黒き忠誠の刃
【投稿予告】追加のお知らせ
今回、投稿したエピソードは短めでしたので、
同じ時間帯に、もう一本のエピソードも投稿いたします。
「最初の仕事だ。……気づいているよな。消してこい」
バハムートの低い声が静かに告げられる。
「――はい。仰せのままに」
応じた声は、もはやかつての獣のものではなかった。従順でも、抑圧でもない。魂から湧き出た忠誠が、言葉に宿っていた。その瞬間――ホエールウルフだった存在が、黒き残像を引きながら疾走する。標的は、すでに定まっていた。
背後。ひそかに追跡していた者――ハンターたち。
一昨日、クロに「休んでいる」と言われたことを、侮辱と受け取った者たちがいた。あくまで勝手な被害意識。それでも彼らの中では、傷つけられた“プライド”という名の炎がくすぶっていた。
昨日、クロにぶつかり、逆に転ばされた者もいた。面子が潰された。周囲の嘲笑が耳に残っていた。
――だから、集まった。
目的は、ただ一つ。クロへの“制裁”。
自分たちの矮小な誇りを守るため、数を頼みに牙を剥いた。だが、その目論見は――あまりにも脆く、儚く、滑稽だった。
目にしてしまったのだ。
ホエールウルフを圧倒し、その攻撃を受けながらも一切の損傷を見せない漆黒の巨体。そして、それを操る少女――クロ。
極めつけは――クロの機体よりも巨大なホエールウルフと、互角以上に戦う姿を見てしまったことだった。あの時点で、すでに戦意など残っていなかった。
だが――見てはならなかった。
クロの機体が、血を流していた。それは傷ではない。儀式のように、自ら裂いたものだった。
そして――ホエールウルフが、“何か”に変わった。
その瞬間を、目にしてしまった。
だから、消される。逃げる前に、もうすべてが終わっていた。
警告も、威嚇もない。ただ、気づいた時には――“それ”が、目の前にいた。
黒き獣。かつてホエールウルフと呼ばれた存在だったものが、獰猛に、冷酷に、機体へと迫る。
次の瞬間――仲間の一機が、牙で噛み千切られる。機体の装甲ごと、頭部が無惨に引き裂かれた。
別の一機は、鋭い爪で斬り裂かれた。中枢を断たれ、制御も叶わぬまま虚空を漂い、爆ぜる。
重すぎる質量が、突如として一機へ叩きつけられる。避ける間もなく、身体ごと吹き飛ばされ、壁のような隕石に叩きつけられ、バラバラになる。
残ったのは――ただ一人。
けれど、その者に向けられたのは、もはや牙でも爪でもなかった。
黒き焔。かつてのホエールウルフだったものが吐き出したのは、名を持つ技――
「……フレア」
触れた瞬間、すべてが終わる。熱もなく、音もなく。ただ、存在そのものが消えていく。
声もなく、叫びも残らず。その最後の一人も、塵となった。
こうして――目撃者は、完全に消えた。
数日後。ハンターギルドの報告端末には、数名の行方不明者の名が静かに登録される。
死の記録はない。ただ、帰ってこなかったという事実だけが、そこに残された。