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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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監視統括室に届く終焉の映像

 クロが膿みだしを始めて、一日が経過していた。


 トゥキョウ基地の監視統括室。


 以前はクチグロが座っていた司令官席に、現在はアリが腰を下ろしている。背もたれに深く寄りかかることもなく、しかし姿勢を崩すこともなく、彼女は正面に並ぶ巨大ホロディスプレイ群を見据えていた。


 画面に映し出されているのは、バハムートが制圧してきた各基地での動き。区域も構造も異なる複数の拠点の映像が同時に流れているが、そこに映る光景はどれも似通っていた。抵抗は短く、迎撃は成立せず、結果だけが淡々と積み上がっていく。


『シュツルム・ナッコゥ!!!』


 一つの画面で、右腕に渦巻く嵐が撃ち出される。巻き起こった暴風は、周囲に展開していたドローンとRFをまとめて吸い込み、内部で引き裂き、細切れにしていく。そのまま進路を変えることなく戦艦へと衝突した瞬間、圧縮されていた嵐が解放され、無数の風の刃となって艦体を削り取り、装甲ごと破壊し尽くした。


『バハムートゥ! ブラスタァー!!』


 別の基地。胸部から放たれた真紅の光が基地上空を照らし、その光に包まれた者たちは爆発することもなく、悲鳴を上げる間すら与えられず、ただ静かに形を失い塵へと変わっていく。


『フレアソーーード!』


 さらに別の基地では、天高く振り上げられた剣が容赦なく振るわれる。近づくものは次々と断たれ、迎撃に出た機体も、退避しようとした部隊も例外ではない。最後には、基地防衛のため上空に展開していた戦艦ですら、一太刀のもと両断されていた。


『フレアレイン!』


 黒い光が降り注ぎ、基地全体が破壊されていく。


『フレアドリルパンチ! アンド、キック!』


『フレアブレス!』


 この一日の中でそれぞれの場所で繰り出される、バハムートの必殺技。そのすべてが、戦力差や戦術といった概念が、意味を持たなくなったかのような威力を伴っていた。


 管制卓に座るオペレーターたちは、もはや言葉を失っている。指は止まり、報告も途切れ、ただ映像を追う視線だけが室内を満たしていた。アリですら額に汗を滲ませている。理解はしている。あの圧倒的な力は敵ではなく味方だ。それでも、力の規模を直視してしまった恐怖は、理性だけでは押さえ込めなかった。


 同時に、胸の奥には別の感情も確かに芽生えている。――これが敵ではないという事実への、安堵。


「これは……裏切れんなぁ~」


 思わず零れた独り言。その言葉に反応したのは、同じ室内でギルドのデータ使用状況を監視していたアレクだった。彼は一瞬手元の表示から目を離し、眉をひそめたままアリの方を仰ぎ見る。その視線には、確認と、わずかな警戒が混じっている。


「それは裏切る可能性があったという発言ですか?」


 問いかけに対し、アリは肩の力を抜くように小さく笑い、ゆっくりと首を横に振った。その仕草は、緊張感に満ちた監視室の空気とはどこか噛み合っていない。


「いやいや。それはあり得ないよ、アレク君。むしろ君たちが裏切ることは?」


「それこそあり得ない。社長は、やると言ったら必ずやり通します」


 即答だった。言い切りに迷いはなく、感情を挟む余地すらない断言。その声音が、この場にいる全員の認識を代弁していた。


 その迷いのなさに、アリは一瞬だけ目を細める。そして再び、正面に並ぶホロディスプレイへと視線を戻した。そこでは今も、バハムートによる基地制圧の映像が淡々と流れ続けている。破壊の規模も速度も、見る者の感覚を麻痺させかねない光景だ。


「ならば問題ないよ、アレク君。我々は絶対に裏切らないよ。だって――怖いもん」


 屈強な体格と階級章を身に着けた姿とは裏腹に、屈託のない笑顔でそう言い切るアリに、アレクは一瞬言葉を失い、唖然とした表情を浮かべる。


 それを見て、アリはどこか面白そうに笑うと、再びホロディスプレイへ視線を向け、しみじみとした口調で語り始めた。


「怖いもんって、それでも中将ですか」


 アレクが呆れ顔でそう言うと、近くにいたオペレーターも、視線を画面から外さないまま小さく頷く。その反応が、この場の総意であることは明らかだった。


 それを見て、アリはさらに笑みを深める。


「仕方ない。実際怖いだろ、あれ」


 そう言って指さした先のホロディスプレイには、バハムートが戦艦を掴み上げ、そのまま振り回している姿が映し出されている。質量も規模も常識外れの戦艦が、まるで玩具のように扱われていた。


『バハムートゥ、スイング!』


「ジャイアントスイングを大型艦にしてるんだよ。常識ではあり得ない」


「……それは同意します」


 アレクはため息とともに、素直にそう答えた。誰も反論できない。画面の向こうで繰り広げられているのは、理屈も理論も置き去りにした、圧倒的な現実そのものだった。


 そのとき、管制卓の一角から、張り詰めた声が監視統括室に響き渡る。


「アリ中将! 今、報告が入りました! 全ての義勇軍の地上基地が、完全降伏を受け入れました!」


 室内の空気が、一瞬だけ変わる。オペレーターたちの視線が一斉に司令官席へと集まり、指の動きが止まった。


「まだ、あったと思うが?」


 落ち着いた声で返すアリに、報告したオペレーターは一瞬言葉に詰まり、次いで苦笑いを浮かべる。その表情には、理解と諦観が入り混じっていた。


「中将の命令で、少佐から送られてきた現地映像を各基地へ転送したところ、即座に受け入れられました」


 簡潔な報告だったが、その一言一言が示す意味は重い。映像――つまり、バハムートが実際に制圧している“現実”を見せられた結果だった。


「よろしい。タイソン大佐に、すぐさま降下するよう指示を出しておいてくれ」


 アリは迷いなくそう告げる。すでに次の段階へ進むことを前提とした判断だった。


「はっ!」


 鋭い返答とともに、オペレーターは即座に指示を送信する。監視統括室では、戦闘の終わりと、その後始末へ向けた動きが始まっていた。誰もが、画面から目を離せないまま。

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