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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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疲労と転移

お休みのお知らせ


少しの間お休みをいただきます。

再開は8日からを予定しています。


ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

 革命派の地上での膿みだしは、バハムートの力の前に、あっけないほど短い時間で終わりを迎えていた。


「まだかかる予定だったんですがね」


 トゥキョウ基地に戻ったクロは、バハムートの巨駆から軽やかに飛び降りる。


 その足取りに迷いはなく、滑るような動きで、地上で待機していたクレアとジュンの近くへと着地すると、つまらなそうに肩を落とし、小さく呟いた。


「全くです。ですが、クロ様の活躍で早く終わったことは良かったと思います」


 落ち着いた声で答えたクレアが、ジュンの腕の中から身を躍らせる。


 ふわりと宙を舞うように跳び上がり、迷いなくクロのもとへと飛び込むと、いつもの位置――右肩の上にぴたりと収まり、当然のように体を落ち着けた。


 クロはその様子を気にも留めることなく、いつものようにクレアの頭を指先で軽く撫でる。


 わずかな質感の違いと、微かな温もり。その触感が伝わるたびに、クロの無表情だった頬がほんの少し緩んでいく。


 その微笑ましい光景とは裏腹に、ジュンはクレアが離れた瞬間、それまで抑えていた疲労が一気に押し寄せたように感じ、膝から力が抜けるまま、その場にへたり込んでしまった。


 全身に鉛を流し込まれたような感覚。


 だが、その顔には確かに疲労の色が滲んでいたものの、その奥には、任務をやり遂げた実感――革命派の地上拠点を正常化し、平和を取り戻す一歩を確かに踏み出したという確信が、しっかりと根を張っていた。


「ようやく一歩を踏み出せました」


「良かったですね」


 クロはそう言いながら、しゃがみ込んでいたジュンの肩にそっと手を置く。


 声には慰めの響きがあったが、次の瞬間、何の予告もなく視界がはじける。


 転移。気配も合図もなく、ふっと周囲の空気ごと切り替わる感覚――。


 ジュンの眼前にあった空と光景は一瞬で消え、代わりに映ったのは、解体されたテーブルの姿。外された天板、むき出しの配線、部屋中に散らばる工具やパネル。そしてそれを囲むように、アヤコたちがホロディスプレイに向かって一心不乱に作業を続けていた。


 あまりにも急な転換に、脳が追いつかない。


 地面の感触すら変わったことに意識が反応しきれず、視界が歪むような酩酊感が襲ってくる。胃の奥からこみ上げるような気持ち悪さに抗う間もなく、ジュンは情けないほど力なく、その場に崩れ落ちた。


 転移の衝撃と疲労の波に同時に飲み込まれた身体は、もはや限界だった。


 その音に反応したのは、散乱した工具の前で胡坐をかき端末を確認していたシゲルだった。


 顔を上げ、クロとジュンが現れた方に目を向ける。


 クロがさっさとアヤコの元へ歩いて行き、ジュンが床に倒れているのを確認すると、シゲルは肩をすくめるようにため息をついた。


 端末をテーブルに置き立ち上がると、そばにいたレッド君に向かって短く指示を出す。


「ついてこい。枕役だ」


 小さく命じたその一言に、レッド君は即座に反応した。


 手にしていた磨き途中の工具をその場に置き、何の迷いもなくシゲルの背後へ回り、そのまま歩調を合わせてついてくる。


 ジュンの前まで来ると、シゲルは腰を落としてしゃがみ込み、意識が朦朧としたままの彼女に手を差し出した。


「ったく……しょうがねえな」


 呟く声には、どこか呆れと、そしてほんの少しの優しさが滲んでいる。


 そのまま身体を抱え起こすと、ジュンははっとしたように顔を赤らめ、反射的に拒否しようと腕に力を込めるが、疲労しきった身体は言うことを聞かず、なされるがままシゲルに運ばれていった。


「ちょっ!顔が近いです!」


「うるせえ。黙ってろ」


 少しだけ笑いを含ませて返すと、シゲルはそのまま歩みを止めず、クロが出かける前に置いていった石のテーブルのそばまで運び、ジュンを椅子にゆっくりと座らせる。


 続いて、レッド君を彼女の腕に抱かせるように配置し、短く指示を出した。


「レッド。暫く抱き枕になってろ」


 無表情のまま応答したレッド君が、柔らかな感触でジュンの体勢を支えるように寄り添った、そのときだった。


 会議室の奥から、鋭い怒号が飛ぶ。


「また勝手に転移なんかして!」


「仕方がないです。疲れていたようなので、すぐに運びました」


 アヤコの鋭い声が室内に響き渡り、それに対してクロは少し俯きながら言葉を返していた。その姿は、圧倒的な力を持つ存在とは思えないほど、叱られる子供のように小さく見える。


 さらに、クロの肩でクレアが必死に間に入ってなだめようとしている様子が、余計にその印象を強めていた。


 その一連の光景を、ジュンはぼんやりと眺めている。


 腕の中で感じるレッド君の柔らかな感触と、身体を預けても大丈夫だという安心感に包まれ、意識は次第に遠のいていく。


 抗うこともなく、柔らかさと安堵に身を委ねるように。


 静かに――気絶するように、深い眠りへと落ちていった。

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