12,俺、野外へ出ました。中編
今回はヒロイン三人の視点で話が進みます。一応分かるようにはしてるつもりですが、念のため。伊波志穂、木折奈央、七騎沙菜、そして佐々寺大翔となります。
「あ、おはよう、おねぇちゃん。」
「おはよ。」
私は朝起きて、リビングへと出た。妹である香穂が、食卓を拭いていた。
「大翔は…?」
「先輩?なんか、どっか出掛けていったよ?」
「……そ。」
私も、朝御飯を食べたら、野外に出て訓練をしよう。今年は何としても結果を残して、特別教室から出るんだ。
私はそれから、学園で訓練の許可証を受け取ったあと、手続きをしてもらって、箒で野外へと出た。
「今日はどこで訓練しよ。」
そういえば、今日は森の中の魔物が不機嫌な日だったはず。魔物予報でテレビで言っていたような。
「……よし。」
私は、魔法のコントロールが出来ない。一応、上級魔法までなら使えるが、中級魔法からはコントロールが効かない。
下級魔法ならコントロール出来るが、それだけでは今年の魔闘会は通用しないだろう。せめて、中級だけでもコントロール出来るようにしなければいけない。
森へ降り立つと、私は周辺に魔物を探した。丁度リルも無くなる頃合いだったので、換金所で交換品を換金してもらおう。
***
「奈央ー!こっちも手伝ってー!」
「あ、うん!わかったー!」
私は今、学園の地域貢献活動に出ている。
休日も行われることが度々あるので、もう慣れっこだ。午前中は町中のゴミ拾い。午後からは活動費を稼ぐために、野外へ出て魔物狩りをするらしい。まぁ、私は魔法が一回しか使えないから、滅多に出番は無いけれどね。
大体仕事が終わると、太陽はもう真上にあった。動いていたから、とても暑い。シャツも汗でびしょびしょだ。
「はい、奈央。」
「あ。ありがとう、杏ちゃん。」
ベンチに座って休憩していた私に、ジュースを持ってきてくれたのは、一番の親友である荒井杏ちゃん。
二年生までは一緒のクラスだったんだけど、三年生に進級すると同時に特別教室行きになっちゃって……でも、杏ちゃんは関係なく友達で居てくれている。
「午後からは、なんか、ユグドラシルの森で魔物狩りするらしいよ?」
「え?そーなの?でもあんまり良いものは採れないんじゃ……。」
「なんか、魔物予報では普段は現れないような魔物が現れるって言ってたから、大物が採れるかもーって、部長が言ってたんだ。」
部長とは、地域貢献活動部の長である。
「そーなんだ。……頑張ってね。」
自分は一発しか魔法を発動できないから、あまり役には立たないだろう。そう思い、私は言った。
「いや、今回は奈央が頼りだよー?」
「え?なんで?」
「だって、大物が出たときに、奈央の強力な魔法が頼りなんだもん。部長も、きっと奈央を頼りにしてるから大物を狙おうなんて言ってるんだよ。」
「……!」
自分が必要とされている。それを聞いただけで、涙がこぼれ落ちそうだった。
「うん……。わたし、頑張るよ!」
それから午後になり、私たちは野外へと出るのだった。
***
「沙菜ー!沙菜、起きて!」
「……ん、ぅ……んー?どうしたの、おねぇちゃん。」
「ごめんだけど、急な仕事が入っちゃって、魔物狩りに出られないのよ!」
おねぇちゃんは両手を顔の前で合わし、ごめんと言うように顔を渋らせて言った。
「……つまり私に行けと?」
「……ごめんね?」
「はぁー。ま、良いけど。私は暇だし。」
「やった!ありがとね!沙菜。」
そう言っておねぇちゃんは、私の頭を撫でた。
……ちょっと嬉しい。けど不機嫌を装う。だって素直に喜んだら恥ずかしいじゃない?
それからおねぇちゃんが出たあと、私はもっそりとベッドから降りた。
目をごしごしと擦りながら、朝のパンを焼く。
手順はいつも通り。まずレンジにパンを入れて、スイッチの所に魔力を込めるだけ。するとあっという間にパンが焼ける。
冷蔵庫からジュースを取り出して、コップに注ぐ。
テーブルの椅子に座り、自分のペースでゆっくりと食べる。
「あー……。やっぱめんどくさ。引き受けるんじゃなかった。」
しかし、やらないわけにもいかないので、食べ終わったら食器をキッチンに戻し、朝のシャワーを浴びる。
今日は確か、予報によるとユグドラシルの森が魔物狩りに最適な筈。よし、そこを狩り場としよう。出来るだけ大物を見つけて、高値で交換してくれる交換品を採ろう。
そしてシャワーを終えると私は、着替えて家を後にした。
***
「なんだ、魔物なんて居ないじゃん。」
「うーん…そうだな。やっぱ森じゃあ少ないか。」
俺とナビィは森の中を散策していた。以外にも魔物は見当たらず、迷わない程度の範囲で動いているだけだった。
「…もっと奥に行くか?」
「迷わないように目印でもつけておこう。」
「えーと……じゃ、これで良いだろ。」
俺は自分の掌と同じ大きさの意思を地面に置いた。
「これじゃ分かりにくく無いか?」
「大丈夫だって。さ、行こーぜ。」
日が高く、今は比較的森の中も明るい。魔物が居たら大抵は見つかると思うんだけどなぁ。
その後、数十分探したが、一匹も見つからなかった。
「だーー!どうなってんだ!?」
「あ、おい、あれ見ろ。」
ナビィの指す方向を見ると、学園の制服を着た生徒が何人か固まって歩いていた。
「え!?何でこんなとこに!?」
「……もしかして、狩りをしているかもしれんな。」
「あれか?リル稼ぎにか?」
「恐らくそうだろうな。あいつらが狩っているから、魔物も少ないんだろう。見ろ、何人かが大きな袋を持っている。多分交換品だ。」
なんだってええ!?てことは、俺の訓練も始まらないってわけか!!?
「くっ……ええい、あいつらの向かう先に、先回りしよう!」
「……確かに、そうしたら魔物が居るだろうが……迷うぞ?絶対に。」
「……そんときは箒に乗せてもらおう!」
そうして俺とナビィは、集団に気付かれないように先回りした。