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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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静かな依頼成立

「クロ君。この場で依頼は出来るかね?」


 唐突な問いかけに、クロは一瞬だけ目を細める。


「内容によりますが」


 端的に、しかし拒絶の気配を含まぬ答えだった。


 その返答を受けて、デビットは叫び続けるデモ隊に目を向けたまま、声の調子を変えず淡々と告げる。


「死者を出さず、デモを解散させられるかね? 報酬は……私の出来る範囲の金額を払おう」


 静かな依頼だったが、発せられた瞬間――その場にいた兵士たちが一様にデビットの方へと顔を向けた。疑念、驚き、戸惑い。そのすべてを乗せた視線が集まる。


 だが、デビットは一切動じない。鋭く睨み返すだけで、兵士たちは怯んだように視線を戻し、再び前を向いた。


 そんなやり取りを目の端で捉えながら、クロはわずかに口元を歪める。それは面白がっているとしか言いようのない表情だった。


 ちょうどそのとき、デモ隊の騒ぎからやや距離を置いた場所に、一機のドローンが滑るように降下してくる。静かに接地し、その脇から姿を現したのは――エルデだった。


 軽やかな足取りで地に降り立ったエルデは、両腕をわずかに広げながら一歩前へ踏み出す。その動きに合わせて、装備の装甲が光を反射し、群衆の視界に鋭く突き刺さる。


 風を受けて短い髪がふわりと揺れる中、彼女は何食わぬ顔でクロのもとへ向かっていく。


 その両腕に装着されたのは、展開すれば確実に殺意と誤認されるシールドユニット。さらにその内側には、折りたたまれた四門のガトリング構造――まるで装飾の皮をかぶった兵器そのものだった。


 見た目はどう取り繕っても、明確に戦闘用の装備。暴徒鎮圧の域を超え、小規模な軍事行動すら想起させる構造と威圧感があった。その存在感に、デビットの呼吸が一瞬だけ浅くなる。


 その様子を、クロは横目で捉えながら、何でもない口調で声をかける。


「ああ、見た目は派手ですが、ビームや弾丸は撃てないので安心してください」


 まるでアクセサリーでも紹介するかのような軽い説明だった。


 だが、デビットは渋面を崩さず、言葉の真意を測りかねるように眉をひそめる。


「……安心の意味を把握しかねるが」


 その反応に被せるように、エルデが明るく笑って補足した。


「ホントに安全っすよ! 圧縮した空気で、ふわっとどかすだけっすから!」


 あっけらかんとした口調。悪気など微塵も感じさせない天真爛漫さに、デビットは目を細めたまま、深い溜息をついた。


「……それは大丈夫とは言わないよ、エルデ君」


 真顔のまま放たれたそのツッコミに、クロの肩がごくわずかに揺れる。笑いではない。けれど、そこには明らかな緩みがあった。


「えっ……」


 エルデは一拍遅れて、少し恥ずかしそうに声を上げると、そそくさとクロのもとまで歩み寄る。


「空の旅はどうでした?」


 クロが問いかけると、エルデはぱっと顔を明るくしながら答えた。


「めっちゃ寒そうだったっす! でも、クロねぇのアンクレットで問題なかったっすよ!」


 そう言って、ズボンの裾をたくし上げ、右足首に装着されたアンクレットを見せびらかすように掲げる。まるで宝物でも見せるような表情で、すごいっすと声に出して褒めたたえるその姿に、デビットの表情が再び変わる。


 思い返すまでもない。上空に控えるブラックガーディアンから、その身一つでドローンに運ばれてきた者だ。つまり、彼女もまた異常者に属する存在。


 化け物の仲間もまた、化け物ということか。


 思考がそこに至ったところで、デビットはふたたび現実に戻るように顔を上げ、改めてクロへ問う。


「で、依頼は受けられるかね?」


 促されるようにクロが視線を戻す。今にも警備ロボを押しのけて押し寄せそうなデモ隊を一瞥しながら、確認を取るように問い返す。


「ここは軍事基地。確認ですが、一般人は立ち入り禁止区域で間違いないです?」


「ああ、間違いない」


「もう一つ確認です。この国には、不法侵入に対する法律的罰則は存在します?」


「ああ。存在する」


 クロは小さく頷くと、最後の確認とばかりに人差し指を一本立てた。その口元には、わずかに笑みが浮かぶ。


「最後に。怪我は仕方ないですよね?」


 デビットは、その言葉の意味をすぐに理解した。死人は出さないという条件に対して、怪我は含まれない。


 数秒だけ沈黙が流れる。だが、躊躇いはなかった。


「ああ、問題はない。証拠は残す。ただし――必ずこちらに非が無い様にして欲しい」


 その一言に、クロは最後にしっかりと頷いた。


「わかりました。受けます」


 その声は静かで、しかし揺るぎなかった。依頼の成立。それは、これから始まる処理の開始を意味していた。


 クロはそのまま踵を返し、デモ隊の方へと歩き出す。エルデもまた、ぴたりとその背中に続いた。


 ふたりは兵士たちの列を無言で抜け、デモ隊の目前まで進んでいく。敵意も威圧もない。ただ、粛々とやるべきことをやるという気配だけが漂っていた。


 クロは両手をジャケットのポケットに入れたまま、ゆっくりと歩を進める。その内部では、誰の目にも映らぬ別空間が静かに開かれていた。


 右手には、クロが要望し、ウェンが制作し組み上げた拘束銃リストレイント。左手には、スラコン弾のマガジンをポケットに取り出しておく。


 その動きには、一切の緊張がなかった。まるで掃除用具でも準備するかのように自然で――あまりに静かだった。

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