14,俺、入院しました。
『俺はお前らとは違う!!』
『お前らは人間じゃない!!!』
『悪魔だ!!!』
『お前らは……俺が焼き尽くしてやる!!!』
『お前らを殺した後に、真っ黒になるまで焼いてやるからな!!!』
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「……ん……。」
目を開くと、見知らぬ天井があった。多分、志穂の家の天井ではないだろう。それにしても、変な夢を見た。
起き上がって周りを見る。……病院?
「あ!起きたか!」
するとナビィが俺に近付いてきた。
「なぁ、一体何が起きたんだ?俺はいつまで寝てた?」
時間的に現在、8時41分。
「お前、亜人に襲われてから、9日間ずっと寝てたんだぞ。」
「えっ!?」
「栄養摂取は点滴でされていたが……とりあえず飯食え、飯。」
隣のミニテーブルを見ると、健康的な朝食が置かれていた。
パンを一口かじって、俺は言った。
「なぁ、てことは、明日魔闘会なのか?」
「そうだな。」
「ちょ、やばくね?」
「そうだな。」
「退院は何時なんだ?」
「今日。」
「マジか。」
ワカメのスープをすする。
「てか、俺って魔法使えたよな。」
「ああ、あれは凄かった。あの場所は地面が盛り上がってめちゃくちゃになってるよ。」
そんなに凄い魔法を使ったのか、俺。
記憶は確かにある。だが、思っていたより魔法を使ったという実感が湧かないのだ。
適性属性が見えて、そこからは体と口が勝手に……。って
「こんなことしてる場合じゃねぇ!!!」
「うおっ!」
「訓練すっぞ訓練!明日に向けて!」
俺が布団から出て、外で訓練しようとしたその時、ナース姿の看護師さんが入ってきた。
「あっ!駄目ですよ佐々寺さん!今日は安静にしておいて下さい!」
「えっ……いや、その……(うわ、めっちゃ美人じゃん……)明日魔闘会なんで、その……ていうか、今日退院じゃ無かったんですか…?」
俺はちょっとドモりながらも言う。
「そうですけど、夜まではこの医療所にいてください!」
上目遣いで言ってきた。……やべ……だ、駄目だ大翔!!!俺にはかなちゃんという彼女が……!!!
まぁそんなこんなで、今日はじっとしておくことに決めました。
***
「あー……暇だなぁ…。」
「さっきから暇暇うっせぇなおい。」
「だってほんとに暇なんだからさ。」
その時、扉が開いた。
「や。」
「久しぶりです!先輩!」
「おおっ!志穂香穂!!」
ちょっとマナカナ風に言ってみた。
志穂と香穂が見舞いに来てくれたのだ。
どこかで買ったであろうデザートの、プリンによく似たプディンを買ってきてくれた。俺がプディンを好きになった理由は、地球のプリンにめちゃ似ているからという、単純なものだ。
「もー先輩が居なくて寂しいよ。」
「おっ!嬉しいこと言ってくれるねぇ、香穂ちゃん!」
「っておねぇちゃんが。」
「何っ!?」
「いや、言ってない。」
真顔で言われた…。でも、寂しいのは本当らしく、ほんの少し嬉しかった。
しばらく他愛のない話をして、二人は帰っていった。
まだ昼を過ぎ、おやつの時間まであと一時間といったところに来た。この時間が個人的に、一番暇な時間だと思う。
それから数分して、また扉が開いた。
「こ、こんにちはー。」
「お邪魔します。」
声の主は木折だった。隣には見たことのない人が居た。
「あっ、大翔くん大丈夫?」
「ああ。てか、そちらの方は…?」
「ああ!ごめんね、紹介が遅れたね。えと、私の友達の、荒井杏ちゃん。」
荒井はペコリと丁寧に頭を下げて、「よろしく」と言った。何て言うか、とても真面目そうな人だ。
「あ、大翔くん、差し入れ持ってきたんだ。」
「あ、マジで?ありがとな。」
「どーぞ。」
俺は木折から紙袋を差し出される。中身を見ると……
プディンだった。
またか……。
「ありがとう!嬉しいよ!」
ダブってるとは言えず、満面の笑みを作って言った。
「へぇー。この人が奈央の彼氏かぁー!」
「えっ…!?」
「ちょっ!!杏ちゃぁん!!」
木折は顔を真っ赤にして荒井に言った。
「あはは。真に受けすぎよ、奈央。」
「…っ!!……もうっ!!」
「ごめんってー。あはは。」
そのやり取りを見てると、二人の仲の良さがよくわかる。見てるこっちが微笑ましくなってしまうぐらいだ。
『俺はお前らとは違う!!――』
「っ!?」
「ふふ……。…?どうかした、大翔くん?」
「……え?」
「いや、何か変だったよ。」
「…え、いや、何でもない。」
なんだ……?今朝見た夢だったよな…。
なにか…なにか突っかかる。何だろうか、この感じ。どうにも、ただの夢とは思えない――
「おーい!佐々寺君?」
「はっ…!」
「やっぱり変だね、あなた。」
「い、いやぁ…。すまへん。」
まぁ、ただの夢だ。うん。あまり深く考えすぎない方がいい。
「そういえば、木折。髪切った?」
「え?あ。そ、そうだよ。よく気付いたね。」
木折がそう言うのは、目に見えて髪型が変わったわけでもなく、長さも相変わらずのポニーテールなので、普通は気付かないからだ。しかし、俺はかなちゃんから訓練を受けていたからすぐにわかる。どんな訓練かって?
「もう、大翔くん!女の子は好きな男の子に髪型変わったのに気付いてもらいたいものなんだよ?」
と言われたことから、数週間に渡って高校の女子の髪型が変わったのをクイズ形式で出されるという内容だ。
ちなみに、木折の髪型があまり変わっていないと言っても、ポニーテールの長さも短くなってるし、前髪も揃っていて、分け方も、カラフルなピンで留めるなど、若干変わっている。前も良かったが、こちらも中々。
「ああ、似合ってるぞ!」
「えっ……あ、ありがと。」
木折は赤面して、嬉しそうに言った。
ほう、女子って男子になら好きとか関係無く、褒められたら嬉しいんだな。勉強になった。
「ううむ。これは、中々のものね。奈央が落ちるのも時間の問題……。」
「「何か言った(か)?」」
「あ、いや、何でもない。」
それから三人でまたまた他愛のない話をして、二人は帰っていった。
「ふぅ。結構時間が経ったな。」
もう夕方になろうとしている。
プディンを食べようと、一つだけ開けて食べた。
うーん、うまいっ!
俺はプディンは大好きだが、二つとなると…味に飽きてしまうかもしれない。まぁ、何とかなるかな、うん。
俺は二つのプディンを、何とか食べ終えた。
「けぷっ。もう限界…。」
「ふわぁぁ。」
「おいナビィ。何寝てんだよ。」
「おぉ…大翔。俺はもう一眠りするわ。ふぁ…。」
「おぉい!」
寝やがった。
現在夕方。赤い日の光がカーテン越しに、この部屋に射し込んできた。
ガラガラ
扉の開く音がして、俺は振り向く。そこには、沙菜が居た。
「ふん。来てやったわよ。」
「…おう。」
「なぁ。」
「何よ。」
「その紙袋。」
「何?」
「プディン?」
「そうよ。」
「ですよねっっ!!!」
こいつが来たときから流れが大体分かっちゃったよ!!!!
その後、俺は悪魔女と話をして、無事、退院しましたとさ。