだけど?」
俺はぶっきらぼうに、そして少し挑発的に言う。
「へぇ、やっぱ噂通りだな。」
一体どんな噂が流れているか分からないから、どんな反応をすればいいのか分からない。
「噂通り……弱そうな野郎だ。はははっ!!」
「む……?」
男が笑ったのにつれて、両隣にいるモブキャラも笑だした。俺から見て右がモブA、左がモブBとしよう。
「分からないって顔してるな?お前、編入して早々特別教室ってんだから、そうとう面白い噂流れてるんだぜ?」
薄ら笑いを浮かべながら真ん中の兄ちゃんが言ってきた。お前からしたら面白いかもしれないが、俺からしたら面白くない話だ。
このまま黙って聞くだけじゃ癪なので、俺は口を開く。
「…で?それを言うためにここまで来たわけ?」
「ん?ああ、そうだけど?まぁ、編入早々特別教室に行くような奴がどんな顔をしてるのか見たくてってのもあったけどな。はははっ!!」
ちっ、こいつシバきてぇ…。俺のイライラメーターは1060パーセントまで達している。
まぁ、この世界や、この学園に来て一日も経っていないわけだから、悔しいかと言われれば、案外そうでもなかったりする。でも、こいつの人をおちょくる態度はどうも、気に食わん。
腹が立ったので、立ち去ろうかと思い、立ち上がったその時、あ、めっちゃ立つって言葉使ったな今。
気を取り直して、立ち上ると、食堂の入り口からトテトテと小走りで近寄ってきた人物が一人。
木折だった。
「あ、いた!」と木折。
ふと、視界の隅に入ったいけすかねぇ兄ちゃんの顔を見ると、真っ赤に染まって「き、き、木折さん…」なんて言っていた。
なんだこいつのこの反応。
「や、やあ、木折さん。」
「うぇ…?あ、こ、こんにちは、剛田くん…。」
「め、珍しいね、食堂に来るなんて…。」
「え?あ、あぁ、いや、大翔くんに伝言があって…。」
すると剛田と言われた兄ちゃんがピクンと体を動かす。そしてゆっくりとこちらに目を向けた。
「ねぇ…木折さん。こいつの事を下の名前で呼び合う仲に…?」
剛田は声のトーンを少し落とし、怒ったような雰囲気をかもしだして言った。そう言えばさりげなーく下の名前で呼んできたな、木折。
「え?い、いや…特に理由は無いけど…?」
しかも俺は木折の事を下の名前で呼んでないしな。まぁ、男子からすれば女子に、それも美少女に下の名前で呼ばれれば、「こいつ、俺に気があるのか…?」とか思ってしまうが、女子からすれば何となくとか、理由はないとか、フレンドリーに接するために下の名前で呼ぶ、という感覚なのだ。大体、見るからに気弱そうな木折が、恋愛面でガツガツ行くようには見えないから、以上の理由で合ってるだろう。
「ま、まさか…こいつと付き合ってるとか…?」
話聞いちゃいねぇ。
「い、いやいや!つ、付き合ってなんかないよぉ~!」
ブンブンと両手を振り、全力で否定する木折。
…き、傷付いたりしないんだからねっ!
「…ほ、ほんとに?」
「ほんとほんと!」
「そ、そっかぁ…。ほっ…。」
…まぁ、流石にここまで来れば分かるよね。多分、いや、ほぼ100パーセントこいつは、木折に惚れているんだろう。この反応を見たらそうに決まってる。
しかし…これは反撃できそうだ。クックック…。
俺は行動に移る。
「そうだよ。俺と奈央は別に付き合ってないよ。」
そう言って俺は、木折の肩を掴んだ。
勿論、下の名前で読んだあげく、大胆な行為に出た俺を、木折に好意を寄せている剛田が黙ってはいない。
「…てめぇ…木折さんから離れろ。それに、何馴れ馴れしく下の名前で呼んでンだ。」
ものっ凄い睨み付けて言ってきたよこの人。
…そう言えば、木折はここまで大胆なことをされてるから、てっきり「ふぇっ!!?」とか言って顔を真っ赤にしてテンパるんだと思ってたけど、何も言っていない。どうしたんだろうか…。
「ぅ…ぇ…ぅ…はぅ…。」
真っ赤だね。いや、いっそ紅っていった方が相応しいかもしれない。
まぁ実際、女子と肩を組むなんて、俺もなかなかすることないから恥ずかしいもんだけど、かなちゃん(俺の彼女)と手をつ繋いだ時と比べたらどうってことない。俺はかなちゃん一筋だからなっ!………あとで謝っとこう…。
「てめぇ、名前何て言うんだ?」
「え?俺?俺は佐々寺大翔だ。」
「大会で覚えとけ。ボッコボコにしてやるからな!!」
そう言って剛田は、俺と木折の間を掻き分けて通った。モブたちも、少し戸惑ってから、こちらを睨み付けながら剛田についていった。
「けっ!いけすかねぇ…。あ、木折、ごめんな。ちょっと仕返ししようと思って…。」
「そ、そうなんだ…。何で仕返しになるのかは分からないけど…。」
ここであいつの気持ちをバラしてしまうのも良いが、そこまで下衆なことはしない。
「あいつと知り合いなんだ?」
「え、あ、うん。入学したときにやけに話しかけてきたんだ。」
うわぁ、入学のときからかよ。ゾッコンじゃねぇか。
「ふぅん…。まぁ、ああいうやつほど雑魚いんだろうな。威張り散らすだけで実力は皆無。俺だって魔法が使えるようになったら倒せるんだからなっ!!」
「剛田くんってこの学園でもトップ3には入るほどの実力者だよ?」
「なぬぅっ!?」
嘘だろ!?あんな奴は主人公である俺の秘めたる実力をこの学園の生徒たちに見せつけるためのやられ役じゃ無かったってのか!?
うわぁ……どーしよ……大会でやられちゃうよぉ……。ん?大会?大会って何の?
「な、なぁ、あいつ、大会とか言ってたけどなんの大会なんだ?」
「ああ、この学園には学年別武闘大会があってね、それが今から一ヶ月後にあるんだ。基本的にクラスごとで、代表者が何人か出て行われるんだよ。」
「へぇー。」
「その名も、『天下一魔闘会』」
「パクリじゃね?」
なんで学園内で、しかも学年別なのに天下とるんだよ。ドラ○ンボールネタ多すぎだろ。
「剛田の名前って何て言うんだ?」
読者の皆さんの為に分かって貰う為に敢えて聞いた。
「え?えーと、たしか……剛田ケンシロウだったはず…。」
お、おおぅ…。何でそんなガキ大将と「お前はもう、死んでいる」の人を合わせたような名前なんだよ。パクリかよ。
すると木折は、何かを思い出したように目を見開いた。
「あっ!大翔くん!沙羅先生が職員室まで来てって呼んでたんだ!」
「先生が?わかった行くわ。」
俺は食堂を出て、職員室へ向かった。
……あ、昼飯。
くそっ!あんのジャイ○ンが!!