魔女には「三人の男」がいるといい
「魔女には三人の男がいるといい」
祖母は生前、口癖のようにこう言っていた。
「いいかいフィオナ。女には三人の男がいるといいんだよ。ひとりは、今のあんたを愛してくれる恋人。ひとりは、昔あんたに焦がれて、けれど結ばれなかった男。もうひとりは、恋じゃないなんて嘘をつきながら、そばを離れない年下の男。この三人が揃ったなら、女の一生は満月みたいに明るくなる」
当時十二歳だった私は、薬草を刻む手を止めて笑った。おばあちゃんは欲張りだね。そう返した私の頭を、皺だらけの手が優しく撫でた。
あれから十四年。祖母の残した薬屋『アムリタ堂』を継いだ私は、王都の外れ、石畳の坂の途中で魔女をやっている。
祖母は最後まで綺麗な魔女だった。真っ白な髪を高々と結い上げ、ショールを翻して、九十を過ぎても薬草畑を素足で歩いた。死の床でさえ悪戯っぽく片眉を上げて、例の三人の話をもう一度した。あんたにもいずれ分かるよ。それが最後の言葉だった。
アムリタ堂は古い店だ。天井から吊るされた干し草の束、壁一面を埋める棚、窓辺で日がな一日眠っているシロフクロウのオル。扉を開ければ鈴が鳴り、薬草と蜂蜜の混ざった匂いが客を包み込む。街の子どもらは、ここを“魔女の巣”と呼んで怖がるくせに、擦り傷切り傷腹痛で困るたびに駆け込んでくる。
店先の姿見に映るのは、癖の強い赤髪を無造作に結い上げた女だ。低くも高くもない背、乳鉢を挽き続けて育った肩、薬品の染みが取れない指先。鼻先にはそばかすが散っている。美人と呼ばれた記憶はないけれど、緑の目だけは祖母譲りで、深い森の中のようだと褒めてくれた人もいる。
二十六歳。行き遅れだの魔女は婚期がないだの、連中は好き放題に言うが、余計なお世話というものだ。結婚だけが生きる道ではない。
三人。
祖母の言葉は、呪いだったのか、祝福だったのか。だって本当に、揃ってしまったのだから……。
◇
「師匠! 朝食食べてください!」
開店前の調合室で棚の整理をしていると、低い呆れ声が落ちてきた。
振り向けば、弟子のルカが食べ損ねたサンドイッチを盆に乗せそこに立っていた。寝起きのまま整えていない跳ねた癖っ毛。その前髪の隙間から、猫を思わせる吊り目の金の目が私を睨んでいる。背は私より頭ひとつ高いのに、体つきは若木みたいに細くて、袖口から覗く手首は折れそうに薄い。左耳には、小さな銀の耳飾りが揺れている。七年前に拾った行き倒れの少年はもう十九歳になっていた。
拾ったあの冬の日を今でも覚えている。初雪の積もった店の裏口に、ボロボロの捨て猫みたいな男の子がうずくまっていた。魔族の血を引く証であるその金の目のせいで、両親が消えた後生まれた町を追われたらしい。三日三晩熱にうなされて、四日目の朝に消え入りそうな声でルカとだけ名乗った。以来この子は、私の弟子で、同居人で、アムリタ堂の従業員だ。
「はいはい、ちょっと忘れてただけ。食べるからおいといて」
ルカは乱暴に盆を置いた。ハムを挟んだ簡単だけど丁寧なサンドイッチに、湯気の立ついい香りのお茶。月苺の葉が丁寧に蒸らしてあって、ちゃんと私のことを考えているメニューだ。
「食べ終わるまで乳鉢に触らないでください。先週も倒れかけたでしょう」
「魔女は頑丈にできてるから二、三日食べなくても平気なんだけどなぁ」
目が細くなる。怒っているようで、まぁ、結局は心配しているだけの顔。ここまでされたら食べないわけにはいかず、サンドイッチをかじった。
「ルカはきっと、いい奥さんになるね」
「なんで俺が奥さんなんですか。俺だって奥さんが欲しい」
言いながら、彼は茶を優しい手つきで追加してくれる。
「……言っておきますけど、俺はただ、拾われた恩を返してるだけですからね。師匠が野垂れ死んだら寝覚めが悪いってだけの話です」
「はいはい。知ってますよ」
「その返事、腹立つなぁ」
ルカは唇を尖らせて調合室を出て行った。すぐに扉の向こうで、店の掃除を始める音がする。私の体を心配して、ご飯をつくってくれて、好きなお茶を淹れてくれる。本当に恩返ししてるだけ?つっこんだら耳を真っ赤にして怒るだろうから、言わないであげている。
朝食を終えて調合台に戻れば、乳鉢の横に今日の予定が几帳面な字で書き出してあった。パン屋のおかみさんに腰痛の膏薬、衛兵詰所に解熱剤を二十包、夕方には東の修道院から胃薬の受け取り。裾のほつれた仕事着を昨夜のうちに繕ってあるのも、あの子がやってくれたんだろう。
「ルカ〜ぁ」
「……なんですかー」
「ありがと〜、だいすき〜」
「っ……仕事してください」
扉の向こうの声は、分かりやすく上擦っていた。
◇
昼過ぎ、空が翳った。雲ではなく、竜の影だ。
店の裏手の草地に、飛竜が鱗を鳴らして降り立つと、その背から、大柄な男がひらりと飛び降りた。着地の瞬間、膝で衝撃を殺す身のこなしが大型の猫のように軽い。
「フィオナ! 南方の夕霧草、届けに来たぞ」
竜騎士便のヴェイン。私の恋人が紫色の花を片手にこちらに駆けてくる。
日に焼けた肌に、短く刈った髪。琥珀の目は犬みたいに真っ直ぐで、頬を横切る古傷さえ愛嬌に見える。歳は二十八。革の飛行外套の下の体は岩みたいに厚いけれど、笑顔が愛らしく、周りの空気ごと明るくなる人だ。
「三日ぶり。早かったね」
「竜を急がせた。あんたの顔が見たくてな」
照れもせず言い切って、ヴェインは薬草の梱をひとつずつ軽々と担ぎ、店の中まで運んでくれる。すれ違いざま、大きな掌が私の頭をひと撫でした。
彼と出会ったのは二年前。配達先を間違えてアムリタ堂の扉を叩いたのが始まりだった。誤配の詫びに花を持ってきて、次の週も理由をつけて来て、三ヶ月通った挙句真っ赤な顔で交際を申し込まれた。断る理由を探すほうが難しかったので、即了承したた。
相棒の飛竜はローレンという名の雌で、主に似て人懐こい。私が裏庭に顔を出すたび長い首を伸ばして、鱗に覆われた喉を撫でろとねだってくる。竜に好かれる男に悪い男はいない。これも祖母の教えのひとつだった。
「なあ、明後日の星降り祭、一緒に行けるよな?」
荷を下ろしたヴェインが、急にもじもじと切り出した。巨体を縮めて、目を合わせず竜の首を撫でる手が落ち着かない。
「行くよ〜。だって、約束してたでしょ」
「そうなんだが、その、確認だ。あんたは忙しいから」
「恋人との祭りを忘れるほどじゃない、どんな女だと思ってるんだか」
顔にキラキラが舞う様に笑顔が弾けた。この人の感情は隠しごとができない。嬉しければ光って、寂しければ曇る。宮廷の陰謀も魔術の駆け引きも知らない、空と竜と私だけの人。
「明後日、日暮れごろに迎えに来る」
「うん。待ってる」
それからヴェインは、思い出したように懐を探り、小さな包みを私の掌へ押しつけてきた。開けば、小さな花模様の銀の髪飾りだった。南の市場で見て、似合うと思って。としどろもどろに説明する二十八歳の竜騎士は、耳の先まで赤かった。
私は笑いながら、その場で癖毛に挿してみせた。似合う、似合うと満足気にヴェインは私の額に唇を落とし、少年みたいに笑って竜に跨い帰って行った。翼が空を打ち、影が遠ざかっていく。
店の奥からルカの声がした。
「……シロップに三日つけたチェリーを食わされた気分です」
「見なきゃいいのに」
「店にいたら目に入るんですよ。不可抗力です」
◇
夕刻、店じまいの直前に、次の人は来た。
鈴の音とともに扉が開き、ローブの裾が音もなく滑り込む。銀灰色の長い髪をゆるくひとつに束ねた、細身の長身。細い銀縁の眼鏡の奥から、静かな目が私を見た。無駄な動きがひとつもない人だ。左手の中指に、宮廷魔術師長の証である紅玉の指輪。
「アルヴィス」
「久しいな、フィオナ。ところで今日は、日光草を分けてほしい。王宮の薬師の調合が追いつかなくてな」
幼馴染は、昔と変わらない静かな声でそう言った。
アルヴィスと私は、同じ村で生まれた。泣き虫で、体が弱くて、私の後ろばかりついて歩いた。冬の川で溺れかけた彼を引き上げたのは私で、熱を出した私の枕元で一晩中手を握っていたのは彼だった。
村の子どもらは彼をよく苛めた。ひょろひょろの痩せっぽちで、本ばかり読んでいる変わり者。泣かされて帰るたび、私は威勢よく仕返しをした。お礼はいつも決まっていて、彼は野の花を摘んで私の髪に挿した。フィオナがいなかったら、僕生きていけないよ。その声は、今よりずっと高くて、柔らかかった。
十五の春、彼の魔力が観測史上最高と判って、役人が彼を連れて行った。
塔の魔術師は生涯、伴侶を持てない。強すぎる魔力が遺伝すると災いを生むからだという。迎えの馬車の前で、アルヴィスは最初で最後の恋を私に告げた。返事をする隙さえなく、彼は行ってしまった。
馬車の窓越しに見えた顔が、今も忘れられない。十五歳のアルヴィスは泣かないで私だけを見ていた。あの時、馬車を追いかけて行かないでと叫べばよかったのだろうか。時々考える。けれど十五の私は立ち尽くしたまま、砂埃が消えるまで動けなかった。
「日光草ね。今年のは質がいいよ」
「助かる。陛下が近ごろ眠りが浅くてな。星降り祭の魔力の満ち引きは、古い傷に障る」
「王様も大変だね。ついでに、魔術師長サマも」
「俺は、フィオナに会えれば、しばらくは元気だ」
さらりと言うから性質が悪い。私は聞こえなかったふりをして薬包紙を広げた。
乾燥棚から日光草の束を下ろす途中、棚の角で指先を切った。小さな血の玉が浮くより早く、細い手が私の手首を取って囁くような詠唱がひとつ。淡い光が走って、傷はあとかたもなく消えた。国一番の魔術師の力を、かすり傷に使うなんて贅沢すぎる。
彼はカウンター越しに葉を検分して、満足そうに目を細めた。長い指が葉を整理したその手首に、色褪せた組紐が結ばれているのが見える。
十年前、迎えの馬車の前で私が咄嗟に外して渡した、私の髪紐だ。
「……まだ着けてるの、それ」
「魔除けだから」
「嘘ばっかり。魔術師長に効く魔除けなんてないでしょ」
「そんなことないよ。これのおかげで、何度も俺は救われてるから」
アルヴィスは眼鏡の位置を直した。動揺したときの、昔からの癖だった。眼差しがわずかに揺れて、それから窓の外の夕焼けへ逃げていく。
「竜騎士の彼と、うまくいってる?」
「うん。優しい人だよ」
「そうか。……それはよかった。フィオナのことを泣かさない男であることを願ってるよ」
その言葉に、どれだけの重さが詰まっているのか私が知らないとでも思っているのだろうか。この人は十年間、王都に来るたび理由を作ってアムリタ堂に寄る。買っていく薬草の半分は、王宮の庭で採れるものだって私も知っているのに。
「フィオナ。幸せでいてくれ。おまえが笑って生きている世界なら、塔の暮らしも悪くないと思える」
帰り際、扉に手をかけたまま、アルヴィスは背中で言った。
鈴が鳴って、長身の背中が日の落ちた街に溶けた。
結ばれなかった男の愛は、成就した愛より長持ちする。いつか祖母がそう言っていた。樹脂のなかに閉じ込められた虫みたいに、綺麗なまま、いつまでもそこにあり続けてしまうんだ。残酷だけれども、大切だ。
◇
星降り祭の夜が来た。
年に一度、流星群が王都の空を覆う晩。恋人たちは丘に登り、流れる星に永遠を願う。
日暮れどおりに迎えに来たヴェインは、慣れない正装の襟元を何度も直していた。髪をきちんと撫でつけて、落ち着きがない。私が祖母の形見のショールを羽織って出た途端、彼は言葉を探すみたいに口を開け閉めして、結局こう言った。
「……美しい魔女だ……」
「なんか、悪い魔女っぽいな、それ」
祭りの大通りは光の川だった。飴細工の屋台、火吹きの芸人、笑いさざめく人波。ヴェインと腕を組んで歩くと、人混みでも大きい体に守られている感じがする。射的ではちいさな竜の置物を取ってくれた。彼はかっこいい竜だ、と満足気だったが、私には竜もあなたも可愛くしか見えません。
人波の途中で、迷子の女の子が泣いていた。ヴェインは巨体を折り畳んでしゃがみ、飴細工を握らせてから、軽々と肩車をしてやった。急に高くなった視界に女の子は泣きやみ、私が指先から放った導きの蛍火が雑踏の向こうにいた母親を探し当てる。親子が抱き合う姿を見届けて、ヴェインは自分のことみたいに喜んだ。あんたの魔法はすごいなあ。いやいや、すごいのはあなたの肩幅だよ。そんな軽口を交わして歩く夜道は、屋台の綿菓子より甘かった。
広場の隅に、天幕の占い小屋が出ていた。ヴェインが面白がって銅貨を払い、老いた占い師が私の掌を覗き込むと、皺に埋もれた目が、ふっと可笑しそうに緩んだ。
「おや、珍しい手だねえ、お嬢さん。縁の糸が三本ある。太いのが一本、古いのが一本、まだ細いのが一本。どれも切れちゃいないよ」
「へぇ……よく当たる占いですね」
「えっ?えっ」
ヴェインが不安そうにこちらを見たが、私は素知らぬ顔で占い師と話を続ける。
「隣の兄さんはどれだい」
「太いの、かな?」
即答した私の横で、ヴェインがなるほど、太いのか、と嬉しそうに胸を張った。多分、腕っぷしの話だと思っているな。
丘への橋に差しかかったとき、見慣れた立ち姿が目に入った。
橋の欄干に、アルヴィスが独りで佇んでいる。祭りの喧騒に背を向けて、まだ星の流れない空を見上げていた。魔術師長は毎年、流星群の魔力の観測当番を買って出るらしい。恋人たちの祭りの夜に、いちばん高い場所で独り、空を守っている。
視線が合った。彼は驚いた顔をして、それからとても綺麗に微笑して、唇だけを動かした。
あ、い、し、て、る。
瞬間、アルヴィスの長い指が空を撫でて、小さな光の粒が私のショールの肩に落ちる。星除けの護符だ。流星群の夜の強い魔力にやられないためのささやかな古いまじない。声もかけずに、彼は丘を登るため人波の向こうへ遠ざかっていく。
隣のヴェインが不思議そうに私と彼を見比べて、それでも何も訊かずに、私の手を少しだけ強く握り直した。この人のこういうところが、私は好きだ。
丘の上は恋人だらけだった。古い桜の木の根元に並んで座ると、ヴェインが外套を脱いで私の膝に掛けてくれる。夜風は少し冷たくて、触れ合った肩が暖かい。
子どものころ、祖母ともこうして星を待った。祖母は流れ星に何を願ったのか、最後まで教えてくれなかった。魔女の願いは口にした瞬間、ただの独り言になっちまうからね。そう言って、皺だらけの目で笑うだけだった。
最初の星が流れる。
ひとつ、ふたつ、それから数えきれない銀の雨。歓声が夜を揺らす。ヴェインの大きな腕が私の肩を抱き寄せると、不器用な声が言った。
「フィオナ。俺は、一個だけ願った」
「何を?」
「来年も、再来年も、この丘にあんたといられますようにって。……だめか」
「なんで、全然だめじゃない。ずっと、一緒だよ」
「……フィオナ、好きだ」
見上げた先で、流星を映した目が、きらきらと私を見下ろしている。
私も、心の奥で願った。銀の雨の下、竜騎士の広い胸に頬を預けながら、丘の上の幼馴染と、店で灯りをつけて待つ可愛い年下のことも。薄情だろうか。そうかもしれない。けれどあの祖母の孫だから、仕方ない。
◇
夜更けに家へ帰り着けば、アムリタ堂の窓に灯りがついていた。
「おかえりなさい。……遅かったですね」
ルカが寝間着の上にやわらかな膝掛けを引っかけて、店のカウンターで頬杖をついていた。耳だけはずっと扉のほうを向いていたのだろう。
「起きて待ってたの?」
「偶然です。偶然、眠れなかっただけです。目が覚めたんで、飲み物作ってきます」
癖っ毛の隙間で、耳の先が赤い。数分で彼はあたたかい蜂蜜酒を私に差し出した。夜風に冷えた指先に、陶器の温もりが染みる。
「祭り、楽しかったですか?」
「うん。星すごかったよ。ここから見えなかった?」
「……一人で星見ても」
それだけ言って、ルカはふいと横を向いた。窓の外では流星の名残がまだ二つ三つ、細い光の糸を引いてるのが見える。
卓の隅に、王立魔法学院の紋章の手紙が見えた。この子の調合の才を聞きつけた学院が、特待生の誘いを寄越したのは先月のことなのに、まだ返事をしていないらしい。理由を訊けば決まって、師匠を独りにしたら店が三日で潰れるでしょう、恩返しが終わってないだけです。と返ってくる。
「……俺も来年は、行こうかな〜!誰かと」
「誰かって?」
「さあ。師匠以外の誰かとですよ」
拗ねた横顔に、私は笑いを噛み殺した。この子が私の帰りを待たずに眠れる日が来たら、そのときは背中を押してやろう。
蜂蜜酒を飲み干し、おやすみを伝えて二階へ上がる。窓辺の小机には、ヴェインのくれた射的の竜を置いた。抽斗の奥には、アルヴィスが昔くれた守り石が今も眠っている。階下からは、ルカが片付けをするわざと大きな物音。
寝台に潜り込む前に、肩のショールを丁寧に畳む。布にはアルヴィスの光の粒がまだ微かに息づいていた。髪から外した銀の髪飾りを竜の隣に置いて、階下の物音が止むのを聞くともなしに聞く。やがてルカの部屋の扉が閉まる音がして、アムリタ堂は眠りに落ちた。
窓の外には、満ちていく月が残っていた。
ねえ、おばあちゃん。
あなたの言うとおりだったよ。今を愛してくれる人がいて、過去に私を焦がれた人がいて、恋じゃないと言い張りながら灯りをつけて待つ子がいる。誰かを選ぶとか、選ばないとか、そういう賢い話は明日の私に任せることにして、今夜の私はただ、この満月みたいな夜を抱えて眠る。
女には三人の男がいるといい。
まったく、罪深くて、優しい呪いをかけてくれたものだ。
私は魔女らしく、にんまりと笑って灯りを消した。
おやすみなさい。私の、三つの月。




