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第一章・5(後編)

 鋭い金属音が響く。

 思わず目を瞑ってしまったコリンが、恐る恐る、目を開ける。そこにあった光景は――。

 下手人の振り下ろした小刀を自らの剣で受け止めて立つイオンだった。

 すぐにイオンは巫女を肘で押しのけるようにして背後に隠し、下手人と対峙する。

 明らかに致命傷を負っているはずの相手が立ち上がって来たことに一瞬驚いた下手人だったが、すぐに冷静になり再びイオンに斬りかかる。

 しかし、イオンは繰り出される斬撃を左右の手で、確実に受け流す。

「ハーヴェイ!」

 数度斬り結んだ後、イオンが叫ぶ。何を意図しているのかすぐにハーヴェイは察したようで、目の前の相手を始末すると、イオンと対峙している下手人に襲い掛かる。

 二対一になっても、己の使命を果たすべく戦った下手人だったが、すぐにハーヴェイの斧によって地に伏せた。

「イオン!」

 ハーヴェイよりも先に声をかけたのはコリンだった。

「だ、大丈夫……なの……?」

 イオンの元に駆け寄ると、おずおずと首筋に手を当てる。先ほどあれだけ噴き出ていた血はもう止まっている。

「何でか知らないけど……どうやら生きてるみたいだ……」

 緊張の糸が切れたのか、イオンは剣を取り落とすとその場にへたり込む。

「よかった……本当によかった……」

 コリンもその場に座り込むと、目の端に雫を浮かべる。

 やがて、イオンに突き飛ばされる形になった巫女を支えるようにして、ハーヴェイがやって来た。巫女を抱きかかえるようにして座らせ、自分もイオンの傍にしゃがみ込む。許可を得ることなく、イオンの顎を押し上げて傷口を見る。

「痛てて……おい、何でか生きてはいるけど、傷口は痛いんだ。観察ならもう少し加減してくれ」

「すまない。だが……明らかに致命傷だったはずだが……。回復魔法を使える者はいないはずだな?」

 そう言ってハーヴェイは辺りを見回すが、誰も首を縦には振らない。

「一体、何がどうなってるの? これも巫女さんの力?」

 そう言って、コリンがハーヴェイと巫女を交互に見る。ハーヴェイによって地面に座らされた巫女は、ボーっと明後日の方向を見ている。戦っている最中、彼女が何か神秘的な力の発現を見せた様子はない。

「あくまで仮説だが――」

 ハーヴェイが前置きする。

「これが“護衛の力”なのかも知れん」

 布着れを水袋の水で塗らしてコリンがイオンの傷口を拭っている。その傷口は、既に塞がっている。されるがままの状態で、イオンが言う。

「例の、巫女と同じ日に生まれた人間が持つ力ってやつか?」

「そうだ。巫女様と同じ日に生まれた者は、巫女様を守る使命を負い、そのために必要な力を与えられる。おまえが無事なのはその力による可能性が高い。驚異的な回復能力か、あるいは首を跳ね飛ばされでもしない限り死なない、そんなものかも知れないな」

 首周りの血を拭ってくれたコリンに小さく礼を言ってから、イオンが呆れたように、

「まるで化け物みたいだな……。けど、本当に死なないかどうか実験するのは勘弁してくれよ? 実は推理が外れてました、じゃ洒落にならないからな」

 そうおどける。

「当然だ。それと、今回は不意打ちを喰らったから仕方ないとして、仮におまえにそのような力があったとしても、巫女様を、おまえ自身をもっとしっかり守れるように精進することだ」

 イオンは立ち上がると、剣を腰の鞘に収め、巫女の手と繋がっていた縄を解く。

「ああ、わかってるから、なるべく早く攻撃のしかたも稽古してくれると助かるな。正直、いくら防御しててもどうにもならないって実戦で学ぶのは勘弁だぜ」

 ハーヴェイも斧を仕舞いながら言う。

「ああ、全く想定していなかったわけではないが、こんなに早く、しかもこれだけ大掛かりに襲撃されるとは思わなかった。これからは少し稽古を厳しくするぞ」

 イオンは自分の腰と繋がれていた巫女の手の縄を解いてやると、そっと支えて立ち上がらせると、手を握る。

「それより、さっさとここを離れようぜ。奴らの仲間がまだいるかもしれない。コリン、何か気配はないか?」

 呼ばれたコリンは立ち上がると、いつものように巫女の手を取らずに、街道の向かおうとしていた方へ一人でさっさと歩き出しながら言う。

「……もう誰もいないよ。今度こそ、ね」

「あ、ああ……」

 コリンの素っ気無い態度に戸惑いながら、イオンも巫女の手を引いて慌てて後を追った

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