15,俺、魔闘会、しました。1
「と、とうとうこの日が……。」
「これで優勝したら、地球に帰れるぞ。」
「よ、ようし。頑張るぞ。」
天下一魔闘会当日。朝起きた俺は尋常では無いほどの緊張感を持っていた。俺は少し緊張しやすいのかもしれない。
「おはよ、大翔。」
「おお、おはよう、志穂。香穂ちゃんは?」
「先に学校へ言った。魔闘会の見学席取りだって。」
「そっか。……いよいよだな。」
「…うん。」
「……頑張ろ。」
「……うん。」
***
俺と志穂は特別教室に着き、先生の指示を待った。
「はーい!おはようございます。」
「「「「おはよーございまーす」」」」
「今から魔闘会場に移動したいと思います。えーと……大翔くんは箒持ってないんですよね?」
「あ、はい。」
「では、三人の内の誰かに乗せてもらってください。」
そして、俺たちは教室を出た。
「大翔。乗って。」
「大翔くん、乗る…?」
「え、ええと……。」
今俺は志穂と木折の二人の美少女に箒に乗らないかと誘われている。何?この状況。こいつら何か勝負でもしてんのか?
「大翔は私の箒に乗る。」
「え、えぇ……わ、私のに乗るんじゃないかと思う……。」
「私と大翔は何日も共同生活をしている。」
「「「!?!?!?」」」
お、おおおおおおおいいいいいいい!!!!なんでそれを今!!ここで!!言うんだよぉぉぉ!!!
ほら!木折と沙菜がびっくりしているじゃねぇか!!
「だ、だから毎日一緒に教室へ入ってきてたんだね!?」
「うん。」
「下の名前で呼び合う間柄だし……。ま、まさか一線を越えたんじゃ……!?はぅぅぅ!!」
「うん。」
「おいぃぃぃ!!!!違うからな!?木折!!」
「奈央!!」
木折が俺に叫んできたから少しびっくりした。
「奈央って呼んで!」
「お、おおう。急にどした?」
「だって、私だけ下の名前で呼ばないなんて、差別!」
「な、なんかキャラ変わってね?」
「……ぅぅ…。」
「な、何で泣くんだよ!!わかった、分かったから!!下の名前で呼ぶから!!」
「…ぐす。ほんと?」
「ああ。…奈央。」
「…っ!ありがと!大翔くん!」
な、なんやこの雰囲気は。ラブコメみたいだなおい。いや、騙されるな。前にかなちゃんから聞いたことがある。
「女の涙は9割方嘘だから。」
無情な現実を知った俺は激しく絶望したのを覚えている。そう、これは罠だ。こいつ…普段は気弱なキャラの癖に中身は相当やり手だな…!!…ってまた志穂と木…じゃなくて奈央が争ってるし。
「ほら、乗りなさいよ。」
「へ??」
意外すぎる人物からの誘いに、思わず変な声を出してしまった。
「ど、どういう風の吹き回しだ??」
「べ、別に何もないわよ…。ただ、いつまでもああやって争っていられると、先に進めないじゃない。」
「……。」
「疑ってんじゃないわよ。」
「わかった。確かにこれじゃいつまでたっても会場には着けないだろうな。先生も待たせてるし、ここは乗せてもらうよ。」
「変なとこ触ったらミンチにするから。」
「お、おす。」
マジなトーンで言われたから焦る。
とりあえず俺は、お言葉に甘えて沙菜の箒に乗せてもらう事にした。
「「あっ――!!」」
「あんたたち、先いってるから。」
「お先に。」
「「抜け駆けは駄目(だよ!)」」
こうして、無事?全員がそれへ飛び立つことが出来た。
俺たちは箒に乗って、空を飛んでいる。それは、魔闘会場に向かうためだが……
「なんで上に?」
「魔闘会場は世界樹の丁度半分の所に建てられているからよ。」
「そ、そーなのか。」
まるでエレベーターのように、上へと登っていく。
……それにしても、この箒は少し小さい。いや、一人で乗る分には十分だけどな?でも、二人では小さい。だから問題点が二つあるんだ。一つ目は手の置き場に困ること。
箒は、見た目が普通の箒の物もあれば、座席が設置されているものもある。この箒は前者なので、手で箒を持って、しっかりと体を支えなければいけない。けれど、俺は自分の後ろの掃く部分を持っているため、非常に不安定だ。
何故こうしなければならないかというと、俺と沙菜の距離がほぼゼロだからだ。
つまりは密着状態。前に手を置くスペースなど微塵もない。これが二つ目の問題である。相手が気付いていないのが不幸中の幸いか。……くっ…こいつ、めっちゃいいにおいする……。悪魔のくせに…悪魔のくせに…。
「さぁ、着いたわよ。」
沙菜の言葉に反応した俺は、前方を見た。
そこには、世界樹に空いた大きな穴の中にコロシアムのような会場が設置されていた。大きさは、東京ドーム1,4個分くらいだ。
「うおおおお!!壮大っ!!」
「ちょっと、はしゃぎすぎ。バカじゃないの?」
「バカとはなんだバカとは!!」
「ちょっ!!そんな暴れたらバランスが…!きゃっ!!」
「おわあっ!!」
沙菜にバカにされて頭に血が上った俺は、つい暴れてしまったのだ。ここが箒の上だということを忘れて。そのお陰でバランスを崩してしまい、俺は沙菜に寄りかかるような体勢になってしまった。
……沙菜は何とか箒を操ってバランスを保った様だが……。
俺の手は沙菜のペッタンコな胸に置かれていた。
「あ」
「……っっ!!」
「いや、ちょっと待て沙菜。これは不可抗力で――」
「ミンチッッ!!!!」
沙菜は目を赤く光らせ、魔法を発動させた。
「ぎゃあああああ!!!」
魔法をもろに食らった俺は、気絶するのだった。
***
俺たちは会場に着地したあと、選手専用の準備室に来ていた。
「では、対戦の組を発表します。」
沙羅先生はホワイトボードのような板に、大きな紙を貼っていた。それを捲ると、対戦の組が書いてあった。
「ジャーン!私たち特別教室はA~Eのうち、Dにあたりまーす!」
つまり、4年A組かE組まであるうちの、D組と対戦となるのだ。ちなみに三回戦だ。
「三回戦の、出場の順番は、木折さん、伊波さん、沙菜さん、大翔くんとなります。」
「なるほど。一人出れるのは一回だけ?」
「はい、そうですね。勝っても負けても一回です。」
……ジャイアンと戦えるのだろうか。
「さぁ、三回戦までは観客席で観戦してください。試合間は15分あるので、焦らなくても大丈夫ですよ。」
「よっしゃあ!見にいこーぜー!!」
「ちょ、あんたテンション高すぎ。バカじゃないの?」
「うっせ!こういうのは普通盛り上がるもんだろ?」
「……ふん。」
沙菜も満更では無いようだ。ったく、ほんとツンデレさんなんだから!
俺は一番乗りに観客席へ着こうと、勢いよく扉を開いた。すると……
「ごぺえっ!?」
「え?」
ジャイアンが扉の前に居た。案の定、顔面に当たるわけで……
「なんだお前、盗み聞きか?」
「はんっ!俺はD組だ。お前と戦える時を楽しみにしてるよ。」
「やってみろ!!」
「ずいぶんな自信だな?」
「お前こそ、俺と戦う前に無様に負けんなよ?」
「寝言は寝てから言…だっっ!!!?」
「あ、ごめんねぇ……。」
事務のおばちゃんに掃除用具をぶつけられて、痛がるジャイアン。
「ぷっ……だっせ…。」
「…!!……てんめぇ……覚えとけよ…!!」
そう言って、去っていった。
さあて、気を取り直して観客席に行くとするか。