表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

662/667

レッド君の登場と境界線

 クロもまた、思わず立ち止まっていた。肩にいたクレアまでもがぴたりと動きを止め、小さな瞳を見開いてレッド君を凝視している。


 それは、シゲルを除くその場にいた全員――すべての者にとって、想定外の出来事だった。


「俺には、レッドがサポートにつく。普段から使ってるからな。俺には、こいつが一番合うんだよ」


 シゲルは満足げな口調でそう言いながら、無言でレッド君に手の合図を送る。


 すると、テーブル上でポーズを決めていたレッド君が、再び軽やかに跳躍。ひょいっと身を翻すようにして、シゲルの足元へと降り立つ。


 シゲルはその小さな頭を二度、軽くぽんぽんと叩いた。


「よし、レッド。工具箱を取ってこい。それから――おい、お前らも手を動かせ。まずはこのテーブルを一度ばらして構造を確認してからにするぞ」


 中央テーブルを叩きながら飛ぶシゲルの指示に、レッド君は即座に反応する。背後に置かれていたツールキャリアに駆け寄り、凹凸の無い手でどうやってかわからないが器用に持ち上げて戻ってくると、シゲルの足元にトンと置いた。


 そして彼は、それを手際よく広げながら、端末ユニットの取り外しを始めた。


 その様子を見ていたアヤコたちも、ようやく現実に引き戻されたかのようにいそいそと動き始める。レッド君が自然に作業チームの一員として扱われている様子に、最初は戸惑いを見せていたが――次第に、誰もがその存在を受け入れ始めていた。


 そんな中、クロは静かにシゲルに歩み寄る。そしてその肩から、クレアがぴょんと跳び、レッド君の頭にふわりと着地する。


「レッド君……連れて来てたんですね。これは、驚きましたよ」


「なんで来てるんですか あなたは家の守りがあるでしょう」


 クレアは前足を振り上げ、器用にレッド君の頭部へとスタンプを打ち込む。その間もレッド君は手を止めることなく、部品を一つずつ揃え、乱れた配置を丁寧に整え続けていた。


 真面目で律儀、そしてやわらかい――それが、レッド君の持ち味だった。


 クロはそんな様子を微笑ましく眺めながら、そっとクレアを抱き上げる。軽くなったその身体を腕に感じながら、優しく背中を撫でてやる。


「落ち着いて、クレア。来てしまった……いえ、連れて来てしまったものは、もう仕方がありません」


 その柔らかな声に、クレアはぴくりと耳を揺らし、気持ちよさそうに目を細めた。わずかに息を吐くようにして力を抜くと、素直にクロの腕の中に身を委ねる。


 クロはそのままの姿勢でシゲルの横顔を見つめ、改めて声をかける。


「お父さん。後は任せても」


「ああ、任せとけ。……お前はしっかり稼いで来い」


 迷いのない短い返事。その言葉には、確かな信頼と責任が込められていた。


 クロは穏やかに頷き、クレアを再び肩へと乗せる。


 そして踵を返すと、少し離れた位置にいたジュンに向かって声をかけた。


「と、いうことです。……クレア、私たちは私たちの仕事をしましょう。ジュン、行きますよ」


 その呼びかけに、ジュンが少しだけ困ったように手を上げて制した。


「ちょっと待ってください。いま、アレクさんを案内する役の者をこちらに呼んでいます。さすがにこの規約には、私の判断でサインできる権限はありません。アリ中将の許可が必要です」


「……なるほど。ならアレクは下で待機させてください。ここには来させないように。――流石に、無許可での解析ですから」


 クロの口調は変わらず穏やかだったが、その声には確かな境界線があった。責任の所在を明確にし、必要以上に踏み込ませない――その線引きを、淡々と伝えていた。


「了解です」


 ジュンは短く頷くも、すぐに少しばかり気まずそうな表情を浮かべて、苦笑いを交える。


「もう……何言っても無駄なのはわかってますが、一応、監視役をここに置かせてほしいんですが……」


 後半の伸びた声に、どこか諦めと愚痴が滲む。


 だが、クロはそんなジュンの声に一切流されることなく、すっと首を横に振るだけだった。


「……ですよね」


 想定通りの返答に、ジュンは肩を落とし、小さくため息を吐いた。


 そのままぼやくように、誰に聞かせるでもなく呟く。


「……まあ、仕方ないか」


 言葉と同時に、手元の端末を操作する。画面上に幾つかの制御パネルが立ち上がり、彼の指先が滑らかに動いていく。


 ほどなくして天井付近のパネルが開き、一機の小型ドローンが音もなく姿を現す。360度カメラを備えた機体は静かに浮上し、会議室全体を捉える位置でホバリングを始めた。


 ジュンはその様子を一瞥してから、言外に抗議を滲ませるような声で念を押した。


「……せめてもの抵抗です。カメラ、隠さないようにお願いしますね。後ほど、しっかり記録は確認させてもらいますから」


 その声音には、諦めとも苦笑ともつかない感情が混じっていた。それでも、任務を全うする意思は、どこまでも揺らがずに残っている。


 天井に向けられたドローンのレンズが、赤く小さく光を放つ。録画の開始を知らせる電子音が、空調の風音と交じり合って、静かに室内へと広がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ