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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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受容とお掃除開始

 その後、クロたちは即座に転移し、遮蔽スクリーンに隠されたヨルハの元へと現れる。


 着地と同時に、クロはクレアへと視線を向ける。その意図を感じ取ったのか、クレアは目を閉じ、小さくうなずくと、そのまま意識の核をヨルハへと移した。


 クロは静かにクレアを肩からそっと下ろすと――そして、何の前触れもなく、その小さな身体をジュンの腕へと預ける。


「へっ!? な、なに」


 突然の出来事にジュンが慌てて声を上げるも、体勢を崩さぬよう本能的にクレアをしっかりと抱きしめるしかなかった。クレアはすでに深い眠りのような状態にあり、軽く呼吸を整えているだけのようにも見える。


 そんな戸惑うジュンをよそに、クロは一歩下がって膝を軽く曲げると、そのまま腰を抱えるように持ち上げ――すっと宙を滑るように跳躍した。


 思わず声にならない悲鳴を飲み込むジュン。そのまま彼らは空中を舞い、ヨルハの頭部――疑似コックピットのすぐそばへと着地する。


「ちょ……! 急になんなんですか」


 ゆっくりと下ろされ、足が地面に着いた瞬間、ようやく息を吐き出したジュンが文句をぶつけるが、クロはすでに扉を指差していた。


「まあまあ。それより、このコックピットに入ってください」


「コックピット? これが……?」


 クロが示したのは、透明のカバーに覆われた石のような内部構造――そこには人型のくぼみが彫り込まれており、どう見ても通常の操縦席には見えない。


 ジュンは眉をひそめて戸惑う。


「……どう見ても、石の板にしか見えないんですが」


「モノリスです。本来はクレアがここにちょこんと座るんですよ。でも今回は、ジュンに入ってもらいます」


 クロは微笑を浮かべたまま淡々と説明し、扉を軽く開けて見せる。


「恐れずに。そこに体を合わせてみてください。ちゃんと、形が変わりますから」


 ――形が変わる?


 言っている意味が理解できず、ジュンは戸惑いつつも、これまで幾度となく常識を覆されてきたクロの言葉に、しぶしぶ従う決意を固める。


 ゆっくりと中に入り、くぼみに背を預けると――


 音は一切しなかった。まるで最初からジュンの体格と姿勢を精密に測って設計されていたかのように、モノリスはゆっくりと、だが確実に形を変えていく。


 硬質な石であるはずの表面が、不思議なほど柔らかく沈み込み、背中、腰、肩――体の曲線にぴたりと沿うように包み込んでいく。金属でも布でもない、にもかかわらず、そこにあるのは異様なまでのフィット感。圧迫される感覚は一切なく、むしろ吸い寄せられるように身体が支えられていく。重力は均等に分散され、まるで無重力空間にでもいるかのような錯覚すら覚える。石の内部では見えない変化が進行していることだけが、確かな感触として伝わってきた。


「……は? なにこれ」


 思わず漏れたジュンの声には、困惑と驚愕が色濃くにじんでいた。


 モノリスが静かに変形を終えていく中で、傍らのクロはどこか得意げに、少しだけ口元を緩める。


「痛くないでしょ。石なのに、けっこうやわらかいんですよ」


「いや……そういう問題じゃなくて……もう、いいです」


 それ以上深く考えるのを放棄したかのように、ジュンは静かに目を閉じ、息を吐く。理解しようとするたびに常識の外へ放り出される現実に、ついに諦めの境地へ達したようだった。


 その様子を確認したクロは、わずかに頷いてから一歩引き、声を張った。


「ヨルハ。バハムートまで移動してください」


「了解しました、クロ様」


 ヨルハの応答と同時に、空気がわずかに震えた。重力の感覚が一瞬だけ曖昧になり、次いで視界が流れる。


 巨大な機械を模した狼――ヨルハが、音ひとつ立てず滑るように加速を始めた。


 遮蔽スクリーンをすり抜けると、黒き狼は基地の空へと躍り出る。そのまま宙を裂くように進み、待機していたバハムートのもとへと、まっすぐに飛翔していく。


 滑空するような飛行。その中で、クロは一歩、前方へと視線を向けた。


「――お掃除開始」


 その静かな一言が、疑似コックピット内に響く。


「ジュン、アリ中将に。これより行動を開始すると伝えておいてください」


 その言葉に、ジュンはすぐさま反応した。膝の上にいたクレアをそっと座らせ、端末を取り出す。


「わかりました。……まずは、どこから向かいますか?」


 端末を操作しつつ、ジュンは問いかける。その横顔に一瞬だけ視線をやった後、クロは前を向く。


 眼前には自分自身、漆黒の巨躯――バハムートが、すぐそこまで迫っていた。


 静かに、だが確かな意志を込めて呟く。


「まずは……近くからだ」


 その声には、ほんのわずかに、獣のような鋭さが滲んでいた。

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