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平等に  作者: 弌 弍千乃
3/3

約束と友人 02

守り神は少女の座り込んでいる大木の枝の上から見つめていた。別に守り神が弱った少女を黙って見捨てる非道なやつというわけではない。

ただ守り神には理解できなかったのだ。


虚ろな目に時々苦しそうに上下する胸、傷ついた四肢や色を失った顔を見れば明らかに彼女の命の終わりが近いことがわかる。

(なぜここに来た?もしこんな状態になる前に医者にでも尋ねればなんとかなったはずであろうに・・・。)

――――― やはり死に急ぎのものか・・・・?

いや、しかしそれにしては生きる者の力を感じる。

ひたすら首をひねって考えるのだが、全く答えがでない。


それに、と守り神は思考を走らせる。


こういった立場にあるものは容易に人の前に現れて助言等してはならないのだ。

特にこの守り神はそんなに大きな力を持ってはいない、とても弱い存在なのである。

もしこの少女が命乞いでもしてきたらどうする?自分に救えはしないのなら初めから変な期待などさせずに静かに終を見届けてやりたいと考える。

それは彼の人間への愛でもあったし、卑怯な想いでもあるのだ。

ただただ流れてゆく時が少女の命を奪ってゆく。その事実に、心を決めるとふわりと地へ降り立った。


ゆるりとその手で少女の頭を撫でた。とても柔らかい感触にフッと微笑んだ。



なんの前触れもなく突如頭に何かが触れる、否 触れられた感触に顔を上げる。


そこには、誰もが魅入ってしまうような美しい顔立ちの少年がいた。

どこが特に優れているとも秀でているとも言えないほど何処をとっても完璧の、それはそれは優しげな少年が自分の頭を撫でているのだ。


誰もが驚いてしまうような状況下で、少女は少年をただ静かに受け入れた。

それは少女があまりに無垢で純粋だったからかもしれない。心にストンと落ちてきたものがすんなり当てはまったような。


誰もが笑ってしまう幻想を少女は信じリアルとしたのだ。


嬉しくて、にへへと笑った。


「・・・・お兄さん、遅かったのねぇ。あたしね、頑張ってここまで来たんだよぉ。」


「・・・はい。知っています、ずっとあなたのことを見ていました。」


「そっかあ、じゃあ、縁の下の力持ちじゃあないのか。」


うーん、と少女は唸ってみせた。

守り神は首をかしげた。


「・・・・縁の下の力持ち?」


「そう!皆のために~陰で頑張る人!!」


「では、君は誰かの為にここまで来たのですか?」


「うん、そう!友達をね、守るためにここにきたの。あとね、約束、守らないといけないから。」


守り神は端正な顔を歪ませた。友人を守れる力など彼にはないのだ。命乞いではなかったにしろこれはこれで困ったものである。それに守り神である彼はここを動けないのだ。


「すまないね、僕はこの森からは離れられないんだよ。」


そういえば少女は首を横に振った。別にここを離れる必要はないと。

ますますわけが分からなくなる。大体今死にかけている少女に守られなければならない友人などいるのだろうか?


訳がわからないと見つめる守り神に、少女は握り合わせた両手を差し出す。

ゆっくりと開くと、少女の小さな両手にギリギリ収まるくらいの大きさのものが乗っかっていた。


――――・・・それは、大きな球根だった。


僅かな沈黙の後、守り神は察した。


「・・・・これが君の言う、友達かい?」


こっくりと頷くと愛おしそうに球根を撫でた。


「私の村ではね、身寄りのない子供は厄災から逃れるためのお祈りに、神様に捧げられちゃうんだって。おばあちゃん言ってた。だからね、トモさんと一緒にいられなくなっちゃうんだ。」


トモさんというのは恐らく球根の名前だろう。


「約束をね、したの。」


「友達と?」


ううん、と首を振れば小さくお母さんと呟いた。


こんな状態の娘に球根一つを守ることを約束させた親とはどういうことだ。とは思うがここで話を遮るのもどうかと思うので そうか とひとつ頷いた。


「・・・・トモさんをね、お兄さんにあずけたいの。私はもうすぐいなくなっちゃうから。」



「どうして僕なんだい?」


「うんとね、おばあちゃんが言ってたの。昔この森に迷い込んだ時に守り神のお兄さんが助けてくれたんだって。だからね、困った・・と、きは・・・」


ゴボゴボと咳き込む少女に守り神は慌てて膝を折って少女の背中を撫でた。

虚ろな、それでも希望を持った瞳で口を押さえていた手を見つめる。


―――――・・・真っ赤な鮮血が手から溢れて草の色を変えた


守り神は思う、もうこの子に時間は残されていないと。今時珍しいくらいに心優しいこの子の願い。無力な自分でも叶えてあげられる。ならば、迷う必要などどこにもないではないか。


「・・・・その友人を私の大木の根元にある祠に埋めなさい。あそこなら強い風からも嵐からも守ってあげられるでしょう。」


「―っ!本当に?!私の友達を守ってくれる?私のお願い、叶えてくれるの?!」


くびを縦に振れば、力の入らぬ体でそれでも溢れる喜びを隠せないとやたー!!っと体を振り乱したのだ。

ただの球根なんだからどこか人目のつかぬ場所へ埋めれば良かったのにと守り神は思ったが、目の前でそれはそれは嬉しそうにはしゃぐ少女を見ればそんな疑問はどこか遠くに行ってしまいただ自分にも誰かの願いを叶えることができたという喜びに頬が緩んだ。


それからは球根を指示した通りの場所へ埋め、いくつか別れの言葉をつげると満足げに微笑んだ。手放す際は何度も何度も何度も撫でた。愛おしそうに。


何とか立ち上がるとお礼の言葉と、村に帰ることをつげた。その体でどうやって森を抜けるとゆうのだ。守り神は話をしないかと引き止めた。


「ここは、守り神さんの居場所でしょう。私は、いちゃいけないよ。」


「君に行くところはあるのかい?」


「うーん、特に決まってはないかなぁ。でも、綺麗なとこに行きたいよ。」

「じゃあ、ここじゃあだめかい?僕はもう少し君とお話していたいんだ。」


ね?と誘惑するように微笑めば少女はぐるりと辺りを見渡した。


「そうね、ここはとっても綺麗。じゃあ、もう少し・・・・ここにいさせて。」


大木にもたれ掛かるように守り神が誘えば少女はすんなり従った。

元々大木は守り神自身の体であるため少女の弱い心音とぬくもりが伝わってきて、まだここにいるんだという安心感に目を閉じた。


「何のお話をしようか・・・・?」


「なんでも、いい・・よ?守り神さんの、好きな、話・・・」


「じゃあ、君の家族の話と、名前を教えてくれるかい?」


家族かぁ、とかすれた声で呟くといいよと笑った。


「じゃあ、まずは名前からね。 私の名前は 藍橋詩友 (あいはし しゆう)

詩の友達って書いてしゆう。」


優しげに細められた瞳に何が見えるのか。守り神は黙って詩友のそばに腰を下ろした。


―――――・・・じゃあね、まずは私の家族紹介から。



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