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1日目

 わたしは町の小間物屋だ、品揃えは多彩で…言ってみれば節操が無い。

 いいんだ、需要があるんだから。

 欲しいといわれれば薬草も用意するし、石鹸だって並べる、勿論ナイフや砥石、スープ皿に鍋だってある。

 ご近所にはご老人が多いので、彼らのご要望にお応えするために、日々努力しているのだ。


「あーちゃんや、最近膝が痛くてのぉ。 なんかいい薬ないもんかのぉ」

 あるよあるよ! この前ご隠居に頼まれて作った塗り薬が! 痛み止めのネヒタ草を濃縮スライム液に混ぜて、スライム臭さを取るミミバの樹液を―――

「ほうほう、なんじゃようわからんがのぉ、効きそうじゃの。 ひとつ貰おかの」

 まだ説明の途中だったのを遮られて、ひとつお買い上げ。

 最初の頃はみんな説明を聞いてくれたのに、最近じゃこうして途中で端折られる。

「あーちゃんの薬は良ぅ効くからえぇのぉ、それに安いしのぉ! 材料が…ナニでアレじゃがの……」

 確かにスライムを材料にするとよく引かれるんだけど、あいつらの粘液はゲル状でとても使い勝手がいいんだ、ほかにも某樹液や某体液等々、使える素材なんだけどなぁ。 下手をすると買うのを止めて逃げるように帰っていくから、本当にヤバそうなのは教えてないんだけど。

 最近じゃ、近所のご老人だけじゃなく、口コミで評判が広がって色々な年代や客層の人達も買いに来てくれるようになっていて、店の経営は右肩上がりですよ、げっへっへっへ!



 店の経営が軌道に乗っているのはいい事なんだけど、素材がすぐに足りなくなる。

 最近は冬が近づいてきたので、じい様達の貼り薬が良く売れるため、スライムの減りが早くて困る。

 奴らを養殖できたらいいんだけどなぁ、核を壊さなきゃ再生はするんだけど、50回も削ったら…あいつ等、色が変わって溶けちゃうんだよ。 アレはきっと、再生上限を突破して死んじゃったんだろうな、南無南無、貴様らの血肉は無駄にしない。

 そんなわけで40回くらい削ったらリリースするようにしている。

 もしかしたら、野生に放したら回復するかもしれないし?

 べ、別に、残骸の始末が面倒くさいからってわけじゃないからねっ!



 そんなわけで、三日おきに休みにしている店を後にして、本日はスライムの収穫に参ります。

 対スライム用某魔物の胃袋製バッグを3つ背負って、近場の森へれっつらゴー!

 スライムは退治するのは簡単だけど、捕獲するのは結構難しい代物なのですよ。

 ほら、あいつ等、溶かすし、溶かすし、溶かすし……。

 この捕獲用の胃袋バッグじゃなきゃ持ち帰ることすらできないのよ。


 ジリ…ッ ジリジリ……ッ

 プルプルプルプルプル……ッ


 にじり寄るわたしと、おびえ震えるスライム。

 げっへっへ、おとなしく捕まれや、お嬢ちゃーん!

 悪代官気分(?)で「そいやぁっ!」

 某魔物の胃袋製のネットで投網漁とあみりょう

 ぴっちぴっちのスライムを確保して、胃袋製手袋で掴んで、胃袋バッグに突っ込む。

 3匹採ったどー!!

 一見1匹だが、核が3つ入っていたから、あいつらどうやら3匹一塊だったらしい、ひとつにくっついてナニをしてたんだか、けっ!


 そんな風に、一人遊びをしながらスライムを捕獲しまくって、みっちりぎっちり30匹は捕れただろうか、へっへっへ、スライムの乱獲。


「おいらはー! 町のぉー! スライムキラー! ばっつばっつん、ぬっちゃぬっちゃり、捕まえつくすぜぇ~ぃ! いぇいぃえい!」


 背中の胃袋バッグでスライムが暴れてるが、奴らの力なんてたかが知れてるへっへっへ。

 3つの袋が背中でばったばったしているが気にしませーん。

 今日は大漁でご機嫌ですよ、帰ったらこいつらを削り倒してやんぜー!(うんざり)




 魔物に遭うのが面倒なので、街道に出て町に向かっていたら、おや、おややん? 前に見えるのは、随分とガタイの良い兄ちゃんですなぁ。

 ここら辺じゃ珍しい金色の髪に両サイドに青いメッシュが入った…。

 その隣には、これまた珍しい黒髪短髪の細身の兄ちゃん、まぁわたしも黒髪ではありますがね。

 そして、その隣にはエルフ! アイスブルーの髪も美しいエルフの姉ちゃんじゃー!!

 足元にはドワーフのおっさん。


 こ、これは、あの、うわさに名高い”勇者様御一行”じゃー!!!!


 むっはー! むっはー!! テンション上がるわぁぁ!!

 ウチの店にも来んかな!? ほら、旅に必要なモノの補給とかね!

 こうしちゃ居られん、さっさと帰って店を開けるなう!

 腰のポーチから滋養強壮ドリンクを取り出し一気に飲み干す。

 ぬぉぉぉ! 力が湧き上がるぅん!

 街道を逸れて、町への近道をひた走る。


「お? あーちゃん、お帰りー。 どうしたんだ、そんなに急いで」

 顔見知りの門番のスライズに、勇者様ご一行がこっちに向かっていることを伝える。

 案の定スライズのテンションも上がったよ!

 制服着替えに行くから、ちょっと門番やっといてって、どゆことさー!

 わたしは店を開ける準備があるってのに。

「すぐだからっ! あーちゃんお願いっ! ちょっとだけー」

 言いながら、自宅のほうへ走ってゆくスライズ。

 くそっ! 今度、新薬の実験台になってもらうからなっ! ツケは倍返しが基本なんだよっ!

 まんじりともしないで門を守っていたが、結局スライズが制服に着替えて戻ってくるまで、誰も門を通らなかった……まぁ、ちいさな町だしね。

「あーちゃん、ありがとなー!」


 うっさい馬鹿! 新しい薬の実験台にしてやるからなー! 覚えとけー!


 そうして走って家に帰る間にも、会う人みんなに勇者様の到来をお知らせしてまわってやった。

 げっへっへ! 勇者よ、わが町の歓待を受けるがいい!!

 貧民町手前の我が家にたどり着き、スライム入りバッグを下ろし、大急ぎで拭き掃除をして商品見本を陳列棚に並べる。

 よっし! 間に合ったぁ!

 おっと、いけない、スライム漁で埃っぽい服を大急ぎで脱いで、お気に入りの七部袖のワンピースを着て分厚い生地で作ったエプロンを掛ける。

 ここに来てから一度も切っていない背中の中程まで伸びた髪の毛を頭の高い位置でくくりながら店内を突っ切り、店の扉の前に開店を告げる暖簾を掛ける。



 あ、開けたのに……、急いで帰ってきて片付けたのに……。

「残念じゃったのぉ、あーちゃんや」

「はっはっは! ここは町はずれだからな、俺はばっちり挨拶できたぜ!」

 新薬の実験台を3回はやってもらおう。

「あーちゃん、あーちゃん、町中の薬屋と雑貨屋には勇者様たち来たってよ」

 おぉう、そうか、ロバック坊や、切ない情報をありがとう。

「大体こんなちんけな店なんか、勇者様が来るわけねぇって、けっけっけ」

 ジルドよ貴様の茶に、麻痺系の毒を混入してヤル。

「大丈夫よぉ、あーちゃん、勇者様何日か泊まっていくみたいよぉ? まだまだ望みはあるわん。 ぁんちょっとぉ、スライム汁飛ばさないでよぅ」

 あ、すいませんレイール姐さん。

 大体なんで皆ウチに集ってるんですか、うちは寄り合い所じゃないですよ。

「あーちゃんや、ツケモノが無いぞぃ」

「ボク取ってくるねー、あーちゃんオハシ貸してー」

 貸してと言いながら勝手知ったる他人の家で、ロバック坊やが引き出しからお箸を取り出して、床下貯蔵庫からかめを取り出してお漬物を出してくる。

「お茶のアテにはやっぱりツケモノじゃのぉ」

「そうねぇ、このしょっぱいのが合うのよねぇ」

 レイール姐さんも漬物を摘んでお茶をすする。


 そうしてみんながお茶をしている少し離れた場所で、わたしは一人でスライムを処理している。

 ひじ上まである魔物の胃袋手袋を履いて、スライムの核まで一気にズブッと腕を突っ込み、核を取り出してそばにおいてある壷の中に放り込む。

 あとは時間との勝負だ。

 核を抜いたスライムに、用意してあったゴードンゴの実をすりつぶした粉を入れて手袋を履いた手で一気に混ぜる!

 こうしないと、直ぐに溶けてしまうから、とにかく溶けるのを防ぐためのゴードンゴの粉を満遍なく行き渡らせ、次に各種効能のある粉をどんどん混ぜる。


 ぐちゅんぐちゅん……ぬっちょぬっちょ……ぬぷっ…ぬぷぷぷっ……ジュブッ……

 段々重くなる手ごたえで完成を確認しながら混ぜる。


「…あれよねぇ。 あの時の音にそっくり、よねぇ? ね?」

「は?え? ややっ! な、なんで俺に聞くんですかっ!?」

「アノトキの音ってなに!なに!」

 ロバック坊やが興味津々で聞いてくるのに、真っ赤になってうろたえる門番のスライズ。

「んふふ~、ロバック坊やはまだ知らなくていいのよぅ~、ねっ? うふふふ」

 レイール姐さんの色香にスライズは首まで真っ赤になっている。

 ふむ? もしや、スライズ……姐さんと脱童貞しやがったのか?

 ま、ま、まさかな……。

 手は動かしたままジルドに視線をやると、酷薄そうな薄い唇の端を少し上げて、テーブルの下で右手でマルを作り、左手の中指をその輪にスコスコと……。

 そのジェスチャーは万国共通かっ!!

 スライズめぇぇぇ! レイール姐さんの柔肌を食いやがって、食いやがって!


 八つ当たりを兼ねて手荒くスライムを混ぜ、核を抜いては混ぜ、抜いては混ぜ…30匹を処理しました。

 数日したら、また再生するから同じ事を繰り返さなきゃね。

 スライム核を入れた壷にフタをして重石を載せておく。

 

「あーちゃん手際いいなぁー。 っていうか、平気でスライムを触れるのがすごい」

 こちとら商売ですから! 

 肘まである手袋を脱いでスライム核を入れた壷の上に放り投げる。

 うぇ、汗臭っ。

「臭ぇよ。 ほら手ぇ出せ」

 いつの間に用意していたのか、ジルドが咥えタバコのまま面倒くさそうな態度丸出しで濡らした手ぬぐいでわたしの手を拭いてくれる。

 おぉ……温かい…、気持ちいいー。

 されるがままに、両手を拭かれて極楽気分ですよぅ。

 ジルドは口も態度も悪いくせに、こういう妙な気配りができる変な男だ。

 一応常連の一人ではある。

 ちょくちょくやって来ては、薬草や湿布、塗り薬……主に薬系の商品を買っていく。

 普通の人よりも頻度が高いから、聞いたことは無いけどもしかしたら冒険者か何かをやってるのかもしれない。

 ……まさか、転売とかしてないよね?

「ぁあ? どうした? 俺の顔になんかあんのか?」

 本当にガラが悪いよね、目も三白眼で迫力あるし、ごつくはないけど上背もあって手足が長くて。

 悪人っぽいって言ったら瞬殺されそう。

「ろくでもねぇこと考えてるつらぁしやがって」

 ごつんとおでこを小突かれる、痛い。

「あーちゃんや、ツケモノが……」

「じっちゃん! 食べすぎ! ばっちゃんにまた怒られるってば!」

 ロバック坊やに窘められたじいちゃんがしょぼーんとしてお茶を啜る。


 お茶請けのお漬物が切れたのを潮にみんな帰宅し、わたしは翌日の店の準備を整える。

 明日こそ勇者様御一行に会えますよーにっ!


 故郷では見ることのなかった、吸い込まれそうに綺麗な星空にお願いしてからベッドに入った。



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