5,俺、授業を受けました。
俺は特別教室の前に立っていた。
先程の豪邸のような学園とはうってかわって、こちらはおんぼろの小屋。まさかの本館とは離れた場所にあるものだった。
入りたくない。
そんな異様なオーラを放った扉を、俺は開いた。
中には三人の少女が居た。ガララという扉を開ける音と同時に俺を見た。一人は金髪ツインテール。一人は銀髪ショート。一人は栗色ポニーテール。どれも美少女だ。
「さ、大翔くん入って。」
「うおっ!?」
不意に、後ろから沙羅の声が聞こえて、俺は体を跳ねさせた。
「びっくりしたぁ……。沙羅か。」
「コラ、沙羅"先生"でしょ。」
む……。君づけで読んできたり、先生と呼ぶことを強要してきたり、なんか態度が変わったな…。
「はーい、みんな席についてー。今日は、編入生を紹介します。」
俺は黒板の前に立ち、自己紹介した。
「えー、佐々寺大翔です。よろしく。」
すると金髪ツインテールが俺に野次を入れてきた。
「何その格好…ダッサ!」
「何!?」
なんだこいつはいきなり。確かに俺は私服のまんまだ。制服は明日届くらしい。それでもダサいはないだろダサいは!
「こら沙菜!失礼でしょ!」
「……むぅ…。」
……そういえば、沙羅とこの金髪ツインテール……似てるな……。
「じゃあ貴方たちも自己紹介してください。」
沙羅がそう言うと、俺から見て左の席に座っている銀髪ショートが立ち上がった。
「伊波志穂。よろしく。」
淡々と言い終えた彼女は、伊波と言うらしい。
その次に隣に座る栗色ポニーテールは、慌ただしく立ち上がった。
「え、えと……木折奈央です……よろしくお願いします…。」
木折が座ると、さっき俺に対して失礼なことを言ってきた金髪ツインテールが偉そうに腕を組ながら立ち上がり、自己紹介した。
「七騎沙菜。」
名前だけ言って座った。
「よろしくもねぇのかよ!!……って、七騎?」
「すみません、家の愚妹が。」
愚妹……って、妹!?こいつが!?天使の妹とは思えないほど性格が悪いな!
「それでは大翔くん。席に着いてください。SHRを始めますよ。」
俺は沙羅の指示に従い、伊波の隣の席に座った。
***
それから10分間の休憩が入った。
「みんなって問題児なんだよな?」
「うん。」
伊波が返事をした。
「どう問題なんだ?」
「魔法のコントロールができない。」と伊波。
「わ、私は…魔力量が少なすぎて一回しか魔法を発動出来ません…。」と木折。
「……。」沙菜に至っては無視だった。
え?なんで沙菜だけ下の名前だって?そりゃあ、『七騎』って呼べば沙羅も反応しちゃうわけで。仕方がない。
「……沙菜は魔法で生徒に暴行を加えた。」
「勝手に言うんじゃないわよ志穂!!」
うわ……最低だなこいつ…。イジメでもしてたのか…?
「あ、あの……佐々寺くんはどうして…?」
「はんっ!編入直後に特別教室なんて、どうせろくでもない奴よ。」
「なぁ…お前は一体俺になんの恨みがあるってんだ…?」
「その薄汚い心に聞いてみれば?」
「てんめ…!!」
「あ、あのぉ……。」
おっと、木折の発言を無視してしまった。
「えーと……なんか編入試験?的なものを受けたんだけど……魔法が使えなかった。」
俺の言葉に三人が同時に驚いた顔をした。
「全く?」と伊波。
「ああ、全く。」
「全く魔法が使えないのにこの学園に編入出来たなんて……特別教室とはいえ凄いですね。」と木折。
「いやなんか、魔力量が多いらしいんだ。」
「魔力計ったんだ?」と金髪女。
「どれぐらい…?」と伊波。
「ええと…確か1億3000万だっけか…。」
またもや三人は驚いた顔でこちらを見る。
「1億越え…!?なんかの間違いじゃないの…?」
「す、凄いですね。」
「逸材。でも魔法が使えない。」
うーむ…やっぱり魔力量は凄いんか…。
すると、一度教室を出た沙羅が…いや、沙羅先生が戻ってきた。
「はーい、席についてー!授業を始めまーす。」
それから俺は、魔法について授業を受けた。
「今日は大翔くんが編入してきた事だし、魔法について復習したいと思います。まず、魔法を確立した人物は…?」
伊波が手をあげた。
「大魔導士、粗火才我様。」
「はい、正解です。」
「粗火…?大魔導士…?」
よくわからん言葉が並んでちんぷんかんぷんな俺。すると耳元でナビィが補足してくれた。
「大魔導士ってのは、魔法を初めて発動させた人物だよ。類いまれなる魔法のセンスと、能力からその名がつけられたんだ。」
「へぇー。」
「えー…魔法には属性があります。…では、木折さん。」
「は、はいっ!!…ぅぇ…えと…『火、水、土、光』ですね…?」
「はい正解です。」
ふむ。ここら辺は大体わかるぞ。
「では、属性にはそれぞれ階級がありますね。では、紗菜さん。」
「……下級魔法、中級魔法、上級魔法、究極魔法。」
おお、なんか燃えるな。特に究極魔法とかいう響きが良いな。
「下級魔法はみんな使えるはずですね。魔力の消費も比較的少なく、威力は低い代わりに運用は楽です。それ以上になると運用が難しくなる代わりに威力はとてつもないものとなります。」
「沙羅先生はどの魔法まで使えるんすかー?」
俺は聞いてるだけじゃなんだったので、質問してみた。
「えっ?私は究極魔法まで使えます。と、言うより、教員は全員究極魔法を使えるんです。」
「それってやっぱり難しいんですか?」
「はい。魔法の形質や、種類にもよりますが、会得するのに10年はかかりますね。」
ほえ~。すげぇんだな。
感心していると、天使様の妹がほざき始めた。
「ま、私も使えるけど。」
「……自慢?」
「悪い?」
けっ!いけすかねぇ奴だぜ。
「まぁ究極魔法は身体にかかる負担が大きいため、使うことはまずないです。」
天使様は苦笑いしながらそう言った。
なんやかんやで授業が終わり、昼食タイムとなった。
この学園は、学食が設けられており、それも無料で支給されるらしい。食堂は本校舎にあるから俺はナビィと共に離れの小屋を出た。
「ふぅ……しっかし……魔法が使えないなんてなぁ……。」
「誰でも下級魔法は成長と共に使えるようになるらしいぜ?それなのにお前は……まぁ、地球で育って、魔法の存在すら知らなかったから、仕方がないと言えば仕方がないけどな。」
俺は、ううむと腕を組んで唸る。あれ?俺ってチートじゃなかったのか……?えぇ……せっかくチートを味わえると思ったのに……はぁ。
いや、まだ覚醒が起きるかもしれない。土壇場で魔法が使えるようになるかもしれない!!
そんなこんなで食堂へとたどり着いた。
中に入ると、既に何人か食事をしていた。
「お、あれってラーメンみたいだな。へぇ……食文化は日本と変わらないんだなー。」
「そうみたいだな。ただ、一つ分かることは、電気がないかわりに魔法がある。」
魔法って電気のかわりなんか……。
とりあえず俺は、飯を注文して、料理が出来たら呼び出してくれるブザー付きの器具を受け取り、空いている席に着いた。
すると俺の目の前に、何やら嫌な雰囲気をかもしだした男三人組が現れた。