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自惚れ貴族と婚活メイド  作者: 一重
2/28

自分好きもほどほどに

 時を遡ること5年前。麗らかな、春。


 暖かな日が続き、さやさやとそよぐ風も軽やかなある日。

とある貴族の庭園に一人の少年がいた。


 肩口までの髪が風にそよぐのがくすぐったいのか、溢れるような微笑を浮かべた少年はゆったりとした仕草で池のほとりまで歩みを進める。

日差しの差し込む木々の間、柔らかな陽光を弾く水面が静かに揺らぎ、風が遊ぶように再び少年の頬を擽る。


葉擦れの音だけの静かな時間、少年は土がつくのも気にせず無造作にその場に膝を着いた。

 何を思うのか瞳を前に据え、少年はゆっくりと水面へと身を寄せた。




「――――――……なんて美しいんだ。


…………僕」




 小鳥の鳴き声がまるで彼を祝福するかのように美しく響いた。水面に映る煌びやかな衣装を身にまとった少年は、さながら天使のy…


「寝言は寝て仰って下さい」

「……!!??リ、リリアンヌ!?」


 背後からの冷え冷えとした声に、瞬時に顔をあげた少年は一気に青くなった。

 いつの間にか少年の背後に立っていたメイドは腰をかがめることなく少年を睥睨している。手をかろうじて前に組んでいるといえ、底冷えのするその眼差しに咄嗟に少年は口を噤んだ。


 きつく髪を結んだ老齢のメイドは狼狽する少年を見ながらゆっくりと口を開いた。


「……フリード様。毎日のご自身への賛美のお時間を邪魔立てする気はございませんが、そのお召し物は祭典のときのみ着用される正装だと何度申し上げればよろしいのでしょうか」


 微動だにしないメイド、もといリリアンヌは主であるフリード少年の強張った顔も気にせず続ける。


「確かにお美しくあらせられます。流石はラルゴ家の至宝と謳われるフリード様でございます。たとえそれが、毎日のご自身のお姿の全身確認から始まり、美しい所作の練習、果てはご自身のお姿の賛美のお時間に至るまで数分単位で繰り返されようとも、ええ、フリード様がフリード様たる必然の事柄と心得ております。しかし、そちらの衣装は違います。それはただの布でございます。布は磨けば光るものとは一概には言えぬのでございます。正しい手入れと修繕を行うことで本来の輝きを損なうことなくお使いいただけるのであり、それをご用意いたしますのが私どもの勤めでございます。フリード様。よくよくその旨をお心におとどめ置きくださいますよう切にお願い申しあげます」


 ここまでほぼ息継ぎなしで言い切った彼女の背後に、怒りの焔が立ち上っているのが見えそうである。


「……」


 ごくりと喉を鳴らしたフリードは、それでも頷く気配はない。どこか反抗的な色を瞳に乗せて、揺れそうになる視線をなんとかリリアンヌに固定している。


「……」

「……」


 無言のやり取りがどれだけ続けられたか、鳥がのんきに鳴きながら隣の木へと移ったころ、フリードが動いた。リリアンヌの動きに細心の注意を払っているのか、視線を外さず小さく一歩後ずさる。


 そんな少年の様子にひとつ瞬きをしたリリアンヌはゆっくりと微笑みを浮かべ、最終宣告を告げた。


「大変心苦しくはございますが、これも教育係の責務として心を鬼にして申し上げます。今一言その麗しいお口から謝罪の言葉があればなかったことにいたしましたが……残念ながら、真逆のご様子。では、本日はお召し替えのお手伝いをさせて頂きます」


 にこりと、いっそ穏やかな笑みの元宣告された処遇に、少年の背中に大量の冷や汗が流れた。このメイドが額面通りのことをするはずがない。さっと周りを見渡した少年は、愕然とした。いつの間にいたのか、リリアンヌを中心としたメイドの包囲網が形成されている!

 じりじりと寄ってくるメイドたちは各々小道具を持ちながらフリードを囲い込む。気のせいか息が荒いものが大半を占めているように感じるのも、皆頬が上気し、目が潤んでいるような気がするのも、きっと気のせいだ。そうに違いない。

 思わず一歩後ずさった瞬間、まるでそれを合図のようにメイドが襲いかかった。


「や、やめろーーーーー!!」


 麗らかな春の日差しの下、少年の白い肢体がどんどん露わになっていく。


 

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