2,俺、転生しました。
俺は目を開いた。
「ここは……。」
辺りを見回してみると、光が少ししか射し込まず、薄暗い。空気も心なしか少ないような気がする。地面はごつごつしていて、壁は岩が敷き詰められていた。人工ではない、明らかに自然に出来たものだ。その岩は、少し濡れていて、ぬるぬるしている。苔も生えていた。
座ったまま後ろを見ると、外の光が射し込んでいた。そこからようやく理解した。ここは洞窟の中なんだ、と。
「おお、俺ってやっぱ生き返ったんだな。夢じゃあ…ないよな。」
天国のような場所で神様と出会い、転生した。まるで夢のような出来事に俺は、現実味を感じられなかった。
だが俺がやらなければいけないことは、魔法について学ぶこと。まぁ、そこまで必死になって、地球に戻りたいとは思っていないけど、魔法とかチートとか、憧れは多少持っていたので、この第二の人生を楽しみたいと思っている。
俺は、「よっこいしょ」とおっさん臭い声をあげながら立ち上がり、外へと向かった。
「う、おお……すげ。」
外へ出ると、そこは本当にファンタジーな世界が広がっていた。
見たこともない鳥。
見たこともない牛。
そして――見たこともない都市。
「って……でかっ!!」
なんじゃあの都市!?でかすぎじゃね!?
俺の位置から数千メートルはあるであろう都市が、見上げるほど大きい。一体何千メートルあるんだあれ……。
「てか、神様が言ってた学園ってどこにあるんだ……?」
「今お前の目の前にあるじゃん。」
「えっ!?あれ!?あんなでかいのが学園っておかしくないか……って、え?」
今、誰かに話しかけられたよな……?
周りを見ても、誰もいない。居るのは虫みたいな光ったものだけ。蛍か……?
「ここだよ、ここ。」
「うわっ!またしゃべった!何処だよ?」
「ここだってば!」
絶えず周りを見るが、やはり誰もいない。
「いい加減気付けよっ!」
「あだっ!?」
頭に衝撃が走った。そこそこの痛みに、思わず声をあげてしまう。
痛みのした方を見ると、先程の虫が居た。
「ええ!?誰も居ねぇ……。」
「どんだけ鈍いんだよ!!ここまでしたら普通分かるだろうが!!」
え……虫が喋った……?ま、まさか……。
「……お前?」
「おう。俺だ。」
……その姿は、ゼ○ダの伝説に出てくるナビゲート役の妖精のような姿をしていた。
「俺は神から遣わされた、お前の付き人だ。まぁ、言うなればナビゲーターってわけだな。」
うわあお。やっぱナ○ィじゃん。
「ええと……んで、ナビィは学園の行き方分かるか?」
「誰がナビィや。てかナビィゆーてもーてるやん。」
関西弁の鋭い突っ込み。
「まぁ、名前なんかねぇから良いけどな。」
「良いのかよ。じゃあお前はこれからナビィな。よろしく。」
「おう。で、学園の行き方だっけ?ここからあそこまで歩いて行こうと思ったら三日はかかるな。絨毯で三分だ。だが金がかかるからまずは――」
「ちょ、ちょっと待て!絨毯ってあれか?魔法の絨毯のことか!?」
「ん?ああ、そうか、お前は地球人だったな。ああ、そうだよ。いわゆる、魔法の絨毯だ。」
うおおお、それはかなり俺のテンションをあげるやつだなおい!
「で、だ。無料では乗れる品物ではないからな。金が必要だ。」
「えっと……確かここに、二万円あるぞ?」
俺は財布は持っていなくて、ポケットに入れる奴だからな。
しかし、ナビィから帰ってくる言葉は微妙なものだった。
「いや、この世界で地球の金なんて使えねぇよ。通過は『リル』だ。」
「リル?」
「ああ。魔法の絨毯に乗るためには片道15リル。」
「……んで、その15リルはどれぐらいで稼げるんだ?あいにく、俺には1リルがどれぐらいの価値なのか、基準がわからないんでね。」
「ええと……確か、お前はニホンに住んでたな?……円に直すと、1リルあたり約54円。まぁ切り捨てで50円と考えていいだろう。」
てことは……魔法の絨毯片道750円って事か。たけぇなおい。
「だがまぁ、仕事につくには何らかの都市に行かなければならない。ここら辺で一番近い都市は目の前にある。つまり、どちらにしろ三日はかかるってわけだ。」
「ダメじゃん!!」
「まぁ最後まで話は聞け。だがこの世界では物々交換が効くんだ。」
「あれか?米とかを交換する……。」
「まぁ、そうだ。この世界では魔物がうじゃうじゃいる。その魔物の『毛皮』とか、『肉』とかを交換することで、その価値次第でリルと同じ役割を果たすことが出来るんだ。」
へぇー。なんだかRPGみたいだな。
「うーんと……。」
ナビィは身体を盛んに動かし、辺りを見回している様だった。そして何かを見つけたようで、ピコンッと、身体を跳ねさせた。
「お!あそこに良い獲物が居た。ふむふむ……『タウロス』か……確かタウロスの肉は100グラムで20リル相当だったはず。よし、あれに決めた。」
俺は前を見てみる。前、とはいっても、ここは結構高低差がある草原で、俺は今、高い位置に立っているため、見下ろす形になっている。
ここからは草原全体を見回すことができ、魔物がうじゃうじゃ歩いていた。だが、その魔物たちはどれも同じ種類のように見え、ナビィが見つけていた『タウロス』という名の魔物は、一頭だけ違う色をしたものだった。
「良いことを教えてやろう。物々交換で必要不可欠な知識だから、よく聞いておけよ?コホン。」
「お、おう。」
「交換する物の種類には、『食用』、『加工素材』、『レア物』。この三つの種類がある。これらは、基本的に魔物から採れたり、加工素材では、山など自然から採掘することで採れたりする場合もある。しかし、これらは相場が大体決まっているんだ。」
ふむふむ。なんだか楽しくなってきた。俺は『加工素材』とかいう響きが好きだな。
「食用は一つあたりのリルは少ないが、多く採集出来る。まぁ、1000リル集まればまぁまぁってとこだな。」
「1000リルて……50万円かよ。」
「加工素材は素材によって価値が違ってくる。採れる場所の環境次第では、一つあたり5万リルはくだらないだろう。それに、量も採れる。だがそれは採れる魔物の危険度や、環境の厳しさ、採集の難易度で決まるから、安定して採ることは厳しい。」
「なぁ、それって仕事にするとかあるのか?」
「ああ。仕事で大量に入手して、工場や市場に売り出して儲けることも出来る。まぁ、お前みたいな浪人は、自分の生活する分を毎回採集して生活するしかないな。」
うーん……俺が考えていたより結構シビアな世界なんだな、ここって。
「話を戻すぞ。最後に、レア物だが……まぁこれは正直無視して大丈夫だ。一生採れんから。」
「そ、そーなんだ。」
「ああ。一個でも見つけたら一生遊んで暮らせるだろうな。」
「……ちなみに、どれぐらいでしょうか……?」
「……大体……1恒河沙3540極リルぐらいかな。」
な、なにそれ!?全然聞いたことない単位ばっかりじゃん!!てかこの世界にどんだけの金が出回ってるんだよ!
「まぁ本気でレア物を探している物好きもこの世界にはわんさかいるんだぜ?……とにかく、今はあのタウロスを狩って、食用の肉を採集しろ。」
……どうやって倒すん?