11,俺、野外へ出ました。前編
「……。」
「……。」
「「おい。」」
「「あ。」」
「「そっちから言えよ。」」
「「あ。」」
「「……。」」
……。
はぁ。
「なぁ、ナビィ。」
「なんだよ、大翔。」
「そ、その……あの……さ、さっきは…さんきゅな。」
「……な、なんのことだよ。」
「いや……お前が沙菜を呼ばなかったら俺は……。」
く、くっそぉぉ!!はっっっっずい!!
「いや、俺の方こそ、ちょっと言い過ぎた。ごめん。」
「いやいや、俺が悪いんだって!ごめん。」
「いや、俺の方が……。」
「あんたらはいつまでそうしてるつもり?」
危うく無限ループに陥ってしまう所を沙菜が助けてくれた。
俺たちは森を抜け、岩影に座っていた。
「もう7時を過ぎてるわ。さっさと学園の敷地から出ないと警備員に見つかって、めんどくさい事になるわよ。」
「そうだな。」
とりあえず俺たちは学園から出ることになる。
「じゃ、私はこっちだから。」
校門前で、沙菜は俺たちの変える方向と逆方向を指し、言った。
ついでとはいえ、助けてくれたんだ。普段はいけすかねぇ奴だけど、やっぱりお礼は言わなきゃいけない。
「あ、沙菜。」
「?何よ。」
「ありがとな。」
少し、少しだけ自然な笑みを浮かべて、俺は彼女にお礼を言った。
「……ふん。」
沙菜はそっぽを向いて、そのまま立ち去っていった。
「……帰るか。」
俺は、ナビィと共に、伊波姉妹の居るマンションへと帰っていった。
「どこで一体何して、どんな目に遭った?」
「怪我はないですか、風邪引いてないですか、犯されていないですか?」
「わ、わかったわかった、落ち着いて二人とも。
」
家に帰ると、遅くまで帰ってこなかった俺を心配してくれたのか、志穂と香穂ちゃんから質問攻めにあった。
***
それから月日は経った。日にして大体20日は経っただろう。魔物に襲われて以来、俺は平穏な日常をおくっていた。
毎日の魔法の授業。たまにジャイアンに食堂で絡まれたり、沙菜と暴言を吐きあったり、相変わらず成果の無い瞑想をしたり。あ、一回だけラッキースケベがあったんだ。
それは、俺が沙羅先生に頼まれて、書類を持ち運んでいた時、たまたま曲がり角でぶつかってそのままどんがらがっしゃん。
俺の手にはマシュマロのような柔らかさのおっぱいがあり、そのお相手は木折だった。
平手打ちを右頬に喰らい、一週間は口を聞いてもらえなかったなぁ…。おっぱいを触るのには代償が大きすぎるようだ。
そしてついにその日が訪れた。
「ああああああああ!!!」
「んだよ、いきなり。」
俺は今、ナビィと共に町へ出ていた。今日は学園は休みで、家にいても暇だったので外へ出ているのだ。
「もう嫌だ!天下一武闘会まであと10日しか無いんだぞ!?いつまで経っても魔法が使えねぇじゃねぇか!!」
「"魔"闘会な。」
「おっと失礼。」
もうパクることに慣れてしまっている自分がいる。危ない危ない。
「まぁ、大丈夫だろ。」
「まぁたそんな根拠の無いことを。」
「……。(恐らく今日、こいつは魔法が使えるようになるだろう。……勘だがな。)」
ナビィがそんなことを思っていたなんて露しらず俺は、魔法の使えない自分を嘆いていた。
「くっ……やっぱ俺は主人公じゃないのか…?」
「何言ってんだよ、お前。」
「だって、主人公だったら初日の……えーと、なんだっけ?あの魔物?」
「タウロスのことか?」
「あ、そうそう。そのタウロスを類い希なる魔法のセンスと能力で倒していた筈だ!なのに…なのに…。」
「センスどころか一切魔法が使えないという(笑)」
「くぅぅ…。」
込み上げてくる悲しみを落とさないために、俺は上を向いて歩いた。かの有名な歌の如く。すると目に入ったのは、僅か5才ぐらいの子供が箒を乗り回している姿だった。……え、5才児に負けてんの、俺?
「決めたぞ……。」
「ん?どした?」
「俺は今日、野外に出て、魔物と戦う。」
「はぁ!?」
やっぱ危機的状況を作り出さなければ、覚醒なんてしないと思うんだ。
そんな甘い考えをしている俺は、タウロスや亜人に襲われた時の事などすでに忘れていたのだ。
「てことで、外に出よう!」
「おま、正気か!?」
「あったぼうよ!!行くぞ、ナビィ!」
「……うーん…この方が良いのか?」
そうして、俺とナビィは早速野外へ出ることとなった。
***
今俺たちの居る都市、ユグドラシルは、東西南北それぞれに、各一つずつ出入口門が設けられている。俺たちは北門、つまり、世界樹の丁度真正面にある門をくぐって野外に出ようとした。しかし、一つの問題がある。
「おい、大翔。あそこに門番が居るぞ。」
「もしかして只では通らしてくれないパターンか?」
「ぽいな。」
「むーん……。」
……はっ!ひらめいた!
俺は問答無用で門をくぐろうとする。
「お、おい!ちゃんと許可証を取らなきゃ通れねぇって!」
案の定、俺は門番に引き止められた。
「おい君。許可証を見せたまえ。」
「ああはい。ええと……。」
俺は制服の裏ポケットからある物を取り出す。
「……君は、学園の生徒なのか。」
「はい、もうすぐ魔闘会なので、訓練のために魔物と戦おうと。」
「4年生ならば、通ってよし。」
「あざまーす!」
俺が見せたのは、ユグドラシル学園の生徒手帳だ。手帳の裏に生徒証明書があるので、なんとかごまかすことができた。
「……お前、結構頭良いな。」
「へっ……なめんじゃねぇぜ!」
これでも生前は、結構頭の良い高校に通ってたんだからな!
門をくぐると、しばらくトンネルのような通路が続いていた。やがて奥から光が射し込む。
野外の世界は、やはり壮大なものだった。
「うほぉーー!ひっさびさの外だああ!」
少し平野が広がり、その奥に森が続いていた。そのずーーっと奥を見ると、俺がこの世界に来た時居た丘があった。
「ここは『ユグドラシル平野』。魔物はいないため、都市の北町から他の町への輸出物を運んだり出来るんだ。」
「魔物がいない?駄目じゃねぇか。」
「魔物はあの森の中から居る。あの森は『ユグドラシルの森』っていう、そのまんまの名前だ。そしてお前が転生した場所、つまり、あの丘が『エザリア丘』だ。都市から離れれば離れるほど魔物の数は多く、強くなる。」
「にゃるほど。」
名前はややこしいからともかく、森の中に行かなければ何も始まらないってわけか。
「しかし、エザリア丘まで歩いて行こうと思えば、三日はかかるだろうな。」
「ええっ!?」
「お前忘れたのか?都市まで行くのに魔法の絨毯に乗って行こうとしたじゃねぇか。」
そういえば。
「まぁ森の中でも割りと低危険度の魔物が居るから、そいつで我慢しろ。あと、あんま奥に進みすぎると迷うからな。」
「おっけーおっけー。」
ようし、そうと決まれば早速森の中へレッツらゴーだ。