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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
家族としての始まり
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ギルドマスターと困惑

 グレゴが小さくため息をつき、少し気怠げな調子で長身の男に向き直る。


「ギルマス。こいつは新入りのクロだ。……シゲのところの子でな」


 その言葉に、長身の男――ギルマスと呼ばれた男は、一瞬ぽかんと目を見開いた。そして、グレゴの顔をもう一度見返すと、ゆっくりとクロの方へ視線を戻す。


「は? ……グレゴ、今なんて?」


 目の色がわずかに揺れる。


「え、シゲルさんの子? いや、でも……だって、亡くなってたはずじゃ……」


 言葉が途切れた。まるで、自分の認識を否定されたくないかのように、ギルマスは困惑したままクロを凝視していた。


「正確には……養子です。身寄りのない私を、シゲルさんが引き取ってくれました」


 クロの声は淡々としていたが、その言葉の奥には、確かに“信頼”の温度があった。


「いやいやいや、ちょっと待って……いや、ないって! あのシゲルさんが? そんなことするわけないだろ!」


 ギルマスは思わず声を上げた。困惑というより、戸惑いを通り越して半ば笑うような調子。だが、それは彼が“シゲルという人間”を深く知っていた証でもあった。


「ギルマス……それが、真実だ」


 その声は低く、重く響いた。


 グレゴがカウンターから出てきて、クロの隣に立つ。そして、迷いのない声で断言する。


「俺が保証する。こいつは――間違いなく、シゲの子だ」


 その一言に、ギルマスの口元に浮かんでいた曖昧な笑みが、ぴたりと止まった。


「……ごめん。ちょっと混乱してる」


 眉間を押さえたギルマスが、小さくため息をついて周囲に目をやる。


「ボスルームに集合。グレゴ、ジン、そして――クロだったな。お前も来てくれ。詳しく……いや、ほんと、シゲルさんが……まじか~……」


 最後の言葉は、誰にというわけでもなく、半ば呟くようにこぼされた。


 ギルマスはそのまま階段へと向かいながら、頭をかくような仕草を見せる。その背を見送りつつ、グレゴが再び息を吐いた。


「……クロ。あれがこのギルドのマスター、ギール・ゼーマースだ」


「略して、ギルマスですか」


 クロの問いに、グレゴが少しだけ肩をすくめて苦笑を浮かべる。


「……それ、本人の前で言うなよ。今でこそ笑って受け流せるが、昔はあれで散々バカにされてたからな」


 言葉を切って、グレゴはゆっくりと前を向いた。


「実力もないくせに“ギルマス”なんて名乗るな――そう言って、昔はずいぶん馬鹿にされてたよ。無能のギルマスってな」


 だが、とグレゴは口調を変える。


「だからこそ、強くなった。あいつは、それを全部跳ね返して、這い上がってきた男だ」


 その声には、どこか誇らしげな響きが混じっていた。クロの方を振り向きながら、続ける。


「で、今回は……ギルマス、いや、ギルド本部の指示で動いてた。腕利きのハンターやグループを率いて、一ヵ月ほど辺境地帯で長期の生態調査をしてたんだ」


「生態調査……なんて、するんですね」


 クロの問いは淡々としていた。


「ああ。バハムートの出現が、確認されてたからな」


 そう言って、グレゴはさりげなくクロの表情をうかがう。だが――


「そうですか。いました?」


 変わらぬ声色。まるで何の興味もないかのように、クロは淡々と問い返した。


 グレゴは内心で深く溜息をつく。


(お前がその張本人だが……さすがに、顔には出さねぇか)


 しかしその裏で――クロの内心には、薄い冷や汗が滲んでいた。


(……殺してないよな? たぶん。一ヵ月……挑んできたやつ、いなかった……はず)


 その思考は速く、必死で、どこか焦りを孕んでいた。けれど、表には一切出さない。それがクロだった。


「……とりあえず、向かうぞ」


 グレゴが小さく促すと、クロも頷いて歩き出す。ふと、グレゴがその背を見て呟いた。


「……にしても、ようやく服を変えたんだな」


「はい。着せ替え人形にされましたが、なかなかの出来です」


 軽く応じながら、クロは首元に手を添える。マスクを装着すると、即座に展開。顔を覆うように密着し、装着は一瞬だった。


 続けてフードをかぶると、内蔵センサーが反応し、透明なスクリーンがフード内部から滑るように展開される。


 前が開いていたジャケットは自動で閉じ、指先が露出していた手袋も、瞬時に指先までを覆い尽くす。それらの動きは連動しており、全身が密閉されるまでに、ほとんど時間はかからなかった。


 装備はすべて連結し、瞬時に完全な密閉状態を完成させる。


「この服――宇宙でも行けます。しかも動きやすく、着替え不要。耐久性も抜群で、ポケットも多い」


 淡々とした説明。その口調の奥には、確かな実感と満足が滲んでいた。


「……そうだな。これからは、必ず。それを着ろ」


 グレゴの声は低く、静かだった。だが、「必ず」の一言には、強い圧が込められていた。


 そう言い残し、彼は静かに歩き出す。目指すはギルド奥――ボスルーム。


(……これで、バレる心配事が一つ減ればいいが)


 グレゴは胸中で小さくそう呟きながら、クロを伴ってジンのもとへと向かっていった。

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