3,俺、助けられました。
とりあえず俺は、ナビィと共にタウロスに近付く事にした。
ナビィ曰く、タウロスは草食で、他の動物と比べて圧倒的に狩りやすいとか。モ○ハンでいうアプノトスみたいな?
「でさ、俺ってなにも持ってないわけよ。いくら温厚だからって丸腰て勝てるのか?」
「無理だな。でも、お前は魔法が使えるんだろ?じゃあ余裕だって。」
あ、そうだった。俺は魔法が使える。……けど、どうやって使うんだ?
「あの……使い方が分からないんだが……。」
「そんなもん俺に聞くな。」
だよな。妖精ごときに魔法の使い方を聞いた俺がバカだった。
「てめぇ今とんでもなく失礼なこと考えただろ?
」
「うおっ!?べ、別にぃ~?」
こ、こぇぇ……。なんでこいつは俺の心が読めんだよ。
とにかく、俺は魔法をなんとか出してみようと思う。
「はっ!!」
「……。」
「……。」
試しに右手を前へかざして「はっ!」って言ってみたが、何も起こらなかった。うーん……イメージでは炎が飛び出してたんだけどなー。
次は呪文を唱えてみようと思う。
「アブラカタブラ炎よ出ろ炎よ出ろ……はぁっ!!」
「……。」
「……。」
うーん……呪文を間違えたか?
「じゅげむじゅげむ……」
「おい。」
「ん?」
「タウロスが物凄い速さでこっちへ突進してきてるぞ。」
「は!?」
ドスドスと重々しい音を立てながら此方へ突進してきていた。顔をブンブンと振りながら一心不乱に走っている。……ぷっ、面白い顔してるな……。
「おい!なに突っ立ってんだ!逃げろよ!!」
「え?あ!!」
やばっ!!てか全然温厚じゃないじゃん!!寧ろ狂暴じゃん!!
俺は横へ全力で逃げた。しかしタウロスはこっちへ曲がって追いかけてくる。
「うおおおおおお!!!この嘘つきナビゲーターが!!」
「うっせぇ!!俺だってまだ一年目なんだよ!!」
「なんでそんなど素人を俺に遣わせたんだよ神は!!?」
「知るか!!こっちが聞きたいわ!!ってどんどん速く……うおおおおお!!」
や、やべええええええええ!!!!マジでこれは洒落になんねええええ!!!死ぬぅぅ!!二度目の死を迎えるぅぅぅ!!
その次の瞬間、タウロスが地面に倒れる音がした。
「「……え?」」
俺とナビィは同時に振り向く。するとそこには――金髪美女が居た。
「大丈夫ですか。もう安心してくださいね。」
「結婚してください。」
「わかりまし……ってええええ!?」
おっと、あまりの美しさに彼女との未来予想図を描いてしまった。
「失礼。口走った。」
「そ、そうですか……。何をどうしたらそのように口走るのか分かりませんが……。」
それから俺は、自己紹介と事情を説明して、どうにか都市へ連れていってほしいと頼んだ。
「分かりました。私の箒に乗せましょう。」
「箒って……空飛ぶやつ!?」
「は、はい……そうですけど?」
うほぉぉぉ!!テンションあがるわー!!やっぱ最高だなこの世界は!!
「おい。」
「ん?なんだナビィ。」
ナビィが小さな声で、耳元で話しかけてきた。
「言っとくが、お前が異世界転生したことは、この世界の人間には知られない方が良いぞ。」
「何で?」
「……勘?」
「なんだよそれ……。」
「とにかく、俺の勘がそう言ってるから言う通りにしろ。」
すると金髪美女は、ナビィの存在を不思議に思い、話しかけてきた。
「それって……妖精?大分小さいですね……。」
「ああ、こいつはナビィだ。」
「よろしくな。」
「あ、そういえばまだ私の自己紹介してなかったですね。私は七騎沙羅。沙羅でいいです。よろしくお願いします。」
……日本人みたいな名前なんだな。
それから俺とナビィは、沙羅の箒に乗って、都市へと向かった。
箒は、想像していたのと違い、空飛ぶバイクの様だった。座席もついてあり、乗り心地も最高だ。顔に当たる風も冷ややかで気持ちいい。
「なぁ、沙羅。あの都市ってなんていうんだ?」
「え?知らないんですか?」
あ、マズッたかな。なんとか誤魔化さないと。
「あ、ええと、俺って結構無知でさ。」
「そ、そうですか……。あそこは、この世界でも最大級の大きさを持っている都市であり、同時に魔法学園でもあるのです。その名も『ユグドラシル』及び『王立ユグドラシル学園』です。」
ユグドラシルって響きが良いね。そういうファンタジーな名称は得意だぜ、俺。
それにしても、この箒は速い。もう近くにそのユグドラシル学園が見える。上空を飛んでいても上へ見上げなければならないほどだ。
「なんであんなにでかいんだ?」
「あれは大半が世界樹で出来ているからですよ。学園自体は根元のほうにあるんです。」
世界樹ってあの?あ、だからユグドラシルなのか。はいはい。わかるよわかる。そりゃあでかいわけだ。
そんなことを考えているうちに、都市の入り口付近までたどり着いた。沙羅はゆっくりと下降していく。
そして俺たちは地面へ足をつけた。
「あ、ごめん、俺金持ってないんだ……。」
「そんなの要りませんよ。私も帰る途中でしたから。」
「帰る……?ってことは、沙羅もこの都市の住民なのか?」
「はい。ユグドラシル学園で教師をしているんです。」
「へぇ!そうなんだ!」
ほぉー。どうりで強いわけだ。とはいっても、実際にタウロスを倒した瞬間を見ていないから、どれほどのお手前なのかは分からないがね。
「大翔さんは学園に編入するのですか?」
「え?……ま、まぁ……。」
「えっ!?てことは、とてもお強いんですね!!」
「ん!?……う、うーん……。」
「わぁすごいっ!早く学園にいかなきゃですね!」
な、なんだか良からぬ誤解をされてしまった……。いや、でもあながち間違っていないはず……。なんたって俺はチートなんだからな!
「おい、お前は魔法を上手く使えない癖に何見栄はってんだ。」
「いや、でも俺が凄い魔法を使うことが出来るのは事実じゃん?」
「……魔法は感覚的な物らしい。例えるなら、右手を動かすのと同じで、意識しなくても出来るものなんだ。しかしお前は――……一度、神様に相談してみる。」
「え?」
ナビィはそう言うと、姿を消した。
「あれ?どこいっ――」
「大翔さーん、早くしないと遅刻しますよー!」
沙羅の声に反応した俺は、戸惑いながらも先を行った沙羅に駆け寄っていった。