動き始めた流れ
ジュンが黙り込んだのを見て、クロはわずかに口元を緩めた。そのまま視線を、いまだバズーカに夢中な二人へと向け、声をかける。
「お土産は、まだ沢山ありますので、その辺で」
場を仕切るような穏やかな一言。
「お父さんから、大まかな説明は受けていると思いますが……詳しく説明はいりますか?」
「おっと、すまん」
スミスはバズーカから視線を外し、軽く肩をすくめる。
「そうだな。ある程度は、ちゃんと聞いておきたい。ウェン、バズーカは一旦、クロに渡しておけ」
「そうだね。後で、頂戴ね」
そう言いながら、ウェンは少し名残惜しそうにバズーカを撫で、クロへ差し出す。クロはそれを受け取ると、慣れた動作で別空間へと収納した。
そして、間を置かずに話を始める。
クロは、結論からこれまでの経緯を説明した。現在把握している状況。これから行う作業の内容と、その際に発生する役割分担。そして、報酬とリスク。
クロの語り口は終始淡々としており、余計な感情は挟まれない。スミスは腕を組んだまま黙って聞き、ウェンは要所要所で声を上げたり、表情を変えたりと、素直にリアクションを返していた。
一通り話し終えると、スミスは小さく息を吐き、納得したようにジュンへ視線を向ける。
「……それで、ここに少佐さんがいるのか」
「ええ。連れてきました」
クロのあまりにさらりとした言い方に、スミスは思わず苦笑し、ウェンは面白そうに笑う。
「クロ、強引だね」
楽しげな声に、クロは悪びれもせず答えた。
「そうでもしないと、事が進みませんから。仕方がないですよ」
きっぱりと言い切るその姿勢に、迷いはない。
そして、クロは最後に状況を簡潔にまとめた。
「で、今は――お姉ちゃんの解析待ちですね」
「アヤコ、あとどの位?」
ウェンが振り向いて問いかける。アヤコは端末を操作し、ホロディスプレイにログと現在の進行状況を映し出しながら確認すると、軽い調子で答える。
「もう少しだね。プロテクトが硬かったみたいだけど、問題なく突破できたから、データの取得自体はもう終わってるよ」
指先で表示をなぞり、進捗を示す。ホロディスプレイには、対象データがすでに取得済みであること、そして指定された位置情報の解析が最終段階に入っていることが表示されていた。
「今は最終段階――居場所の解析だから……五分以内には出ると思う」
「五分か。なら、すぐだな」
コンテナに詰め込まれた残骸の中からオートマンの右腕を引き抜き、関節部の状態を確かめながら、シゲルが視線を上げる。
「クロ。終わったら、すぐに向かうのか?」
クロは一瞬、言葉を探すように視線を泳がせた。即断も出来る。だが、状況を一段俯瞰した末、慎重に口を開く。
「どうしましょうか。すぐ向かってもいいんですが……」
一拍、間を置く。
「ギルドから、賞金首データの使用許可が出ました。それを、ポンセが持ってきます。それから、ですね」
その言葉に、空気が僅かに揺れた。
「……許可が、出たんですか?」
ジュンが、即座に反応する。
「ええ。条件付きですが」
クロの淡々とした返答に、ジュンは思わず片手で顔を覆った。額に指を当てたまま、短く息を吐く。
「私としたことが……」
悔しさを噛みしめるように、低く呟く。
「クロが戻ってきた時点で、確認するべきでした。完全に、私の怠慢です」
落ち込むジュンの横で、クロは特に悪びれる様子もなく口を開く。
「まあまあ。お姉ちゃんが帰ってきた瞬間に怒鳴ったのが原因ですから」
あまりにも自然な責任転嫁だった。
「……違いますよね?」
ジュンが、顔を覆っていた手を外し、ぐっと一歩クロに詰め寄る。
「大本は、クロの突拍子もない行動に、皆が振り回されているのが原因ですよね! 確認すべきことを、あなたは後回しにし過ぎです」
「そうだよ、クロ!」
今度はアヤコが声を上げる。作業台に端末を置き、ずかずかとクロに歩み寄ると、腰に手を当てて睨みつけた。
「私が怒鳴ったのだって、クロが振り回すからなんだから!」
さらに、ジュンも畳みかける。
「まったく……自覚が、なさすぎます!」
二方向から向けられる非難。作業場の空気は、張り詰めているのに、どこか温度が高い。
「……賑やかだな」
少し離れた位置で腕を組み、クロたちのやり取りを眺めながら、スミスがぽつりと呟く。視線の先には、二人から責められながらも狼狽えることなく、クレアを肩に乗せたまま受け流しているクロの姿があった。
「これから、これに巻き込まれるのか」
「もう、すでに巻き込まれてるじゃん」
ウェンが即座に、楽しげに返す。クロから請け負った仕事や、受け取った武器の数々を思い出しながら、指を折るような仕草で続けた。
「貰った星獣シリーズとか、武器の製作とかでさ」
スミスは小さく息を吐き、クロを中心に人と作業が一つの流れになっている様子を、静かに眺めながら口を開く。
「そうだな……今までは、間接的な関わりだった」
どこか、自分に言い聞かせるような声音。
「どこか、他人事として見ていた部分もある」
一拍、間を置く。そして、ゆっくりと言葉を継いだ。
「……だが、これからは、そうもいかんのだろうな」
「……ダメなの?」
ウェンが、少しだけ不安そうに覗き込む。
スミスは首を横に振った。
「確かに、不安はある」
率直な言葉。だが、その口元には、僅かに楽しげな笑みが浮かんでいた。
「だが、それ以上に……面白くなりそうだ。悪くない」
「だよね」
ウェンは、納得したように、満足そうに強く頷いた。




