18,俺、魔闘会しました。4
「"ウォータスキン"ランス"!!」
男子生徒は大量の水の槍を香穂に放つ。
絶え間なく襲いかかる槍を、必死にかわす香穂。
HPの少なさから、一撃でも食らえば負けてしまうという事もあって、俺はずっとヒヤヒヤしている。
「ちょっ!ああっ!!危なっ…!!あっ!!……ふぅ…あぶねぇええっ!?!?ほっ…おわあっ!!」
「うるさい!!!」
沙菜に怒られた。
「くっ…ちょこまかと…いい加減やられろよっ!!」
「そうは…いかないっ!!」
香穂は襲いかかる槍を、掌ぐらいの大きさの、水の球で相殺させた。
「じゃあ…そろそろ魔力も尽きそうだから、本気で行かせてもらうぜ?」
「…!」
香穂はその言葉に身構える。
「はあああああっ!!!!」
男子生徒は思いきり声をあげ、全身に魔力を込めた。その圧力で、大気が揺れた。
観席の客たちはどよめく。一体何が起こるんだ、どんな魔法が出るんだ、と。
やがて男子生徒は右手を上に掲げた。すると彼の頭上に水が集まっていく。そして一つの個体となり、形作られた。
それは、30メートルはあるであろう、大きな槍だった。
「グランウォータ"パルチザン"!!!」
「……っ!!」
「お、おい!あれって上級魔法か!?」
「ああ、そうだな。あんなものを放たれたら逃げ場なんて無いだろう。」
ナビィは冷静に言い放った。
どーすんだよ、香穂!!
「……すぅ…。ふぅーー……。」
すると香穂は目を瞑って、大きく深呼吸をした。
それは気持ちを落ち着かせ、冷静になろうとしているようにも見えたし、対抗する魔法を発動しようとしているようにも見えた。
「さぁ、来るわよ。」
沙菜が呟いた。
「アルテマウォータ」
「終わりだああああ!!」
男子生徒は巨大な槍を地面に向けて放った。それだけで香穂に攻撃が当たることは確実だったからだ。
「"人魚の目配せ"」
そう言って香穂は、自らの右目をウインクさせた。槍に向かって。
パアンッ!!!!!!
鼓膜が破れそうになるほどの爆音がした。それは、巨大な槍――つまり、パルチザンが弾け散る音。
「な……!!?」
「もう一度……!!」
香穂は、男子生徒を見る。
「"人魚の目配せ"!!!!」
「うわあああああああ!!!」
パアンッ!!!!!!!!!
それは、男子生徒には当たらなかった。
「……ぅ……ぁ……!!」
――コントロールが効かなかったのだ――。
香穂の戸惑いを見逃さなかった男子生徒は、すかさず攻撃を仕掛ける。
少し反応が遅れたが、水で壁を作り、防ごうとした。……だが…。
魔力が尽きた。
「……っ……!」
目を見開き、残酷な物を見ているような顔をする奈央。
「……。」
しっかりと見届けるように、冷酷な顔で見つめる沙菜。
「………………。」
耐えきれなくなり、目を逸らす俺。
「くそがっ……!!」
勝負の結果は、男子生徒の勝利だった。
***
「仕方がないわ。究極魔法を二回も発動して、魔力が尽きてもおかしくない。」
沙菜は言った。
俺たち三人は、準備室で待機していた。香穂のケアは先生に任せ、そっとしておいた。
「……香穂ちゃん、今年は絶対に勝つって、気合い入れて毎日訓練してたのになぁ…。」
それは俺も知っている。
数日間同居して、彼女の努力を近くで見てきた。報われないのは、あんまりだ。
「ポテンシャルが良くても、魔法がコントロール出来ない。か。」
「香穂が魔法をコントロール出来るようになったら、学園No.2の座は香穂になるでしょうね。」
俺は沙菜の言葉を忘れることはなかった。
***
「や。」
「お、おう、香穂…。もう、大丈夫なのか……?」
「ん、大丈夫。」
無理していっているのかと心配したが、無表情な顔からは読み取る事は出来なかった。
あらから数分経ち、二人目の出場者である奈央が会場へと向かっていた。
『それでは、ただいまより二人目の試合を開始したいと思います。』
司会のアナウンスが聞こえ、俺たちは会場が見える窓の方へと寄る。
会場に立っているのは奈央と、茶髪をロールさせ、如何にもお嬢様というような女子生徒が相手だった。
「よ、よろしくお願いします……。」
「ふん、特別教室のやつでしょ?あなた。話にならないわね。」
相手はそんなことを言ってのけた。
「き、気に食わねぇ~…!!」
「ふん、あいつは特別教室の意味を解っていないバカ野郎ね。」
沙菜が見下すように言う。
「それってどういう意味だ……?」
「見てれば分かるわよ。」
『それでは……試合開始っっ!!!』
そのアナウンスと共に、歓声が上がる。盛り上がっているのだ。
「エーテルコアを解放!!ファイアスキン"タイガー"!」
相手は素早く詠唱し、先制攻撃を仕掛けた。
お嬢様の背後には炎で出来た大きな虎が現れる。激しく燃える炎の演出も合間って、よりいっそう凶暴に見えた。
「いっけぇっ!!」
お嬢様は右手を前に差し出し、虎を放つ。
炎の虎は真っ直ぐに奈央の元へと走っていく。
「エーテルコアを解放。……座標、12,58展開。」
「お、おい、そんなモタモタしてるとやられ……!!」
「大翔。大丈夫。」と香穂が言う。
「え?」
しかし炎の虎はもう奈央の目の前まで迫っていた。
「目的を使行する。」
「"大地の衝撃"」
その時、奈央の前から謎の衝撃が、お嬢様に向かって一直線に起こる。
「え、ちょっ……きゃあっ!?!?」
炎の虎は愚か、お嬢様は一気に観客席と会場を隔てる塀にぶつかり、衝撃を受け続ける。HPはじりじりと減っていった。
「――っ!!――!――!!」
ズズズズズズ!!!
対魔法耐久特化の魔法がかけられた会場が、ヒビが入りそうなほど揺れる。
「なんじゃあれ!?」
「奈央は、現在解析されていない、土属性『大気系』の魔法を操りながらも、魔法が一日一度しか発動できない謎の人間なのよ。」
沙菜が言う。
「特別教室ってのは、力が弱いから、能力が無いから別に指導されているのではなく、異質な才能を持っているから、本校の人間とは別に指導を受けているのよ。」
試合開始、僅か18秒で、奈央の勝利となった。
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――――
――
「おつかれ、奈央。」
「あ、大翔くん。ありがと。」
俺は、次の出場準備の為に移動している最中に、廊下で奈央とすれ違った。
「次、頑張ってね。」
「……おう、頑張る。」
はい、正直言います。めっちゃ緊張してますね。
『さぁて、お次は噂の編入生対学園屈指の実力を持つ奇跡の一年生の一人、剛田ケンシロウだぁぁ!!』
ワァァァァァ!!
歓声が聞こえる。
……はぁ、落ち着け俺。あん時みたいに魔法を使えばいいんだ。……あん時みたいって言っても、ほぼ記憶無いんだけどね。
「おい大翔。そろそろだぞ。」
「うお、ナビィ、居たのか!?」
そして俺は会場へと足を踏み入れた。