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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
二度目の目覚め
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閑話 日常から、騒がしい日常へ

 その日は、いつも通りの一日になるはずだった。


 作業場の片隅で、アヤコは集中していた。回路を組み込み、慎重に配線を通していく。完成したのは、掌に乗るほどの超小型ドローンだった。小型ながら反応は良好で、試運転も問題なし。安定した飛行性能に、思わず満足げな笑みが浮かぶ。


(よし、これなら売れる)


 そう思いながら、アヤコはドローンをケースに収め、店頭に並べるためにショップへと戻った。


 だが、そこには見慣れぬ光景が広がっていた。


 カウンター越しの空間。その中央に、黒髪の少女がひとり、所在なげに立っていた。


 棚を見ては首をかしげ、視線を泳がせ、また別の方向へとふらりと歩き出す。探しているものがあるのか、それとも――何もわからないのか。そんな風にも見えた。


 客にしては様子がおかしい。まるで、この世界そのものに不慣れな子供のような、ぎこちなさと戸惑いが漂っていた。


(珍しいけど……ただの興味本位、かな?)


 そんなふうに考えながら、アヤコは静かに少女の背後へと歩を進めた。肩越しに様子をうかがい、声をかける。


「何かお探し? お嬢ちゃん」


 少女がぴくりと反応する。その瞬間を、アヤコは今でもはっきりと覚えている。


 ――そう、これがすべての始まりだった。


「いや……その、わからない物が多くて。何が何だか……ごめんなさい」


 少女は目を伏せ、申し訳なさそうに声を落とした。


 確かに、この店は初心者にはわかりづらい。アヤコ自身、それをよく理解している。


 だからこそ、肩をすくめるようにして笑った。


「だよね〜。ここ、初見でわかる人のほうが珍しいって」


 軽やかにそう言って、アヤコは少女の横へと歩み寄る。気負わず、構えず、あくまで自然体のまま。


 けれど、ふとした疑問が浮かぶ。この時間にこの年頃の子がひとりで、こんな場所に――。もしかして、学校には通っていない組……?


 そう思い、さりげなく問いかけた。


「そういえば、学校は?」


 少女は一瞬だけ目を伏せた後、静かに答える。


「……いえ、私は学校に行ってなくて。クロと言います」


 名乗ったクロは、少したどたどしい手つきで端末を操作し、ギルド証を表示してみせた。


「へぇー、ハンターなんだ。しかもこの年で? すごいじゃん!」


 画面を覗き込んだアヤコが、素直に目を丸くする。それと同時に、どこか嬉しそうに頬を緩めた。


(やっぱり、学校行ってない組だ)


 そう確信した彼女は、すっと親近感を深める。


「私も学校には行ってないよ~。だって、機械いじりしてる方が楽しいしさ。ね、仲間だね?」


 笑顔でそう言って手を差し出すアヤコに、クロは少しだけ目を瞬かせて――そして、小さく頷いた。


「私の名前はアヤコ。よろしく、クロ」


「よろしくお願いします、アヤコさん」


 綺麗に頭を下げ、握手を交わすクロに、“さん付け”がこそばゆくなったアヤコは、肩をすくめて笑う。


「“さん”とかいらないよ~。呼び捨てでいいから。こっちも呼ぶしね。で、何を探してたの?」


 まさかこのあと、この少女が何者で、やがて自分の家族になるとは――アヤコには知る由もなかった。静かな日常が、少しずつ、そして確かに、賑やかなものへと変わっていくことも。

【第一章 あとがき】


 第一章を、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。


 バハムートとして転生した男が、幾千年の孤独から解き放たれ、人間社会に戻り、新たな家族と出会い、そして――ようやく「日常」を歩み始める。


 この章は、そんなクロの“再出発”の物語でした。


 ここから、彼女の生活はさらににぎやかに、あるいは輝かしくなっていく……かもしれません。


 第二章はすぐに始まります。


 今度は、クロたちがどのような“家族”になっていくのか――その日々を描いていく予定です。


 いつも感想やブックマーク、リアクション、評価、そして誤字脱字のご指摘まで、温かいお声を本当にありがとうございます。


 そのひとつひとつが、日々の執筆の大きな力になっています。


 第二章も、皆さまに「読んでよかった」と思っていただける物語をお届けできるよう、これからも心を込めて書いてまいります。


 どうぞ引き続き、クロの物語をよろしくお願いいたします。

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