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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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尋問が……始まらない!

 ブラックガーディアンが静かに着陸を終えると同時に、クロの一言で、艦内での話し合いが始まった。もっとも、それは穏やかな語らいというより、限りなく尋問に近いものである。


 場所は、ランドセル側のリビングスペース。


 艦内とは思えぬほどきれいなリビングに、座り心地の良いソファーが並ぶ。そこにクロとエルデ、そしてデビットが腰を下ろしていた。彼らの前、テーブルを挟んで対面には――手足をスラコンで拘束された、フードを目深に被った人物。


 その背後には、アンジュ、ポンセ、タンドールの三名が立っている。それぞれが無言のまま、その人物に鋭い視線を注ぎ、重圧のような威圧感を与えていた。


 静かな時間。


 そこへキッチンからアレクが現れ、クロたちのコーヒーとジュースを注いだマグカップとミルクの入った深皿を、テーブルに静かに置いていく。


「お待たせしました」


 短く告げると、アレクはすぐさまクロの背後へと回り、背筋を伸ばして静かに立つ。両手は後ろで組まれ、立ち姿は護衛のように整っているが、視線だけはすでに正面の尋問対象へと向けられていた。


 クロは無言のままコーヒーを口に運ぶ。エルデはジュースを、クレアはテーブルの上にちょこんと座り込んでミルクを――それぞれが自然な動作で、穏やかに飲み物へと手を伸ばした。目の前にスラコンで拘束された人物がいるというのに、まるで日常の一場面のような空気だった。デビットも例に漏れず、落ち着いた手つきでカップを持ち上げている。


「いや、落ち着きすぎですよ社長」


 沈黙を破ったのはアレクだった。


 皮肉を含んだ軽口に、ソファーの誰もが特に表情を変えなかったが、確かに空気がわずかに緩む。視線が向けられたのは、デビットだった。


「デビット大佐も、何のんびりしてるんです?」


 アレクが半ば呆れたように尋ねると、デビットは肩を竦めるようにして、ゆっくりとマグカップを口元へ運んだ。


「いや、これでも驚いているんだがね」


 そう言いつつも、その顔はまるで無表情。静かにコーヒーを一口含んだのち、視線をゆるやかに巡らせながら、リビング内を見渡す。


 軍用艦ではまず見られないほど広く設計されたリビングスペース。天井には空間の広がりを感じさせる照明パネルが並び、腰を落ち着けたくなるような深いソファーが置かれている。背後には整ったキッチンと、シンプルで無駄のない収納設備。そして、正面の壁一面に広がるホロディスプレイと、スピーカータイル――シゲルがこだわって設計した、音響のための特殊素材が仕込まれた内装。


「見たこともない合体機構の戦艦に、豪華な内部……。ハンターとは、ここまで稼げるものなのかね?」


 デビットの呟きは、感心というより、どこか呆れにも似た響きを帯びていた。


「いえ、輸送艦は鹵獲品ですし、戦艦部分は依頼の報酬としていただいたものです。かかった費用は内装ぐらいですし、その内装の改造も家族が好き勝手に造りましたので」


 クロはいつも通り淡々と答える。誇張も虚飾もない。ただ事実を並べるその声音は、リビングの居心地の良さと静かに対照を成していた。


 ミルクを飲み終えたクレアが、前足でそっと深皿を押し戻す。


 クロはそれを見届けると、自然な動作で手を伸ばし、小さな顔の口元を清潔なタオルで拭いはじめた。白く細い顎にかかる柔らかな布の感触に、クレアはすこしだけ目を細めている。


「クロ君のご家族は技術屋なのかね?」


 デビットの問いに、クロはわずかに口角を上げて頷く。


「ええ。今も企業のデータを一生懸命に見てますよ」


 語尾にほんの少し、誇らしげな響きが乗っていた。


 朗らかなやり取りが続く中、クロはクレアの口元を丁寧に拭き終え、そっとタオルを畳む。その仕草には、どこか母性すら滲んでいた。


 その空気を切るように、アレクが大きく息を吐いた。


「いやいや……話を進めましょう」


 呆れ混じりのその言葉に、場が静かに切り替わる。


 クロはくすりと笑い、わずかに姿勢を正す。表情からは柔らかさが消え、代わりに鋭い緊張が戻ってくる。


「アンジュ。フードを取ってください」


 クロの言葉に応じて、アンジュがひとつ頷く。無駄な動きひとつなく、そのまま手を伸ばし、フードの縁を静かに掴んだ。


 視線を遮っていた布地が滑り落ち、露わになった顔は、年齢の刻まれた男のものだった。髪は薄く、頬はこけ、まぶたの奥には濁った疲労の色が残る。長く怯えた表情を続けていたのか、目元には緊張の痕がそのまま残り、口元はかすかに震えていた。


 肩が、ほんのわずかに引きつっている。


 その様子を見たエルデが、思わず口にする。


「おっさんっすね」


「エルデ君。……言い方が悪い」


 デビットはそう注意しつつも、視線はすでに男から外していなかった。


「――だが問題は年齢ではない。この人物が、どこまで関与しているかだ」

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