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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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ジュンとタイソン、報告と出発

 ジュンは、真紅から元の色へと戻りつつある空を見上げた。


 その眩しさに目を細めたまま、静かに息を吐く。恐怖に染まっていた空が平静を取り戻すと同時に、名残のような恐れが胸の奥をよぎる。だが、その感情に構っている余裕はない。彼女の手は止まらず、指先は休みなくホロディスプレイを滑り、次の通信先を淡々と呼び出していく。今は、やるべきことをやるだけだ。


 接続先は、アリ中将が編成した特殊即応艦隊。艦橋に立つ人物の顔が表示された瞬間、ジュンの胸の奥が、ほんの僅かにざわついた。彼女にとっては、あまりにも見慣れた顔だった。


『こちら、特殊即応艦隊。タイソン大佐だ』


「お父さん!」


 反射的に漏れた、飾り気のない呼びかけ。


 軍務の場には不釣り合いなその一言に、返ってきたのは、やや呆れを含んだ声だった。


『お父さんじゃない。大佐と呼べ、少佐』


 軽く釘を刺すような口調。だが、その声音の奥に、柔らかな微笑の気配が滲んでいることを、ジュンは聞き逃さなかった。


 それも束の間。タイソンはすぐに表情を引き締め、軍人としての顔に切り替える。背筋を正し、きびきびと敬礼を送るその姿は、特殊即応艦隊を率いる指揮官そのものだった。ジュンも即座に反応する。背筋を伸ばし、踵を揃え、きびすを返すように敬礼を返した。


『報告を』


 短い。だが、その一言には明確な重みがあった。


 通信回線越しに放たれた声が、艦橋の空気を一段階、いや二段階引き締める。怒鳴るでも威圧するでもない。それでも場の温度を確実に下げるだけの力が、そこにはあった。


 ジュンは自然と呼吸を整える。姿勢を正し、視線をホロディスプレイに固定したまま、迷いなく口を開いた。


「現在、トゥイタマ基地において監査命令をアリ中将名義で発令し、クロによる査察を受け入れるよう通達を出しました」


 一語一語を区切り、余計な抑揚を排する。感情は乗せない。必要なのは事実だけだ。


「しかし、その直後、基地側より武力を伴う攻撃を受けました。これは、査察拒否に留まらず、明確な反逆行為と判断されます。加えて、クロの生命を危険にさらす行動でもありました」


 ジュンの声は揺れない。軍において最も重視される報告姿勢――正確さと簡潔さを、彼女は忠実に守り続ける。


「よって、クロの正当性をもって反撃を実施。結果として、当該基地はすでに制圧済みです」


 報告を終えると、ジュンは静かに息を吸い直した。視線は真っ直ぐ。次に投げかけられる問いを前提に、すでに心構えはできている。


 ホロディスプレイの中で、タイソンは数秒間、沈黙を保ったままジュンを見据えていた。何かを量るような眼差し。その背後では、補佐官らしき人物が情報端末を操作しながら、低い声で状況を耳打ちしている。


 やがて、タイソンはゆっくりと口を開いた。


『先ほど、トゥイタマ基地方面が赤く光ったが……あれは、なんだ?』


 問いを受け、ジュンは一瞬だけ言葉を選ぶ。報告書に落とし込むには、あまりにも規格外な現象だった。


「どう説明すればいいのか迷いますが……クロの攻撃です。警告射撃というには凄まじいですが」


 率直な言葉に、タイソンは短く息を吐いた。


『……警告射撃。規模が異常だな』


 言葉に詰まるタイソンの反応に、ジュンも内心で同意する。警告という言葉で片付けるには、あまりにも過剰だった。


 その瞬間だった。


 通信回線に、割り込むような反応が走る。表示が切り替わり、そこに映し出されたのは、嬉々として輝くクロの表情だった。


 先ほどの光について、説明する気満々といった様子で、クロは身を乗り出す。


『それはそうです。小惑星すら簡単に消せますから。コツはですね、叫ぶことです。魂を乗せて、思い切り叫ぶんです。そうすると必殺技の威力が――』


 ホロディスプレイの向こうで、タイソンがそっと額に手を当てジュンも同じく手を当てる。


「クロ! 今はそんな事はどうでもいいです!」


 思わず声を荒げた瞬間、ようやくクロの饒舌な語りが止まった。クロは一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、誰も必殺技のロマンを理解してくれないとでも言いたげに、首を左右に振り、肩をすくめて嘆息する。


 その仕草には不満がありありと滲んでいたが、ジュンもタイソンも取り合わない。二人の会話はそのまま続いており、ジュンは短く息を吐いて、意識的に話題を引き戻した。


「それより、大佐。この後の動きは?」


 語気は強めだが、必要な確認だ。クロも「仕方ない」とばかりに小さく肩を落とし、ようやく話を聞く姿勢を取って、タイソンの言葉を待つ。


 ホロディスプレイの向こうで、タイソンは一度、深く息を整えた。私情を切り離し、指揮官としての思考に完全に切り替える。その表情で、静かに口を開く。


『これから、そちらに部隊を送る。今すぐ動けるよう、軌道衛星上に降下ポットを配備している』


 淡々と告げられる言葉。だが、その裏ではすでに迅速な判断と準備が完了しており、残るのは実行のみであることが、はっきりと伝わってくる。


『少佐たちが制圧した後、こちらで完全に固める手はずだ。後処理はこちらで引き受ける。そちらには既に降下を開始している。もうすぐ着くだろう』


 その指示を受け、ジュンは小さく頷いた。事態は想定通り、軍の手へと引き渡されていく。


 そしてクロも、ひとつ頷く。それでいい、と判断したのだろう。次に取るべき行動は、すでに決まっている。


『ジュン、次に行きましょう。時間を置けば対策を取られます』


 迷いのない声。制圧が終わった今、足を止める理由はない。


「クロの場合、対策されても意味はないでしょう」


 思わず漏れたジュンの言葉に、タイソンは苦笑混じりに、確かに、と頷く。そして当の本人であるクロも、至極当然といった様子で同意するように頷いた。

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