表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
二度目の目覚め
66/471

新たな種族

 初仕事を終えたホエールウルフだった存在は、静かに戻ってきた。漆黒の巨体が宙を滑るように降下し、バハムートの前に着地する。そのまま頭を垂れ、一言、短く告げた。


「……終わりました」


 報告を聞いたバハムートは、満足そうに腕を組む。しばしの静寂ののち、ゆっくりと口を開いた。


「よし。――お前は、もう“元の種”じゃない」


 黒き瞳がわずかに細められ、語られる声には威厳と微かな愉悦が滲んでいた。


「この俺、バハムートの血を得て進化した存在……これからは、新しい種として“バハムートウルフ”としよう」


「はっ……は? バハムート様……?」


 あまりに唐突すぎる宣言に、バハムートウルフは思わず素の声を漏らす。


 だが、バハムートは眉ひとつ動かさず、当然のように言い放つ。


「言ってなかったが、俺の名は――バハムートだ」


 静かな宇宙に、その名が落ちた。


 バハムートウルフは、思った。


(……よく、生きていたな、私)


 群れの仲間は、すべて散った。だが自分は生き残った。そして、今はもう“かつての自分”ではない。


 その思考を断ち切るように、バハムートが続ける。


「でだ。いいか――俺が偉ぶるのはここまでだ。あとは普通に話せ」


 言葉の切り替えにやや戸惑いつつも、バハムートウルフは小さく頷く。


「……はい。あの、ひとつ……聞いても?」


「なんだ?」


「……その、お姿は……一体?」


 明らかに困惑の色を帯びた問いだった。


 バハムートは、わずかに視線を逸らす。そして、小声で呟いた。


「…………カッコよくないか?」


 静かに、宇宙が冷えた。


 しばらくして、バハムートは咳払いを一つ挟み、話を進めた。


「まあ、それはいい。お前にも、この姿に近い擬態をしてもらう」


「えっ……無理ですけど?」


 即答だった。戸惑いすら通り越した拒否の声音。


 だが、バハムートは意にも介さない。


「いや。俺の眷属となった今、出来るはずだ」


 断言とともに、右手を胸元へ添える。


「分身体を出す。驚くなよ」


 そう言って、胸の中心が淡く光を帯びる。空間に波紋のようなゆらぎが広がり――そこに一人の少女が現れた。


 長い黒髪。黒く透き通るような瞳。落ち着いた佇まい。人間の少女――クロだった。


「……これが、俺の分身体だ」


 その説明に、バハムートウルフは完全に固まる。


「主、それ……その前に説明を。色々と混乱してます。なぜその姿なのか。なぜ人間の子供なのか――」


 あまりにも情報量が多すぎた。


 だが、クロは即座に一言で切り捨てる。


「後だ。説明は、移動しながら話す」


 有無を言わせぬ声音だった。


「まだ、もう一件依頼がある。今は――俺の指示に従ってくれ」


 そう言って、手元の端末を操作する。表示されたのは、古びたアニメ設定資料だった。以前、クロがシゲルに参考にしろと見せられた、スーパーロボットの資料。


「まずは、これを意識しろ」


 クロが映像を指し示しながら続ける。


「擬態は“イメージ”が起点だ。まず構造をイメージして、自分の体をそう“収める”。あと――お前、デカすぎる。もっと中に凝縮しろ。質量はそのまま、サイズだけ落とせ」


「は、はぁ……」


 もはや理解ではなく、“従うしかない”という空気だった。


 バハムートウルフはゆっくりと目を閉じ、集中を深める。


 擬態。そして、凝縮。主の命令に応えるべく、意識を内へ内へと沈めていく。


(主が言うのだ。――なら、やってみせる)


 そして――変化が始まった。


 変わっていくその姿は、生きた装甲だった。黒と紅の重厚な装甲。金属のような質感は、実際には極限まで練り上げられた筋繊維の変質体。あくまでも「そう見せる」ために外観を偽った肉体だが、その完成度は、もはや機械そのものだった。


 節構造を思わせる四肢。刃のように鍛え上げられた爪。そして背には鋭く尖った装甲板の様な肉体が折り重なり、まるで刃の鬣を思わせる。


 眼光は金色に染まり、内側で淡く脈動する。それは器官ではなく、感情に反応する神経信号が光として漏れ出しているだけだった。


 全体の印象は、バハムートに似たものだった。いや――主に倣い、自らも“そう在るべきだ”と選び取った擬態。


 金属に見えるが、金属ではない。機械のようでありながら、生きている。その偽装の奥にあるのは、誇り高き肉体と、主への敬意。


 この肉体は、“偽る”ためのものではない。“かたちとして生きる”ための、選ばれた狼の姿だった。


(……まさか、本当にできるとは)


 擬態を終えたバハムートウルフは、静かに自分の姿を見ながら驚いていた。


 巨体も変化に伴って大きく縮小されている。かつて600mを超えていた身体は、いまや40mほどに凝縮されていた。


 それでも威圧は失われていない。質量と存在感はそのままに、ただ洗練され、密度を増していた。


「……よし、カッコいい」


 満足げに頷いたのは、クロだった。


「一応、私はメスですけど」


 バハムートウルフは、ため息交じりに呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
オスメスあったんか・・・
うひょー!もーふぃんぐカッケー! からの、おにゃのこでわろたw (かっこいい女子自体は◎)
雌?シッテタw(゜∀゜) これはもしや人型だとスタイル抜群大人のお姉さんになるのでは!?ハアハア(*´Д`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ