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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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抗議の空と神話の降臨

 転移したクロたちは、トゥキョウ基地の上空に停留していた合体艦ブラックガーディアンの、ランドセル側に設けられたブリッジに姿を現す。


 中には、アレクの姿があり、その前の操縦席にはポンセ。左右にはアンジュとタンドールが立ち、四人とも険しい表情で中央のホロディスプレイを見つめていた。


 画面に釘付けになっている彼らは、転移の気配すらまったく感じ取っていなかった。


「来ましたよ」


 クロが静かに一声かける。


 その瞬間、全員がビクリと肩を震わせ、驚いたように一斉に振り向いた。


 クロたちの姿を目にすると、アレクはほっとしたように安堵の息を漏らし、即座にホロディスプレイをクロたちの前へとスライドさせてくる。


「おかえりなさい。……早速で申し訳ないのですが、状況を見てください」


 ホロディスプレイには、基地前の着陸予定地点のすぐそばの映像が映し出されていた。


 通常であれば広く確保されているはずの着陸地点。今はその付近にびっしりと人の波に埋め尽くされている。手製のホロカードやドローンを使った抗議旗が掲げられ、抗議の声が飛び交っているのか、人々は声を張り上げながらジェスチャーを繰り返していた。


 監視の為飛ばしていたドローンの映像は高所からのもので、揺れる人垣が小さな波のように見えた。


「これはこれは……下はなんと?」


 クロは目を細め、映像越しに群衆をじっと見つめる。


「デビット大佐の報告では、現地の住民と非戦の人々が合同で抗議デモを行っているそうです」


 アレクの声は堅く、どこか気まずそうでもあった。


「非戦……ですか」


 クロはその言葉を静かに反復し、思案するように視線をわずかに落とす。


 しばし無言。ホロディスプレイの映像だけが静かに流れ続ける。


 その沈黙に耐えきれず、アレクがようやく口を開いた。


「……どうします?このまま上空で待機しますか?一応、着陸場所は空いてますので、強行着陸も可能ですが……」


 アレクは頭を軽く掻きながら、どこか気まずそうにクロへ視線を向ける。判断を求めてはいたが、実際には自分でもどちらが正しいのか決めきれていない。


 着陸予定地点そのものに人の姿は見えない。だが、すぐ隣接する広場には抗議デモの群衆が密集しており、万が一、何かが起きればただでは済まない。


 クロはしばらく何も言わず、代わりに手を顎に当ててゆっくりと考え込む仕草を見せた。


 その沈黙を破ったのは、すぐ横に立っていたエルデだった。


「名案を思いついた!」とでも言いたげな顔で、両腕に装着されたウルフを堂々と掲げ、とびきりの笑顔で口を開く。


「ウルフで吹き飛ばせばいいんじゃないっすかね?」


 明るく無邪気な声で言いながら、さらに追い打ちをかけるように続ける。


「最低出力で撃てばちょっとした風の塊みたいなもんっすから、ダメージなくコロコロ~っとどかせると思うっすけど……。ダメなんっすね?」


 その口ぶりは、本当に悪気のない“提案”だった。まるで「床が汚れてたら掃除すればいいっすよ」程度の感覚。問題の根っこを力技で解決するのが自然だと思っている顔だった。


 一瞬、ブリッジ内の空気がピシリと凍りつく。


 アレクは目を細め、言葉を選ぶように息を吐きながら、ゆっくりと首を横に振った。


「……賞金首や犯罪者相手なら、まだしも……ダメです。絶対にダメです」


 断言する声には、冷静さと責任感が滲んでいた。怒っているのではなく、止めねばならないという義務の色だった。


 視線をエルデに向けたまま、声にわずかな熱をこめて続ける。


「いいですか。エルデが悪意なく言ってるのは分かってます。でも、あの人たちは抗議デモしてるだけです。非武装です。もし、一人でも怪我をさせたら……その瞬間に、俺たちは“悪者”にされます」


「……うっ!悪者は嫌っすね……」


 エルデはわずかに身を縮め、肩をすくめながらクロの背に半分隠れるような仕草を取った。


 しかし、そこで反応したのはクロだった。


「よし、エルデの案で行きましょう」


「……は?」


 アレクが一段階高いトーンで間抜けな声を漏らす。


「えっ……まさかの採用っすか!?いや、でも……ほんとにやるんすか、さっき悪者になるって言ってたっすが?」


 エルデは自分の言った提案を信じきれていない様子で、口をぱくぱくとさせながらクロを見る。


 さっきの話を聞いていなかったのかと疑いたくなるタイミングだった。だが、クロの顔は真剣そのものだった。


「アレク、エルデを大型ドローンで吊って地上に下ろしてください。私はバハムートで直接降ります」


 さらりと命令を出すクロに、アレクは慌てて声を上げた。


「社長!ダメですって!ほんとにやるんですか!?」


 必死で止めようとするが、クロはまったく動じず――むしろ少し楽しげな口調で言った。


「安心してください。……今回は、本当に“いい考え”ですから」


 その言い回しに、アレクは顔を引きつらせる。


「社長の“いい考え”は怖いんです!」


 叫ぶように止めるが――次の瞬間には、クロの姿が転移と共に消えていた。


 ブリッジに残されたのは、呆然と立ち尽くすエルデと、今にも頭を抱えそうなアレクたち。


 アレクは一つ大きく息を吐くと、もう諦めたように周囲へ指示を出し始める。


「……こうなったら止まらん。アンジュ、下の大佐に“社長の機体が降りる”と伝えてくれ。ポンセ、下部ハッチの開放と固定アームの降下開始、社長の指示が入り次第、固定を解除。タンドールは大型ドローンの操縦、エルデを下ろす準備を。エルデ、ランドセルの左前方のカーゴベイで待機。ドローンが来たらワイヤーを取り付けて、落ちないようにしっかり固定してくれ」


「了解っす!」


 即座にエルデが返事し、小走りにブリッジを後にする。


 ブリッジ内には再び緊張が走る。


 巨大な影が空を覆い、ブリッジの下からバハムートの巨躯が静かに現れる。陽光がその輪郭をなぞり、雲を割りながら降下していくその姿は、ただの兵器という枠を超えていた。


 静寂の中――それは、神話の再演のようだった。

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